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5.家族の幸せ


 いつもの放課後。

 そうちゃん、ユキちゃん、このみちゃん、明日香と俺の5人は、カラオケ屋にいた。

 珍しく、明日香が仲間に入ってくれた。美少女は多ければ多い方が良い。良きかな。


 して――

 俺が歌う番。

 ある時はレザーバニー。ある時はレオタードバニー。またあるときはラテックスバニー。果たしてその実態は! 愛と正義の人! キューティバニーさ!

 俺の十八番はキューティバニー!

 毎回歌ってるんで、振り付けも覚えた。歌と一緒に流れてくる動画の中で踊ってるんだ。見よう見まねしていたら自然と覚えた。バキンバキンに踊れるよ!


「バニーフラッシュッ! 変わるわよー♪」

 おきまりのウインク。

「「「キャー!」」」

 3人の黄色い鳴き声。もう一人は眉間に皺を寄せて笑っていた。総じてウケが良い。


「つぎ、んキたん! えっとねえーっとね」

 ユキちゃんがポチポチと数字を入力している。

「普段男前なアオイっちが、かような色気を隠し持っていたとは。いやはや、先生も驚くしかない」

 このみちゃんが何か言ってる。

「まあね。こういう所でしか発揮できない本領ってのもあるってことさッ!」

 

 色っぽさの限界を極め中。アオイが何所まで妖艶になれるかを日夜もとい、夜な夜な試行錯誤中である。

 だってさ、アオイみたいな美少女がエロ系の歌を振り付け入りで歌うのってそそらない? 俺はそそるね。だから、振り付けもすぐ覚えられたんだ。スゴイね、雑念の力。


「6月の文化発表会はアオイっちのキューティバニーで決まりだね。うちのクラス」

「……なにそれ?」

 文化発表会って何だ? 学園祭の間違いじゃ? 学園祭は9月か10月だったと記憶しているのだが?

 そういや運動会はどこ行った?


「6月、っつたら運動会じゃなかったっけ? クソ暑い中で」

 島じゃ、炎天下の元、二人っきりで運動会やらされたもんなー。しかもフルの時間で。


「元々10月だったんだけど、ずいぶん前に6月に変わってね――」

 物知りこのみちゃんが解説してくれるようだ。

「――機嫌良くやってたんだけど、昨今の温暖化による気温上昇で毎年毎年熱中症による救急車案件が多発してね。去年から運動会は中止になったのよ。でもって、代わりの行事として各クラス対抗文化発表会、略して文化会が始まったの。基本コンセプトは文化と運動。文化文明に類される物に加え、身体を動かす出し物ならなんでもOKな発表会。クラスでアイデア持ち合って、一本に絞って全校生徒の前で発表するの」


 なんじゃそりゃ。


「ふーん、でも私は何があってもメインに立たないからね」

「代わりに誰が立つってのよ?」

 こんな話題に明日香が突っ込んできた。

「いーやーだー! こーとーわるぅー!」

「だだっ子め! それは多数決――」

「多数決に持ち込まれるようだったら内部から崩す工作してやる。どんな手を使ってでもだ!」

 最悪、壁ドン系の王子様プレイと引き替えに個人個人を籠絡していってやる!


「じゃ、碧を主人公にした悪役令嬢婚約破棄王子様物で」

「悪役令嬢をナオにして、明日香が王子様になってくれるんならピンクヘアーの男爵令嬢で出てもいい」

「難易度が高いわねー」

 明日香は諦めてくれたようだ。


 さて、なんやかんやあって、文化発表会の話はあやふやになって終わった。

 どう見ても俺は主人公タイプじゃない。精々頑張って、主人公の3人隣で突っ立ってるタイプだ。


 でもって、週末は翠とお母さんの家にお泊まりの日。


 黒のタンクトップにオレンジのシャツを羽織り、いつものミニスカで自転車を走らせる。

 後ろから覗くヤツとか、正面から股間を覗くヤツとか、吉田みたいな男ばっかりしかすれ違わない。なかに吉田が混じってましたと言われても、どれだったか分からない。


 でもって、到着しましたよーん! ピンポン鳴らしたよーん!

 だだだだって足音がしてドアが開いた。

「お姉ちゃん!」

「翠、会いたかったぞ!」

 翠ちゃんが抱きついてきた。柔らかいほっぺが俺のほっぺをグニグニする。


「上がって上がって!」

 俺を先へと押し上げる。

 階段を上がりきる直前、振り返る。翠が腰を屈めて見上げていた。なにを? 俺のおパンツだ。

「スケベ!」

 ニッと笑ってから、部屋へ入った。


「この2つの半球体が交互に動いて、白い薄布にくるまれたお姉ちゃんの大切なところに皺が寄って内股の筋肉に添ってハァハァハァ」

 翠が翠らしくない目をしている。

「どうした?」

「お母さんが買い物からまだ帰ってきてないの。この家にいるのは私たち2人だけよ」

「え?」

 見つめ合う瞳と瞳。お互いを……

 どちらからともなく腕を伸ばし、その腕は互いの背中に回り……

 俺たちは、唇と唇を合わせた。

 柔らかい。

 温かい。

 そして舌「ただいまー!」シュッバッ!


「おかえりなさーい!」

「お母さん、お帰りなさい。俺も今来たトコロなんだッ」

 あっぶねぇー。

 

 でもってお昼ゴハンを仲良くいただいてから、話を切り出した。

「で、どうよ?」

「どうよ、とだけ言われたところで、流石に双子であっても何が何やら?」

「碧、日本語には主語述語目的語というのがあるのよ」


 例の話題を持ち出した。

 最近、の俺。身体だけ担当のアオイと、心と知性担当の碧(本体)が住み分けているというお話。

 ノリ子さんは乖離性ナントカだという二重人格っぽいナニカだと言う。

 ナオは、「単にお前がスケベなだけだ」と診断を下した。


「……っていう感じでね。で、どうよ?」

「アオイというライバル出現ね」

 翠がなかなかに挑発的な目をして俺を睨んでくる。睨む相手は身体担当のアオイか? 知性担当の碧か?


「難しいお話だけど、それで具体的にどんな問題が出ているのかしら? わたしたち素人は、それの治療法より対処方法を話し合った方が良いと思うの」

 お母さんの提案は現実的だ。そうか、そんな視点があったのかと、膝を叩いた。

「困った問題としては……」

 何かあったっけ?

 首を捻って腕を組む。


 俺の中身は男で身体が女。それが人と違っているところ。

 でも、この身体があるお蔭で、女の子とキャワキャワできるし、ラッキースケベ遭遇率に至っては、とんでもない数値を叩き出している。

 そして何より、この身体を気に入っている。顔も綺麗だし、身体も綺麗だ。昨今、身体を磨くためだけに各種トレーニングを始めたほどだ。トレーニングで苦しいのは俺であり、この美少女ではないのでDVではない!

 美少女の美しい裸をタダで、何の危険性もなく、法的危険性すらなく、鑑賞できる。そして自由にできる。

 憧れの下着も自由自在。所持していても着用しても倫理面及び法律面からしても問題ない。

 頭から被ったって、クンカクンカも好きなときに出来る。……人のいない時限定である。

 着用した下着を下賜配してやることだって可能。……今のところナオだけだが。


 この身体は、エッチの対象として申し分ない。薄い本も、やたら誘導の多い静止画像サイトも、視聴したらやたら変なメールが届くようになる違法動画も必要ない。……必要ある時もあるけど、電池を節約できる。

 それと吉田なんかをからかうのも面白い。

 アオイを愛しているかと聞かれれば、愛していると答える。翠の次に好きな人はアオイだ。

 だから離れるとか拒否するとか、そんなことは考えられないなー。


「ないなー。あれ? 無いぞ?」 

 困った。問題がない。

 それをお母さんと翠に話した。


「お姉ちゃんのエッチ。でも、翠が一番なの、スキ!」

 翠は抱きついてくれた。

「えーっとね、母親として、赤裸々な告白は聞きたくなかったわ。でも、今のところ安定しているんだから、これで良いんじゃないの? あれ? これで良いのかな? お母さんの常識、間違ってない?」

 お母さんは、俺の性別に関して、意見を振りかざして介入してこようとはしない。


 俺は何とも思ってないが、お母さんには俺を捨てたという過去に拘っている。だから、俺の成長した姿に(歪んでいても)一切の意見を言わないし挟まない。俺の今をあるがままに受け入れてくれている。

 ……よく考えれば、俺のメンタルなんかよりお母さんのメンタルが心配だ。


 だがしかし、翠に関しては別だ。お母さんは翠には普通に育ってもらいたいらしい。でも、俺のためになるなら、翠を諦めるつもりでいるようだ。それならそれで、俺の心が痛む。

 こないだ、3人でぶっちゃけ話をしたその結果がこれだ。


 そんなことをつらつらと考えていたのが顔に出たのかな?

 お母さんは俺に覆い被さってきた。そして両腕でギュッと抱きしめてくれた。もちろん俺も腕をお母さんの背中に回す。


「いいのよ碧。碧と翠の幸せがお母さんの幸せなんだから。自由に生きなさい、碧」

「お母さん」

 俺はお母さんを抱いた腕に力を込めた。



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