4.はるばる来たぜ、本土に
島を離れて、町に引っ越した。俺ん家とナオん家は隣同士となった。なんか、こう、難しいことは解らないんだけど、コダテ官舎に住めるらしい。
引っ越すまで、親父達の仕事で一騒動があった。引き継ぎが出来なかったそうだ。引っ越しするには月一の船便を使っている。その船便に次の人達が乗ってきたらしい。
何ヶ月も前から指摘していたそうだけど、お役所仕事はいつもこうらしい。仕事のマニュアルだけ渡して、俺たちは船に乗った。
仕事を継いだ人は泣いてたけど、俺たち子供の入学式とかあるんで、そこはどうにもならない。人事部長を恨めとの言葉を残して船に乗った。後は知らん。特に親父は人に物を教えるのがヘタだ。ご愁傷様。
……ところで、あの大量のハムスターたちは何に使われていたんだろう?
して――
「お前、誰?」
「オレだよ、オレオレ!」
オレオレ詐欺じゃない。俺だ。如月碧だ。
ノリ子さんに連れられて髪を切って整えてきたんだ。
出来上がってびっくりしたよ。鏡に映ってるのはショートヘアーの美少女。
すげぇわ。女の子って髪の毛アレするだけで別人になんのね。
「ナオより俺の方がびっくりしたわ!」
イケメンの、1回1万円単位でお仕事するカリスマさんにしてもらったの。「ケアーし甲斐のある髪ですね」って言われたの。
でもって……俺は、この顔の美少女が気に入ってしまった。俺本人なんだけどね。可愛いよね、てへへへ。
して――
引っ越しのお片付けを一日で済ませた(体力ぅー!)翌日。ねんがんのじょせいようしたぎを買いに、ちょいと近所の店までお出かけした。ファッションセンターしまむろだ。すげーぜ! この町、しまむろがあるんだぜ!
「おパンツのサイズはこれだ。この白いのが良いぞ、そそるぞ! それと、これ! ちょっと高いけど光沢のあるピンク。くっ、これもそそる! 色はグレーでアレだが、デザインがエッチイぞ。丈が長いのばかりという1点が気にいらねぇが、この辺を買い込んでおこう。女の子はたくさん下着が必要だからな!」
ポイポイと買い物籠へ放り込んでいく。
「でもって、ナオはどれが良い?」
「あの青と白のボーダーが良い」
「ナオ、お前ブレねぇな!」
ナオにも選ばせてやった。もし女になったら何するか? そのベスト10上位にはいるのが下着選び。(*個人の意見です)
俺は堂々と選んでいる。俺の付き添いで来たナオにも栄光を分けてやった。
「今日のアオイは光って見える」
「もっと褒めても良いんだぞ! 次はおブラだ。ナオも一つか二つ選ばせてやる。俺様のお慈悲だぞ!」
「僕、アオイが友達でホント良かった!」
ナオは泣きそうになっていた。よせよ、俺たち友達だろ?
「下着の次は、上服だ。す、すすすす、スカートも選ぼうぜ! か、かかか金ならある!」
親父から奪い取ったカードを掲げる。
「す、スカートも選ばせていただけるので? アオイ様?」
「おうよ! 俺は下僕に優しいのだ。でも他にも買いたいものあるから、1枚ずつな。次はオーバーニーソックスだ! どれが良いかな?」
「まかせろ!」
ナオの目が獲物を狙う猛禽類のように鋭くなる。
調子に乗って買いすぎた俺たちは、山のような荷物を抱えて帰宅するハメになった。
あと、コンビニでも買った。ジャガイモリコとかコーラとか快楽点とかチョコとか。
中学校入学式を直前に控えて、私服、鞄類、教科書類、その他小物類の準備は万全。残りは――
制服。
ナオは、オーソドックスな詰め襟の学生服。
そして、俺は――
現在、俺の部屋で、ナオと一緒に正座している。とある神器を前にして。
「セーラー服かー」
「セーラー服だよなー」
セーター服と襞々スカートを前に、無言の二人。
「セーラー服かー」
「セーラー服だよなー」
何度目の繰り返しだろうか?
俺んチの中学はオーソドックスなセーラー服だ。白いスカーフのタイプ。
うちのガッコのスカート丈なんだが、膝小僧が見える。
「スカート丈が短すぎやしませんか?」
「アオイ以外の女の子も短いスカートだろ?」
「むしろウエルカム」
「ウエルカム・ショートスカート」
また、無言の時間が続いた。
「これ、アオイが着るのか?」
「何なら、ナオが着るか?」
「うーん……人生で二度と無い体験を僕は経験しようとしている」
何事も経験だ。ナオは一式着てみることにした。
シャツを脱いで、ズボン脱いで、懐かしの男物パンツが出てきた。
上を着て、スカーフまいて、襞襞スカートを履く。ナオの身長もあって、膝丈だ。
どうしても太ももに目が行く。ナオが男だって知ってるのに、目が太もも内側へと行く。男の性だ。いや、俺、女だった。
「どうだアオイ?」
「うん、よく似合ってるよナオ。むしろそそる?」
ナオは大きな姿見にセーラ服とスカートを身につけた自分を映した。姿見は、ごねて親父に買わせた、全身が映せる一品だ。あれ以来、親父に容赦の一欠片も持ち合わせないことにした。ノリ子さんの許可も得た。
「我ながら、イケルんじゃないかと思う。じゃ、次、本番な。アオイな!」
「おう! 早く脱げ脱げ!」
ナオは急いで脱いだ。
俺もシャツ脱いでズボン脱いで、パンツとおブラになってから袖を通す。相変わらず、スカートが、こう、変な感覚を誘ってるんで気持ち悪い。
姿見に映すと……結構イイカンジじゃないか? 女の子だよ、カワイイ女の子が俺を見てるよ!
「どうだ、ナオ?」
「よく似合う…よ……。失礼かも知れないが、僕の方が似合ってなかったか?」
「うん似合ってた。ナオの方がスカート短くて、ドキッとした」
「アオイも短くするか?」
「すとん体型で短くする意味あるか? 短くするのは、もう少し成長してメリハリ付いてからだ」
「……だな。いや、なんか僕、すっごい失礼なこと言ってるみたいだ」
「そうか? こっちは全然だから気にするな。むしろ、俺、育つかな?」
「そりゃ育つだろう。あ、でも、大きくなっても、すとん体型な女の子もそそる」
それもそうだ。男として充分そそる。いや、俺、女だった。
「楽しみ半分、恐れが半分」
セーラー服の予行演習終了。皺にならないよう丁寧に脱ぐ。きれいに畳んで柏手打って仕舞っておく。
「あれ? 今更だけど、アオイ。おまえ、もうこないだ買ったおパンツを履いてるん?」
「おう! 夜中に一人でこっそり全部はいたけど、この白のが一番グッと来た」
しまむろで最初に選んだ白いおパンツだ。丈が短めで、でも、大人の人のよりは長めで、お股の切れ込みが比較的深くて、でも大人の人のよりは控えめで、見ててエッチな気分になれる。エッチな道具にもなる。
それを履いてるってだけで、なんか変な感覚がある。こう、……身が引き締まるような? 実際、一つ下のサイズを選んだから、ぴっちりとして引き締まるのだが!
「アオイはプロだな。……いつか俺の縞々も履けよな!」
「めんどくさいんで、今履くわ」
籠のパンツ入れから縞々を出してナオに放り投げる。ワチャワチャしながらもナイスキャッチ。
白のをおろして、足から抜き取ってベッドの上にポイ。ナオから縞々を渡してもらって足を通し、引っ張り上げる。ぐいぐい。
「どうだ? イケルか?」
屈伸運動をしてからくるりと一回転。「ジャーン」って声出してカンフーの構え。
「うーん……あ! ちょっと聞きたいんだけどアオイ、お前さー、僕の目の前で履き替えるか? 恥ずかしくないか?」
「えー? 尻向けてたからなんも? それとも興奮した?」
「それだ! アオイの尻を見てもなぜか興奮しない」
「だったら、……何か問題あるか?」
ナオは腕を組んで小首をかしげてしばし固まった。おもむろに口を開く。
「それもそうか?」
「興奮するようになったら、どんな仕草に興奮したか言ってくれ。客観的見地として参考にさせてもらう」
「また難しい言葉を。……僕にレポートさせる気か? まあいいや。そんときは言うわ。おっと、もうこんな時間だ。僕帰るね」
「おう! じゃ、また明日! 手の中のおパンツは置いていけ」
ナオは……いそいそって感じで帰っていった。何か急用を思いだしたのかな?
うーん? うーん? うーん?
あっ! あのヤロウ!
さては、コンビニで買ったエロ漫画が気になったな!