23.夜が更けていく
前回までのあらすじ。銭湯の脱衣場で服脱いでたら、文月先生と弥生さんに襲われた。
「あら、如月さん。今から?」
「うわっ、かわいい!」
「あ、どうも」
奇襲された少数部隊隊長の気持ちって……
俺は慌てない。ゆっくりとシャツを脱ぐ。おブラ姿。シャツを片手に持つ。まだロッカーへ入れない。
「先生達も、これから、ですか? ご一緒、させてもらって、良いです、か?」
ゆっくり丁寧に喋る……。
時間稼ぎだッ!
先生達の脱衣シーンをこの目に納めるためになッ! ゲッヘッヘッ!
先生達が、ロッカーに取り付かれる。
眼鏡をとって、上服を脱がれる。おほい。
俺も、自然を装って、手にしたシャツをロッカーへ入れる。
弥生さんが、おブラのホックに手を……ブロン! 何の音?
こっちを見られそうなので、俺も作業を続ける。短パンのジッパーをおろして、一息に脱ぐ。足から抜いて、ロッカーへポイ。
「やっぱり可愛いわね」
へ? 振り向くと、弥生さんがニコニコして俺を見ている。
「え、ええ、可愛いっすか? あは、あはあは……」
「弥生! わたしの生徒をからかっちゃダメよ」
先生もおブラのホックを外されて……おふぅ……! な、なんか言わなきゃ!
「先生の、大きい、です、ね。羨ましいです」
「あはは。そのうち如月さんも大きくなるわ……」
いいっす! 女の子同士の会話っぽくていいっす! 神よ、俺を女にしてくれて感謝しています。
「……わたしより、弥生の方が大きいけどね」
「やーらーしー!」
すでに……な、弥生さんは……だ。
あかん! 脳神経が焼き切れそうだ! 特に言語中枢のダメージが酷い!
おっと一手遅れている。急いで脱ごう。
短パンのボタンに指を……先生もジーンズに手を……おペロン……おほう! おとなのおぱんてぃ!
お子様スポブラを脱いで、おパンツも足から抜く。
「やっぱり可愛いわ」
素っ裸になった俺の体を弥生さんが見ている。
「いやー、見せるほどの体ではありませんよ。弥生さんと比べれば、バービーと針金ですわ。あははは!」
ぱーん! と音を立て、タオルを背中に叩き付ける。
「スレンダーね。ねえ、如月さん、下の――」
え? 下っすか? 毛はまだですが!
「――下の名前は何? お姉さんに教えてくれる?」
「碧です、アオイ!」
「ちょっと弥生! 馴れ馴れしいわよ。如月さんが緊張してるじゃない!」
何か先生の機嫌が悪い。生徒と教師とプライベートとあけすけな友達と、なんやかんやで距離感を掴みかねておられるのか?
そういう生の文月先生も可愛くてイイ!
「一緒に入りましょうよ。お姉さんが背中流してあげる」
「あ――」
――俺、今夜、死ぬのかも――
「弥生ッ! いい加減にしなさい! この子はわたしの生徒なのよ! わたしが守らなきゃならない生徒なの!」
「あはは、ごめんごめん! 冗談よ冗談! ちょっとからかってみただけ。だって碧ちゃん可愛いんだもの」
お、おとなのおんなのひとの冗談かー! 先生は何から守ってくれるのかなー?
背中洗って貰って「じゃお返しに、弥生さんのお体を洗いましょう」からの「おっと手が滑りやした。ゲヘヘヘ」に繋げようと思ってたのに! 防御不可避のコンボを発生前に防がれたッ。攻撃キャンセル技か?
その後――
一緒に入浴しましたが、お二方の後ろ姿しか見せてもらえず。……それでも狭い肩幅だとか、くびれた腰だとか、張りのあるお尻の上の方だけだとか、肌を流れる湯とか、湯船で戯れる美女だとかを堪能させていただきました。
ついでに、女子の体の洗い方も勉強させていただきました。有り難う御座いました。今夜、どうして鎮めてくれよう。
「そろそろ出ようか?」
うむ、濡れ髪を乾かす方法とか、服を着る方法とか、諸先輩方のテクニックをじっくり観察して盗まなきゃ。だって、私、女ですもの。おほほほほー!
ロビーで、ナオがマッサージ椅子にかかっていた。
俺と先生達が並んで出てくるのを見て、ぎょっとしていた。続いて悔しさに端正な顔を歪めた。
先生方がお先にと言って、帰っていった。
「くくくく、何か言いたそうだな、ナオ」
「きさまぁ! 狡いぞ! 自分のハンデを逆利用しやがって! ちくしょぉーっ! で、見たのか?」
「ラインだけは。肝心なところは全くッ」
「ざまぁ!」
「るっせぇ! 一緒にお風呂に入ったという事実は覆せない! 同じ湯に浸かったって事は、肌を触れあったも同然! おれはその思い出と共に残りの人生を生きるんだ!」
ナオの視線が斜め上を向いた。
「アオイ、ちょっと握手」
「なんだ? 俺の手の感触でヤルのか? おじさんとノリ子さんがいるから、今日はできないぞ」
手を差し出すから握り返してやった。
「文月先生が浸かった湯に浸かったアオイの手を握ると言うことは、僕も先生と一緒の湯船に浸かったという事になる。いわば間接入湯」
「男の子の妄想、ここに極めりだな。よしよし」
文月先生湯に浸かった手で、ナオの頭をナデナデしてやる。
「頭は止めろ! 右手にしてくれ。親指と人差し指の谷間に!」
「はいはい、それじゃそろそろ帰ろうか。ノリ子さん達が待ってる」
湯から出たばかりだからゆっくりしたいんだけど、遅くなりすぎるのも悪いので、早めに帰ることにした。
で、施設の外へ出たら――
「睦月、今出てきたのか? あっ! 如月さんも? あっあっ!」
吉田だ。さては俺が入る頃を見計らってたな。残念だが、すでに入浴を終えている。髪の毛も完全乾燥済みだから、風呂へ入った名残がない。
「じゃあ、吉田君、お休みなさい」
「あ、え? お、お休みなさい。あっ、お風呂でたての如月さんはとても可愛いです」
すでに歩き出しているから、後半の気色悪い部分は聞こえないことにしておいた。
さて――
俺たちと入れ替わりにノリ子さんとおじさんが銭湯へ行った。夫婦水入らずで楽しんできてください。アフター風呂を。冷えた牛乳飲むとかして。
して――
テントの中で俺とナオの2人きり。
テント上部にカンテラが1個。テント内を明るく照らしている。
「どうするナオ? 今のうちにヤッとくか?」
「そうだな……いや、吉田の急襲という目がある。ここは控えておこう。家に帰ったらいつでも出来る」
「そうだったな。吉田のヤロウ、今すぐ死んでくれないかな?」
物騒なことを祈願しつつ……俺はふと気づいた。
「なあナオ、お隣さんも2人きりじゃないのか?」
「良く気がついたアオイ。……この状況、あとはどうやって犯罪に使うかだな」
「「うーむ」」
二人して腕を組んで悩んだ。真剣に犯罪の手口を考えたのは初めてじゃなかろうか?
俺が押さえて、いや、もう一人いる。いやいや、そもそも、俺に得が何もないじゃないか?
「この話はそれまで。犯罪はいけない」
「え? どうしたんだアオイ。おまえらしくないぞ」
日頃、ナオは俺をどういう目で見ていたんだ? だいたい合ってるが。
あーだこーだと言い合ってるうちに、ノリ子さんとおじさんが帰ってきた。
「アオイ、お前のせいだかんな!」
「うるせぇ犯罪者!」
怒鳴り合う2人。
「どうしたの2人とも?」
「さあさ、これからトランプ大会だ! 花札もあるぞ!」
「よーし、徹底的にナオを裸にしてやる!」
注)点数計算用のマッチ棒が全部無くなる事を裸になるという。
「アオイこそ、裸にひん剥いて土下座させてやる!」
注)点数計算用のマッチ棒を全てまきあげることを、裸にひん剥くという。
こうして、夜中まで大博打大会(マッチ棒のね・専門家の指導の下、景品も罰ゲームも無しの、誰が見ても法的に見落としのない健全な大会)が開かれた。ちなみに勝ったのはおじさん。一人勝ちだ。
ノリ子さんを含め、俺もナオもスッカラカンになってしまった。
で、みんなで仲良く寝袋(個別で)に……その夜半の事だった。




