表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/62

4.トラウマのお肉


 中間テストが終わった。

 この学校、総合順位の張り出しがある。イジメではなかろうか? 

 なぜイジメが無くならないのだろうか? それはイジメという名称が一役買っているのだと思う。

 犯罪行為。かように名を変えるべきだと私は思う。故に我あり。

「お姉ちゃーん! ほら、翠あそこ、ほら!」

「うーすげー!」

 学年総合1位、葉月翠。おまけに全教科1位だったりする。

 我が妹ながら……すげー。


「そして、睦月直央。学年4位! ほら! 4位!」

 ナオが指をさす。

「はいはい。すごいすごい」

 さして興味はない。むしろ消してしまいたい。


「投げやりだなー! アオイは5位だろう!」

「はいはい、5位5位」

 ナオに負けた。翠は可愛いからよい。ナオに負けたのが悔しい。

 国語で差を付けたが、数学で差を付けられすぎた。それが敗因だ。

 今の俺は青菜に塩のシオシオ状態。


「んなーっ! アオイっち5位! ンキたんずっと下! 3桁台なのー!」

「アオイっちが5位!? うっそ! アオイっちすげー!」

 ユキちゃんとこのみちゃんが褒めてくれた。

「え? そう? すごい?」

 いきなり気分がハイになった。キューティバニーでも一曲歌いたいくらいに!


「すごいわよ。わたしのは見ないで! 探さないで!」

 そうちゃんも褒めてくれた。

 あれ? なんか嬉しい?

「意外ねぇ。わたしも自信ある方だったんだけど13位。人は見かけによらないってこういう事ね……」

「明日香ちゃん、どういう意味?」

「褒めてるのよ、碧」

 そうかぁー↑ 褒められてるのかぁー↑


 女の子に褒められるって、気持ちの良いものだなぁー。期末はもっと頑張るぞ! 俄然やる気が出てきた!

 そして、見覚えある男子連中。塩漬けのほうれん草みたいになってる。

 これがあたりまえの男子中学生なんだろうさ。俺たちはノリ子さんに厳しく叩き込まれている。これが平均的な小学生の学習量だと丸め込まれ……もとい言い聞かされて。おのれ!


 何はともあれ。中学生活の滑り出しは順調だ。このままの成績をキープして、出来ればナオを抜かして、良い高校へ入って、良い大学を出て、一部上場建設会社へ設計士として入リ、やがては市の職員へ。

 ……民間会社で高い地位について、部下のOLにセクハラしてあわよくばな夢も捨てがたい。

 いかんぞ! セクハラは犯罪だぞ、俺!



「すごいじゃないー! 直央も碧ちゃんも! 学年一桁! 教えた甲斐があったわー!」

 ノリ子さんが手放しで喜んでくれた。

 一応保護者なので、成績は開示するようにしている。

 しかしッ! 小学校での詰め込み教育に対し、スパルタ教育に対し、断固抗議――

「そんなお利口な2人に、お金のかかったご褒美がありまーす!」

 ――世界中の人はノリ子さんに感謝の言葉を述べねばならないと思う!


「まずは直央からね! あなたが欲しがっていたゲーミングチェアーを贈呈します。このカタログの中から選んでね! ×が打たれているのはダメよ」

 ノリ子さんは、しれっとご褒美の上限を設けていた。

「母さん大好き! 僕、頑張って早稲田理工学部に入る!」


「では次に、本命! 碧ちゃんのご褒美です。じゃん!」

 どうやって隠していたのか、ノリ子さんはその細い身体の後ろから、ごつくてデカイ紙袋を取り出した。俺でも知ってるブランドのロゴが入ってる。

「ほぼ碧ちゃんの趣向ど真ん中のお洋服よ!」

 え? 俺の趣向ど真ん中? バニーっすか? メイド服っすか? それとも春姐さんのチャイナ服?!


「なんすか、これ?」

 お着替え終わって、姿見には間抜け顔の俺が映っている。

「いやーん! 似合うーっ! 碧ちゃん可愛い! ノリ子さんねぇ、娘が欲しかったのー! 仲良く手を繋いでお買い物したかったのー!」

 姿見に映る俺は……

 肩あきリボン付きブラウスシャツ。

 ピンクのベルト付きプリーツスカート膝上丈。

 黒のオーバーニーソックス。

 ピンクのサンダルっぽいスニーカー。


「あのー……これ、俺ってより、ノリ子さんの趣味じゃぁ……」

「これ着て一緒にショッピングしてくれたら、いさなりステーキでご飯してあげる」

「俺、こういうの欲しかったんッスよ! よろしくお願いシャス!」

 ステーキには勝てなかったよ。

「僕がお荷物を持ちましょう」

 しれっとナオが参加した。


 早速出かけることになった。平日の夕方ですよ!

 我が身を包む少女少女したコーデを改めて見る。姿見で。女装的意味合いで恥ずかしい。

「完璧な女装だな」

 ナオ。勘の良い子は嫌われるよ。


 でもって鏡の前で行事(ルーチンワーク)なわけよ。

 俺は男。ここに見えてる女の子は可愛い。俺は、こんな可愛い女の子になって、お外へ出かける。世の男共がこの美少女を見て、なんて思うだろうか? それを自由に出来るのは誰だ? 俺だ。げへ。

「はい! 行事(チンチン)完了。ノリ子さん、俺、いつでもOKです」

「いま、邪な気配を感じたんだけど……まいっか、行きましょう!」



 というわけで、ノリ子さんによるショッピングに連れ回された。

 ノリ子さんは、俺にかこつけて自分の服やアクセサリーを買っていた。俺も自分の新しい服を一式買ってもらった。ノリ子さんが自分用に支払った金額に比べると、雀の涙ほどだったから心は痛まない。


 さて、いさなりステーキ!

「リブ500グラム。レアで。ドリンクなし。サラダなしで」

「容赦ないわね……」

 ピンクのスカートとリボンのブラウスがよく似合う美少女が、500グラムステーキを手にし、ニコニコ顔でテーブルに着く。

 それはもうモリモリと口に運ぶ。ナイフで切って片っ端から口へフォークが運んでいく。紙のエプロンが油で汚れる。


「美少女が血と油の滴る肉を嘲笑しながら口に運ぶ。一番絵にしちゃいけない絵ね。この年頃の子は脂肪分を何より嫌がるはずなんだけど」

 ノリ子さんは少量のモモ肉とサラダセットを選んでいた。そういや、バーベキューでもモモ肉ばっか食べてた。


「俺の目からは、逆によくそんな脂っ気の無いの食べれますね? って映りますけど。美味しいんですか? カスカスのお肉って?」

「カスカス言うな! ……油が胃にこたえるのよ。どうすれば爽やかな顔で脂っこいの食べられるのか、逆に聞きたいわ!」

「……手始めに10代に戻って――」

「はったおすぞ!」

 ビクン!

 なんか知らんが怒られた。俺、何も悪いことしてないのに……。

 怒られるのが極端に怖い。

 ノリ子さんは本気で怒ってないし、すぐに元に戻ることは分かってる。でも、一瞬が怖い。

 その一瞬でビクンとなる。


「あ、ごめんなさい。碧ちゃん、怖かった?」

「いえ、ビクついたのはほんの一瞬でしたから。頭が理解するより先に身体が反応しちゃって。こちらこそすんません」

 2人で謝り合う。どちらも悪くないのにね。


 ……親父のせいだ。何も悪いことしてないのに怒られるからなぁ……教科書を声に出して読んでるだけで怒られたもんなー。あれは未だに意味が分からない。

 ちなみに、黙っているがナオもくっついてきていた。黙々とステーキを食っている。


 して――

 その夜。みんなが寝静まった頃。窓から空を見ていると、とても綺麗な夜空だった。スゴイ物は見えなかった。

 昼間着ていたブラウスとピンクのスカートをもう一度着て、姿見の前に立つ。


 ナオは「化けるなぁ」と一言口に出してからウンウン唸っていた。ヤツの頭の中でアオイちゃんはどうなっていたのだろう?

 姿見に映る美少女アオイ。とっても可愛いと思う。夜のこの空間に俺一人だけ。なんだかドキドキする。

 腕を脇に回し、そっと抱いてみる。

 手の指が受ける、柔らかな感触。

 脇が受ける、指の感触。

 碧がアオイを抱きしめる。アオイが碧に抱きしめられる。

「ふぅー……」


 さあ、着替えて寝よう。

 お洋服を綺麗に脱がせて、クローゼットにしまう。

 姿見に映るのは……下着姿のアオイ。

「翠は……」

 アオイが照明のリモコンを手に取る。


 俺が照明を落とし、真っ暗にした。


 翌日。

 ナオに噂が立った。

 なんでも、何処かのお嬢様っぽい美少女と放課後私服デートしていたと。目撃者が出ていた。

 当日の該当時刻は、俺とノリ子さんと一緒に買い物に行っていたのでヤツにはアリバイがある。

 それを公表したら、すぐに噂は消えた。やっぱガセネタだったんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ