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22.肉祭り


 前回までのあらすじ。文月礼子先生と接近遭遇した。吉田はトイレに駆け込んだ。


 テントは10分で組み上がった。文月先生が手伝ってくれなかったら、5分で組み上がっていただろう。

「まさか、ここで顔を合わすなんて……。まさか2人だけで来たんじゃないでしょうね?」

 文月先生は始終目を泳がせていた。どう対応して良いのか迷っていたのだろう。


「私んち、お隣です。睦月家のおじさんとおばさんと一緒に来ています。私の引取先ですから、家族みたいなものです。改めてコミュニケーションを計る一環です」

 文月先生は、如月家の事情を知る1人。

 後ろ指さされるいわれはないが、これ位の予防線を張っておくべきところだろう。


「ナオは、兄弟みたいな存在ですから、間違いはまず無いかと。疑ってやらないでください」

「いえ、それは信じてますけど……」

 何か疑ってるような? 目が泳いでいる? 話はここで切り上げよう。


「先生のお連れの方、お友達ですか? 親友みたいな?」

「え?」 

 何で驚くのか? 2人の関係を推理したからかな?


「だってほら、小指の指輪。2人とも同じデザイン」

 先生とお友達の左小指に、小さなリングが嵌めてある。


「それ良いですね、かわいい? 妹の翠とお揃いで買おうかな?」

「え? そう? 気に入ってくれて嬉しいけど、結構高いわよ」

 ようやく先生が笑ってくれた。なんか、話し相手が笑ってくれないと不安になるのが俺の悪い癖だ。


「こっち、友達の冴島さん。学生時代からの同級生で、いまはルームシェアしているの」

「初めまして。冴島です。礼子がお世話になってます。よろしくね」

 ぽわぽわんとした美女。体もぽわぽわんとしている。=肉付きがよい。≒柔らかそう。=グラマー。

「ちょっとヤヨイ! 逆でしょ?」

 文月先生が怒ってる。怒り方が可愛い。先生、こんな怒り方が出来るんだ!


 それと冴島さんの名前はヤヨイさんっと、弥生かな?

 女2人旅か……いいなー。おとなのおんなのひとはお金持ってるからいいなー。


「もし困ったことがあったら、隣に来てください。私たち、島暮らしでこういったサバイバルに慣れてますから」

「僕、火起こし得意です。5分で、いえ3分でイケます!」

「早ッ!」

「……違う! そうじゃない! 火だ!」

 真っ赤な顔で言い返してきた。

「お(俺)、私は早いとしか言ってないが?」

 ニヤニヤ笑ってやる。ナオに良い格好はさせない。先生の体は俺がいただく!


「先生ェ~。火以外で早いって、何言ってんでしょうか、このエロガキはぁ?」

 さらに追い打ち。碧さん、高感度で一歩リード。

「如月さん、下品ですよ」

 先生の目が冷たい。アンダーフレームの奥で眼を細めている。……それとちょっとだけ頬が赤いようなんだが……多少はエロを想像していただけたか?


「火起こしをイケルなんて言わんでしょうに。そもそもそこから変な事を連想させるんだ。女子に」

 ナオをなじりつつ、グッジョブサインを送る。ナオはそれを受信した。ツーと言えばカーである。エロガキがッ。

「イケルから掘り下げるアオイの性癖が心配だ」

 その一言で俺とナオは正面方睨み合った。


「2人とも!」

 先生が割り込んできたが、俺たちは避けるように移動した。睨み合いながら。

「なんだよ? やんのか?」

「上等じゃないか! やってやるよ!」

 お互いの気が高まり……掌と掌を合わせハイタッチ。キスはしないよ。


 2人シンクロして笑顔を文月先生に向ける。……先生、ドン引きだ。

「すべってんじゃねー『『よッ!』』」

 よッ、のところで小さくジャンプ。今度はどうだ? ……先生、唇に拳を当てて斜め下を向いた。

 弥生さんは声を殺して笑っている。偉大なりダチョウ! 鳥類最強の2つ名は伊達者ねぇ!

 

 文月先生のお召し物はゆったりとした長袖のシャツに、ハイウエストの7部丈ジーンズ。ピチピチなので下半身のラインが丸わかり。冒険者だ。

 弥生さんはTシャツに、アイボリーのジーンズ。先生とは色違いでお揃いだ。仲良しさんだ。

 ……っと、俺は2人の女性に共通点を見つけた。

 なんて表現すれば間違いがないのだろう?

 俺の観察眼が正しければなんだけど……。

 

 2人ともお胸が大きい。


 挟まりたい。

「挟まりたい」

 今、ナオがたいへん失礼なことを言った。俺は、とてもじゃないが、その考えに至らない。


 文月先生が弥生さんと顔を見合わせている。俺たちの台詞の意味を把握しきれていないのだろうか?

 ナオのお蔭で俺たちに対する先生の防御力が高くなった気がする。それは不味い。その上がりかけた防御体勢を逸らさせる。


「吉田も来てます。バンガローです。大自然に触れて野生を解放しています。ご注意ください」

「え? ええ」

 先生の目が微細動する。

 ヨシ! 先生の防御態勢を逸らすことに成功した! 吉田はこのために神より使わされたのだな。


 

 さて、日もだいぶ陰ってきた。

「皆様お待ちかね、バーベキューという名目の大焼き肉大開を開催いたします!」

 おじさんの宣言により、焼き肉大開が開かれた。


 10㎏の焼き肉だ。それを4人で割る。ちなみにノリ子さんも肉食ですので、女性かつダイエットを愛しているのに遠慮を知りません。平等に4等分して一人当たりの受け持ちが2.5㎏となります。

 野菜は用意されておりません。


「あたぁ!」

 どさぁー!

 力強いかけ声と共に、最初のお肉が投入されました。


「焼け焼けぃ!」

 おじさんの音頭で、四人がそれぞれのマイトングを持ち、肉を広げ分散して焼いていく。



 葉月家のような、火起こし処女ではない。睦月家は火起こししないと生きていけない環境で生活してきた。

 バーナー無しで、ものの2分もあれば火炎を上げられる。バーべーキューコンロも、通常の3倍の大きさ。アメリカンサイズが常備兵器である。アムロのバズーカーである。


「はぐはぐはぐうまうまうまうま」

 控えめに見て獣のように肉を食っていく。獣辺に肉と書いて睦月と読む。

 むむ、肉に固定されたままの目の端っこで、バーベキューの準備に手こずるお隣の美女2人を捕らえた。


「はぐはぐはぐ……」

 俺は肉を食べながら、お隣のコンロで炭(備長炭)を井桁に組んでいく。いかん、肉がきれた。補給せねば。


「あぐあぐあぐ……」

 俺が抜けると、ナオが炭を割って小さくした破片で隙間を埋めていく。

 ナオの肉がきれた。補給のため後退していくナオ。


 ナオが抜けると、補給が終わった俺が、ちょびっとの着火剤に火を付け、急所に放り込む。

 見る間に炎が立ち上がっていく。

 安定化が確認できると、俺たちは肉をあさりに戻った。



「いやー、食った食った。もう動かけねぇ」

「単純計算で体重が2.5キロ増えたわけだ。体が重い」

 俺とナオは膨れた腹をパンパンしていた。葉月家のバーベキューは、同じ名前の別料理なんだ。きっと。


「如月さん、睦月さん、さっきはありがとう。これ、お礼。先生が作ったのよ」

 文月先生だ。アップルパイを差し入れてくれた。

 はち切れそうな胃袋であるが、美女の手作りを食わねば男が廃る。


「いただきます」

「ゴチになります」

 甘いのは別腹とはよく言ったものだ。スルリと腹に収まった。人体の神秘。


「こらこら。遠慮というものを心得なさい!」

 ノリ子さんだ。俺たちと同じように、お腹をパンパンしてる。違う点は、お腹の皮膚を見せながらパンパンしているところだけだ。

 そういえば、紹介がまだでしたね。顔見知りの方ですが。

 担任の文月先生を紹介すると、互いに米つきバッタみたいにお辞儀を繰り返していた。

 


 西の空がオレンジ色になり、早くも夜の帳とやらが降りてくる気配がしてきました。

 子供組と大人組が交代で銭湯へ行く。前回、情報不足で知り得なかったのだが、ここの銭湯、温泉なのだそうだ。どうりで、肌が突っ張らなかった。


 まずは子供組。性犯罪を避けて、明るいうちに行ってこいってことだ。

 ナオとは男湯、女湯の暖簾前で別れた。


「おまえ! アオイ! 卑怯だぞ! うわーん!」

「うるせぇー! 悔しかったらチンコちっちゃくしてみろ!」


 さて、脱衣場である。リベンジである。

 前回、翠とお母さんの妨害工作により、客のいない時間帯で入らされた。今日は大人の奸計に引っかかったりしない!

 さて、上手く侵入……堂々と正面から入った脱衣場に人はいない。

 全体を自然に見渡せるよう、一番奥のロッカーを使う。何処かの有名なスナイパーも、店の最奥席を好むという。あの時は意味が分からなかったが、その理由が今、分かった。

 時は日暮れ前。これから入浴客が増えるはず。現にどこのどなたかが入浴しておられる気配がある。そして、それは私の推理によると、女性客である。

 ひょっとしてひょっとしたら、文月先生か弥生さんが入浴してる可能性も微である。


 上着を頭からズボッと――。

 ガラガラガラ――。


「あら少ないわね」

「もっと混んでると思った」

 この声は?


 恐る恐る、襟から顔を覗かせると……

「あら、如月さん。今から?」

 文月先生だ。

「うわっ、かわいい!」

 弥生さんだ。




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