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18.葉月家、キャンプ前夜祭


「ゴールデンウイークが終わったら、中間テストの準備に入る。遊び惚けた心根を引きずってはいけない。アオイ、おまえに言ってるんだ」


 うちの学校、5月の20日過ぎから中間テストが始まるのだ。

 連休が明けたら、2週間弱、1週間強でテストが始まる。

 人生初めての中間テスト。落とすわけにはいかない。遊んでばかりいられない!


「ンで、前半は翠とお母さんと遊びまくって、後半はナオ達と遊んで締めくくる。翠は早いうちに準備に取りかかりたいと言っていた。おれもそれがいいとゆった」


 今年は前半が3連休で、間に平日を1日挟んで後半が3連休だ。後、1日飛んで土日。まあまあ手強い連休だ。俺的には、もっと手強くても大丈夫なんだが。むしろ、もっと手応えのある相手と対戦したいほどだ。


「言っておくが、潮干狩りは無いぞ。貝の減少だとか貝毒だとかで潮干狩りができない。……父さんのことだ。いいとこバーベキューだろう。それとも芋洗いを覚悟でデゼニーランドに行くか? 入場料クソ高いけど払うだけの価値があったと働いてもいない吉田が言っていた」

「混んでるのとお高いところはパス……俺、吉田にタダで連れてって、と、お願いしたら、あいつなら連れていってくれるかな?」

「資金工面のため万引きとか、黒いバイトに手を出しそうだから止めてあげて」

 じゃ止めるか。


 俺は元々人気の全くない島(島民4人)育ちなので、基本、大勢が集まる場所が苦手だ。渋谷のスクランブルとハチ公前で吐きそうになってた。ナオも青い顔をしていた。


「母さんと父さんが、なんか画策してたから、その発表を待ってから吉田を嵌めても遅くないと思う」

 たぶん今夜発表だろうから、そこまで吉田は生かしておくか。イヒヒヒヒ!


「小悪魔め! ちなみに、妹ちゃんと、どこへ行くんだ?」

「お母さんのたっての頼みで高原にてキャンプ・アンド・バーベキューに決まった。本格的なキャンプ、初体験だ」

「おいおい、被るかもしんないぞ!」

「早々に被るはずなかろう?」


 

 そして夕食も後半。おじさんから発表があった。

「今年のサプライズ連休企画はテントでキャンプだ! に決定いたしました!」

「「被った」」


 がっくりと肩を落とす俺とナオ。ナオまで落とすことなかろうが、これは俺をおもんぱかっての事だろう。……あと、チープな予想が当たってしまったってところかな?   


「え? どうしたのみんな? 肉だよ、肉! 10㎏もの肉を用意したんだよ!」

「うわー! たのしみぃー!」

 そう、肉に罪はない。


 前半は、お母さんと翠とキャンプでBBQ。

 後半は、ナオん家のキャンプでBBQか……。

 (につく)食えるから良いか! にっく!

 

 そして、前半の連休。

 1日目はお母さんの家で家族団らん。2日目の朝に出発。1泊して、3日目に帰宅の計画。

 計画は、お母さんと翠がキャイキャイ言って作ったらしい。キャンプとかBBQをやったことのない女の子2人でだ。……そこはかとなく失敗作の予感がするのだが……。


 行き先は模糊高原の近くの蜜杖高原キャンプ場。……という所。俺、島育ちなんでこの辺りの人知れぬ有名スポットは知らない。


 布製のテントで女3人寝るのか? 用心悪くない? って恐る恐る聞いたら、鍵のかかるちゃんとしたバンガロー……丸太小屋だな……で泊まる予定だと答えられた。

 いくら何でも布製市販テントで女子3人が、手足の自由が利かない寝袋に入って一夜を明かす。なんて事は考えてもいないとの事。逆にそんな思考が出来る俺を「女子初心者」として、指さしたうえ、あざ笑う始末。

 口答えはしなかった。俺は2人をもっとお馬鹿だと思っていたのに割とまともな計画だったからだ。

 お姉ちゃん、安心したよ。


 でもって初日。葉月家でお泊まり会、並びに、明日以降のキャンプの用意が始まった。


「お肉とお野菜と果物は買ってあるわ。碧ちゃんは着替えと身の回りの品だけで充分ですからね」

「炭も網も買ったし、おやつとかジュースも買ってあるし、トランプも準備できたし、あとはお姉ちゃんを持って行くだけ」

 きゃいのきゃいのと姦しく荷物をバッグに詰め込んでいく。クーラーボックスも大きいのが用意してあった。毛布だの着替えだの、なんやかんやの大荷物だ。


 葉月家は車持ちだ。お母さんが運転する。だから大荷物でも大丈夫なのだそうだ。そこはかとなく不安を感じるが。

 1600CCの……小さいボンネットがあって、後ろがハッチバックになってる赤い車。俺、車に詳しくないんで、箱車じゃないことだけは判断できる。

 俺の知ってる車は、カウンタックとハイエースだけだ。そうそうナイト2000ccとデロリアンってのも知ってる。全部外車だ。

 食料以外の荷物を先に積み込んでいく。力仕事は俺の受け持ち。どんどん積むよ!

 

 晩ご飯はカレー。俺が芋の皮を剥いた。

 葉月家では圧力鍋を使う。圧力鍋の使い方を知らないので、マウントを取った顔をした翠が火の番をしている。ちなみに、肉はコラーゲンたっぷりのスジ肉ね。


 さて出来上がり。白い御飯に黄金をかけていく。赤い福神漬けを添えて完成。俺、らっきょの酢漬けが苦手なのでいつも福神漬けだ。酢の物全体が苦手なんだ。なぜか、にぎり寿司は好物だ。あと鉄火巻きも。


「カレーは旨い食べ物だ」

 スプーンでカレー:御飯=1:1をすくって口に放り込む。

 うまうまうまうまうまうまうま!


「お姉ちゃん、カレー食べながら笑ってる! おっかしー!」

 翠が笑う。


「親父と食べてたカレーは、ルゥを1人前当たり1個しか使わなかったからな。小麦粉を使わしてくれないからシャブシャブなんだ。あと、御飯がお粥になってないのが良い。ジャガイモが小指の爪大じゃなくてゴロゴロしてるのも良い。ニンジンが金時人参じゃない。お肉が1センチ四方以下になってないのが良い。ああ、なんか言っててしんどくなってきた……」

「碧ッ! しっかりして! もうお父さんはいないのよ。カレールゥは3種類混合でたっぷり使ったから! お肉はスジ肉の塊使ってるし!」


「お姉ちゃん、気を確かに! ジャガイモもゴロゴロしてるし、ニンジンも市販のだし!」

「う、ううう。食べる気力が……俺を甘やかして」

「はいアーンして、アーン!」

「あーん!」

 パクリ。うまうま!

 美味しい! 一噛み毎に力が溢れてくるぅー。


 カレーって、こんなにコクがあって味が濃くってドロッとしてて美味しい物だったのかー……。

 これに比べれば、親父と作った(親父の指導と監修で)カレーは、カレー風飲み物だった。カレーは飲み物って公言していたタレントがいたけど。ウチのカレーはメシ込みでマジ飲み物だった。


 「噛んでると自然に喉に入るだろ? だから、固形物は胃のこなれが悪い」。そう言って憚らない親父。

 俺が、「飲み込むのに意志の力が必要だけど」って言ったら、激怒した親父。あの怒りによる愚痴は7日間続いたっけ。

 母の作るカレーが、俺を親父の呪縛から解き放ったのだ。


「料理も離婚の原因の一つだったけど、改めて聞き直すとすごいわー」

 お母さんが暗い思い出に浸っていた。何処か他人事なのは、それだけトラウマを回復させているって事だ。

 酷い思い出ほど、克服すれば面白い話になるって本当なんだな。俺、未来のお笑い伝道師かも。


「はい、福神漬けよお姉ちゃん」

「ううう、ポリポリポリ……ふく、うま……」


 もちろん、福神漬けも「あんなの噛み切れない。砕けても胃でこなれない」とか言って食べさせてくれなかった。ナオん()でこっそり食った福神漬けは美味かった。レンコンとベーコンの炒め物もカリコリいって美味かった。硬いの食わせろ、オラー!


 晩ご飯は、甘やかされて食べたのだった。


 片付けも済んで、お風呂。

 上着を脱いで、おブラ姿。生意気にも、後ろのホックで留める本格的に色気付いたおブラだ。

 このホックがね、こう、取りにくくって……

「外してあげる、はい」

 翠に手伝ってもらった。開放感、というほど張りつめた胸じゃない。涼しくなった、という程度の開放感。

「ありがとう……え?」


 翠が脱衣場に入ってきていた。俺のおブラのホックを外した?

 振り向くと、にこにこ顔の翠が立っていた。


 そしてすっごく可愛い声でこう言った。

「お姉ちゃん、オッパイ見せて?」

「ばッ……ばっきゃろー!」

 血圧が190を越えた俺は、翠の肩を掴んで180度回転。脱衣場の外へ押し出した。扉に鍵は……あった! ガシャンと音を立て鍵をかける。


 ドアの外から声だけが聞こえる。

「お姉ちゃん! 冗談だって! お姉ちゃーん! 背中流してあげるからー! ここ開けてー!」

「翠ちゃん。ちょっとこっちらっしゃい」

 ……お母さんに連行されていた模様。


 つい慌てて翠を押し出したけど、……惜しい事したかなー? 一緒にお風呂はいるって事は、翠も裸になるんだよなー。

 全裸。

 最強の言霊。その霊験あらたかな力には悪霊といえどあがなえない。アストラルサイドで1分前の俺を殴っておいた。

 

「ふー、お先ーッ!」

 湯気を立てて風呂から出てきた。パン一、ブラ一でうろついてから冷えた麦茶を飲む。

「つぎわたしー!」

 ポンポンと服を脱ぎ散らかしながら、最後は下着姿ウホッでお風呂場に消えていく翠。……ひょっとして、俺を誘っているのかな? 人間、臆病になると判断力が低下する。


 一緒に入らなくとも、脱ぎたてのおパンティなんかを鑑賞することぐらいなら……。温もりのある家庭って大事だと思う。

 よし!


「碧ちゃん。不純異性交遊は、お母さん許しませんからね」

「はい」

 お母さんの笑顔が圧をかけていた。

 

 でもって、今夜も翠のベッドで並んで寝た。

 いけない期待を僅かばかり持って。翠に嫌われないよう細心の注意を払って。……お喋りに興じた。

 たわいもないことだ。

 なんかの花が咲くけど、可愛いねー、だとか。どこそこのキャラが可愛いねー、だとか。クラスの誰それ君と誰それさんが絶対怪しい、だとか。


 そして、いつの間にか2人とも寝オチしていたようだ。


 朝日で目が醒め、顔のすぐ横に翠の顔がある。こっちに顔を向けて寝ている。規則正しい寝息を立てている。存在感。体温。


 幸せって……。

 



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