16.男の子、女の子
吉田達が帰った。
なんも挨拶しないのもアレなもので、窓から顔を出した。
きっちり、こっちを見ていた。笑って手を振ったら、猿みたいにはしゃいでいた。
あいつらの行動……翠に使える……。
「おーい、ナオ。数学の宿題の答えを教えてくれ!」
「解き方じゃなくて答えか?」
吉田達が帰って行った後、ナオの部屋に足を入れた。こう、臭う。油と汗が混じった臭い。男の臭いだ。好きになれない臭い。
「臭ぇ」
鼻を摘んだ。
「だと思って窓開けて換気してる。窓を開けてだ! その姿、お向かいさんの2階から見えるぞ。あそこ、小学生の男の子がいるだろ!」
俺はパンツ1枚、ジュニアブラ1枚(色気無いやつ)で、ナオの部屋に入り込んだ。(白ソックスは履いている)。
「……ナオさ。おまえさ。このあわれもない姿の俺を襲ったりしないの?」
「あられもない姿な! 僕は襲わないな。理由はこの前言っただろ? でも吉田だったら僕を殴って排除してでも覆い被さるだろうな」
「やっぱそうか……」
ベッドに腰を下ろす。
「今夜、吉田達は遅くまで起きてるだろう。明日は寝不足だ。……解ってるよな、その意味? 原因君よ!」
「うん」
おかずだな。……このおかずまでカロリー摂取量に含まれたら、吉田達は肥満児となろう。
「そんでもって、アオイが腰掛けてるベッド。いや、おパンツを直接触れさせているそこの部分! それだけ切り取ったら吉田が買うぞ! あいつ、アオイのサドルを売ってくれと騒いでいたくらいだからな」
「あー……」
言われてみれば……同感だ。ハァハァする。……でも、言われるまでピンと来なかった。
指摘されなかった場合。あとで、時間が経って、思い返してハァハァするだろう。同じ反応をするにはするだろうが、時間差が存在する。
……翠や明日香がソレやったら、即反応する自信がある。……あれ? 普通に男だ。
「それと、言いにくいが、僕はさっきまで連中と猥談に興じていた! 残り火が灯っている。できれば服を着て欲しい!」
ナオのテンションが高い。こいつも男だって事だ。
「襲う?」
「至高る!」
「何か着てくる」
腰を上げたら、途端にナオがベッドに顔を擦りつけてきた。
「まだ温い」
なるほど。猥談の残り火が燻っているからの高いテンションだったのか。
厚めのトレーナーを着て、ズボンを履いた。ブカめのズボンだ。ベルトをギュッと締めている。ナオの中の男の子対策である。……「ここまでしてくれたら僕も安心だ」とナオが言ってた。
でもって、ナオに数式の何であるかを教え込まれている。俺がナオの椅子に座って、ナオが横に立って教えているという図。家庭教師か?
いつもより厳しい教えだ。いつもよりアドレナリンが出てるんだろう。だが、徐々に理解できてきた。
「アオイの場合、理屈や理由は頭から追い出して、同じ式を何度もノートに書いて手で覚えるのが良いと思う。たくさん解いているうちに仕組みを憶える。後は、式に数字を入れて計算するだけの簡単なお仕事だ」
「なるほど。じゃ、後は自分でやるわ」
教科書やノートをまとめて手に持ち、椅子から立ち上がる。
ナオが今で俺が座っていた座席を眺めている。
「……椅子に顔を擦りつける?」
「もちろん。その為もあって宿題に付き合ったんだ」
俺の尻が発する体温を椅子が吸収している。その熱で自家発電するつもりだ。いわゆるエコ発電。
「まあ、頑張れ。それと夜は早く寝ろ」
「いいから! ここは僕に任せて、アオイは早く行け!」
「ナオ、晩ゴハンに必ず合おう!」
「フッ、すぐに行く」
椅子に顔を乗せてグリグリしているナオを残して、俺は部屋を出た。宿題という敵を倒すため!
俺の部屋で、数式を書き連ねている。ノートの半ページも書けば、解き方のルールを覚えた。
「なんだ、簡単じゃん」
解き方は簡単だ。たった一つだから。余計な思惑だの、深読みだの、作者はどう思っているのかだのは要らない。それが数学。
回答は一つ。そこへ行く手だても一つ。作者によって、季節によって答えが違うなんて事はない。式に起承転結もなければ記述トリックもない。
だから――
「つまらん」
開けていた窓を閉める。カーテンも閉める。
秘密の場所から御神体を取り出す。翠のおパンティだ。
ベルトを解き、ズボンを脱ぎ、おパンティを脱ぐ。
翠のおパンティに足を入れる。一番上まであげる。
何度か屈伸運動。フィット感を確かめて、ベッドに腰掛ける。
答えは一つなんだろうか?
俺が求める答えは一つなんだろうか?
2つとか3つとか4つとか……4つは多すぎるな……正解が複数有る、なんて事にならないだろうか?
俺は女だ。
男だと言い張っているが、ハッハッの対象は女性オンリーだが、イチャイチャしたい相手は女性だが、それでも……本物の男じゃない。
俺が思う本物の男は、吉田に代表される、男の器官を備えた肉体を持つ男だ。……語弊があったらごめんなさい。でも、12歳と11ヶ月の子供が考える男はソレなんだ。
女体に対し、スケベな気持ちは人一倍持っているという自負がある。こっそり見る、年齢的に見てはいけない動く画像を見て興奮する。最近はみっしょなりーがお気に入りだ。
体の構成が違うだけで同級生の男子と同じだと思っていた。
吉田達の恥ずかしい行動を肉眼で見るまでは。
あそまで酷いことは出来ない。あの思いつきは天才だと思った。
タマタマに支配される気持が解らない。
翠を、俺が翠を愛しているという気持は、劣情から来てはいないか?
恋に恋してフォーリンラブしてないか?
そんなことはない。妹であることが俺にブレーキを掛けて、こんな後ろ向きなこと考えているのだ! とも思う。
本当は、ちゃんと愛しているのに、余計な知恵が俺を怯えさせてはいまいか?
……ほら、答えが3つでてきた。
ベッドから立ち上がる。いままで座っていた場所に頬を当てる。生暖かい。
美少女のお尻を乗せていた場所とその体温。
「スコーーー」
俺は自分という美少女が大好きだ。見た目にエロいから。
ここは、エッチな布きれを一枚通して、美少女の秘密の花園が触れていた場所……。
……なるほど、これはイケる。
再び立ち上がる。
履いていた翠のおパンティを脱ぐ。
頬に当てる。ほんのりと温かい。
「スコー………………」
……これはイケルのではないか?
いや、お前おかしいぞ、とかではなく!
ナオは夕食に間に合った。
ずいぶんスッキリとした顔で、憑き物が落ちたような顔で、楽しく御飯を食べていた。ノリ子さんやおじさんとも会話が弾む。
俺も、スッキリとした精神状態で夕食に挑んだ。ナオが言うには、憑き物が落ちたような顔らしい。ノリ子さんやおじさんとも会話が弾む。
中学生らしい爽やかで未来志向な会話だった。
今まで何に悩んでいたんだろう?
翌日は土曜日。
月に一度のモノが始まった。




