5.中学入学
春四月。とうとう、中学の入学式当日……なんだな。
ナオと誘い合わせて登校中だ。
「アオイ、お前、なんか硬くなってないか?」
「いやー……」
ナオの鋭い目は俺の失態を見抜いていた。
「アンド、恥ずかしがってないか?」
「いやー……」
慣れてないんだ。まだセーラー服に。
女の子として見られるのが恥ずかしいのと、女の子の服を着て町を歩いてるのが恥ずかしくて仕方ない。まだ男を引きずってるし……てか、俺って全然女って気がしないし、出来ないし。
あと、スカートだな。これ。
ヒラヒラのカーテンの下がおパンツ一枚。おパンツという薄い布切れを通してお股が、外気にダイレクトに触れている。この気色悪さと、こう……変な感じが、どうにもこうにもだ。
ぶっちゃけ、風が吹いてスカートまくれて、不特定多数に見られても、俺は恥ずかしいなんて思わないだろう。
だったら何でだ、って話になる。俺にも解らん。
「アオイはさー。まだ女の子に慣れてないんだよ。女装趣味のない男の子が強制的に女装させられている、いわば、女装させられている感が強いんだ」
「うーん……言われてみれば。確かにこの感覚って女装だよ。俺、女装趣味ねぇし。それで恥ずかしいんだ」
美少年が、おとなのじょせいにじょそうをきょうよされている図。
理解した。さすがナオ。理数系だけのことはある。
「あと、スカートな。風がダイレクトアタックでスースーして気持ち悪いだろ? 僕も履いてみて解った。おパンツの上に短パン履けば解決しないか?」
「スカートの下に短パン履いてる女子ってどうよ?」
「許せない」
「俺も許せない」
「だったら仕方ないな。もはや女装に慣れるしかない……としか言いようがないな。……ネットによると、女子は悩みを話して共感してくれれば不安感が落ち着くって書いてあったけどな? どうだ? 落ち着いたか?」
「俺はダメだ。俺は解決法を直ちに提示してくれないと不安が納まらないタイプらしい」
「それ、男の脳だよ」
「男だし……あ、俺、女だった、いっけね! でもナオがスカートの欠点を共感してくれてたのが安心材料だ。あ、これって女の子っぽい?」
「どうしてだろう? 全然女性っぽく感じないのは?」
なんて事を話しながら歩いていると、いつの間にか学校へ着いてしまっていた。
校門の桜が……かろうじて3分ほど散らずに残っている桜が綺麗だ。
「なあ、アオイ。今気づいたんだけど、桜の花って下向いて咲いてるよな。なんでだろ?」
「そりゃ綺麗な花を咲かせたんだから、みんなに見てもらいたいんだろうよ」
「なるへそ」
せっかくキレイになったんだ。花もみんなに見てもらいたいよな。
「さて、行くか!」
親父と、ナオのご両親は後から来ることになってる。
俺たちは先に校門を潜った。
して――
入学式は、突如中2男子が乱入し、ギターを超絶テクで弾きだして唖然とする中、「まだ君達には早かったかな?」、等という事件を起こすこともなく、平穏無事に終了した。
この学校では、この後すぐクラス編成が行われるのだと。
クラス編成を貼りだしたボードの前は、新入生で黒山の人だかりだ。後ろの方から見るしかない。
「ほぉー。俺とナオは同じクラスだ」
「あー、睦月と如月っと、ほんとほんと」
俺とナオは、みなさんより背が高いようで、大勢の後ろからでもボードが見える。
「僕たち二人が転校生だから、学校側も忖度してくれたのかな?」
「だろうな。転校生こそッ、数多くのッ、友人とッ、交わらなければッ、ならないッ! なんて自分が出来れば他人も出来る、色んな人がいるってことを察することのない校風でなくて良かった」
俺としては女装している感覚だからな。知らない場所で初めての都会で、入学早々ボッチは辛い。助かった。
俺らのクラスは5組だ。1年全部で6クラスある。
島育ちの俺たちにとって迷路のような校舎を巡り、1年5組の教室を探し出した。事前にイオソで彷徨った経験を積んでいたので、複雑な巨大建造物などお手の物だ。迷うことはない。
適当な席に座って待ってろ、って意味の書かれた張り紙が黒板に貼ってあった。んで、後ろの方でナオと並んで座っていた。
俺たち以外は地元の小学校から上がってきた顔見知り同士ばかり。そのなかに見覚えのないのが二人。
おまけに俺らは揃って背が高いので座っていても目立つ。俺たちの存在が浮くわ浮くわ。周囲に空間が出来ている。
仲の良い者同士で小グループがちらほら出来ている。即席のバットとボールで野球やってる悪ガキもいる。……ぼっちも何人かいる。ナオと一緒のクラスになれて本当に良かったと思う。
「セーラー服さー、俺だけじゃないんだよね。着こなせていないの」
ナオの机に腰を掛け、組んだ足をブラブラさせる。
「えてして、背の低い子に多いようだ。背の高い子は着れている」
ナオの見る先。女の子3人グループだ。背のちっちゃい可愛らしい子と、肉感的な子……唇下の黒子が色っぺぇ……もはや女将さんだ……女将さんな子と、派手な顔の子だ。流石、しまむろがある都会の子。みんな可愛い。
「女の子を見るナオの目がスケベだ」
「偶然だな、アオイも同じ目をしている」
うむ! 女将さんは発育がよろしい。おっぱいもそこそこ目立つ。派手な子はおっぱいが大きい。あとは如何にしてあのおっぱいを触るかだ。
「お二人さん、仲いいみたいだけど、ひょっとして双子の兄姉なのら?」
物怖じしない女の子がいた。さっき観察していた3人グループのちっちゃい子だ。
「いや、俺……わたし達は引っ越し組さ。島育ちの幼なじみ。親の転勤でこっちへ来た田舎者だよ」
失礼の無いよう、立ち上がって挨拶した。
「へー!」
ちっちゃい子は俺を見上げている。それだけ身長差があるのだ。ちっこくって可愛い。
「へー、新人さんは閉鎖された田舎暮らしの幼なじみ。これは萌えるわね!」
女将さんだ。この子、カプ厨か?
「美男美女よ。大いに中学生活を楽しみたまえ!」
派手な顔の子までもが寄ってきた。この子一人だけスカート丈が短い。どうやったの?
パスって音。目の端でとらえた飛来物。手を出す。女将さんの頭直撃コースだったからだ。
ポスって音を立て、ボールみたいなのが手に納まる。紙を丸めてガムテで固めたボールだ。当たっても怪我はしないだろう、少しは痛いだろうけど。
悪そうなのが冊子を丸めたバットで打ったんだ。狭い教室で野球なんかやって危ないなと思ってたら案の定だった。
「よかったな少年! 女の子の顔に当たるところだったよ!」
女の子が近寄ってて狭いから、手首のスナップだけで軽く返した。
「あ、え、悪りぃ……」
ガキンチョ共は肩をすくめることで頭を下げた風に謝った。ま、いっか。被害者ゼロだし。怪我するわけでなし。
「んなぁー」
ちっこい子が口を半開きにして変な声を吐き出した。
残りの子も口を半開きにして俺を見つめている。
チョンチョンと肩を突かれた。ナオだ。周りを見ろと目で合図している。
「え?」
クラス全員の目が俺に向けられていた。