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15.男の子


 ベッドの下に隠しておいた鞄を取り出して、廊下に顔を出す。ドアを閉めていたら、開閉で音が聞こえるから半ドアにしておいたのだ。

 安全確認の後、こっそりと1階へ下りる。下駄箱からくつを取り出し、上がり口にセット。


 セーラー服ヨシ! 見落としナシ!

 玄関ドアを開けて勢いよく閉める! バタン!


「ただいまー!」


 ドタドタドタ!

 2階から物音が聞こえる。何慌ててるんだ?


 トタトタと足音を立て、階段を上がる。

 ナオの部屋のドアが開き、ナオが顔を出す。


「おう! 今お帰りか?」

「だよー」

 すれ違い様、部屋の中を見る。

 吉田達がお行儀良く座っている。目だけで俺を見ている。不自然。


「おや、おそろいで。それじゃ!」

 軽く手を振って、笑顔を添えて、俺の部屋に入る。


 セーラー服を脱いで着替えるわけだが……壁を通して視線を感じる。気のせいだと思うけど、推理と予測の賜物だと思うけど……連中の集中力により見られている気配を感じている!

 思うに、予想するに、俺の着替えシーンを透視しようとしている。或いは聴覚を頼りに脳内で映像化しようとしている。

 おそらく後ろだろう。


 この年齢の男子は、特殊能力(ギフト)を持っているから気をつけなさいとノリ子さんに注意されている。羨ましい能力だ。あいつら転生者か?


 お着替えの前に、コップで盗聴を試みる。

 コップに耳を当て、わざと鞄をベッドに放り投げる。


『今音が聞こえた! きっと如月が脱ぎだした音だ!』

 吉田だ。

『下着か? 如月は下着姿か?』

 岸だ。

『今入っていったらラッキースケベが!』

 佐藤だ。

『止めろバカ! 次から警戒されて何も出来なくなるぞ』

 ナオだ。

 うん。バカだ。


 バカなりに可愛い。ならば、ご期待に応えてあげるのが良い女である。俺は男だけど。

 なるべく音を立てるようにして着替えた。……音ったって、小さな衣擦れの音だし、薄いとはいえ壁を挟んでいるし、どうやって拾うんだ? コップ使う盗聴でも、人の声を拾うのがやっとだぞ?

 お着替え終了。制服はクローゼット……乱雑だ、後で整理しよう。整理なんか簡単だ。右から左へ置き直せばいい。


 俺の部屋着はトレーナーに例のミニスカ。ジーンズ生地のタイトスカートだ。

 素早く静かに飛び出して、ナオの部屋のドアを開ける。


「おーい!」

「うわっ!」


 ナオを除く3人が跳びはねた。俺の部屋側の壁にへばりついていた。やっぱり聞き耳を立てていた。

 俺は部屋の中をじろりと見渡す。ばつが悪そうにしている3バカ。何を言われるか、その予想に身を強ばらせている。


「なんだ、飲み物一つ持ってきてないのか? ナオは気が利かないなぁ」

 予想された台詞と違って、ホッとした表情を浮かべる3バカ。分かりやすいな。


「どれ、親切なアオイさんが持ってきてしんぜよう!」

 ダダダダっと階段を下りる。

 ナオは見た目に寄らず、こういった方面に気が利かない男だ。多分そうだろうなと思って飲み物をすぐ出せるように用意しておいた。


 すぐさまジュースセットをトレイに乗せて、2階へ駆け上がる。

「お待たせ」

「早っ!」

 俺が下へ降りている間に何かやましいことをしようとしていたのだろう。部屋を出る直前のポーズで固まっていた。


 そして、俺を頭の天辺から足首までスキャンする。上はトレーナーでざっくりだが、下はすげぇミニのスカートで太もも剥き出しの生足。おまけに裸足にスリッパというラフモード。

 ごく不自然な動作でもって、各人、それぞれの場所へ散って座る。ナオは机の椅子に、岸は床に、吉田と佐藤は、ベッドに並んで腰を下ろした。


 そんなアレヤコレを気づかないフリして、ズンズンと部屋へ入り、トレイをベッドの上に置く。

 そして腰を下ろす。ちょうど吉田の隣だ。隣が空いてて良かったな、吉田。


「オレンジジュースで良いか? これしかないんで拒否は許されないけど?」

 答えを聞く前にコップに注いでいく。


「はいよ」

 まずはナオから。次いで床の岸に。……岸の位置からだとスカートの中が奥まで見えるだろう。薄い布地までは見えないだろうが。


「回して」

 吉田に手渡す。佐藤の分だ。

「で、吉田君に」

 最後に渡したのは吉田。渡す際、ちょいと股を開いて生足をチョンと吉田の足に接触させる。スカートが広げられ、素肌が触れるのだが、相手はズボン越しだ。さて、判定は如何に? 答えは聞いてない。


「え、けひょ、お、ありがほぉ」

 声がうわずってるぞ吉田。

 美少女が隣に座ってるんだ。こんな経験、おまえの一生に一度だけだぞ。今夜が楽しみだな?


「アオイ」

 ナオがジト目で俺を見る。ふざけすぎ! とされる目だ。


「で、何の集まり? 何やってるの?」

 からかうのはここまで。すでに足は離している。吉田のお隣に座ったままだが……岸と佐藤が吉田を見る目が殺人者のそれだが。


 コノヤロウ、って目をしながらナオが代表で口を開いた。

「ゲームでもするか、って話してた」

 まさか、俺のおパンツ鑑賞会です、とは言えないしな。


「き、如月さんは――」

 話の流れをぶった切って吉田が声を張り上げた。顔が真っ赤。ありったけの勇気を振り絞ったのだろう。

 おまえはこう言う。「ゲームするんですか?」とな。俺の答えは決まっている!

「――、家ではいつもそんな格好なんですか!?」


 ズルー!

 転けた(肩を振るわせた)のは俺とナオだけ。残りは目を輝かせた。

 空気読めよ、お前ら! 女の子に一番嫌われる事してるんだぞ! ひくわー!


「……あれ? はしたない格好だったかな? じゃ、引き上げるね」

 立ち上がろうと腰を浮かすと、男共は全員慌てた。――ナオは笑って見てる。


「あっ! あっ! 格好いいです! いつもよりセクシーです!」

 だから墓穴掘ってんじゃねぇよ!

「セクシー↑」

「あっあっ生足が綺麗です! あっあっ!」

 深く掘りすぎだろ! コイツなんか面白れぇ生き物だな!

「足ばっか見てんじゃねぇ!」

 格好いいスカート見ろ、スカートを!

 注意、1点減点。


「顔も綺麗です!」

「どこまでも面白い生き物だな」

 つい口に出して笑ってしまった。

「あっいっうっ!」

 面白いという意味を取り扱い損ねて、あたふたしておるわ!

「ナオ、私は宿題するわ。結構出てただろ? みんなゲーム止めて勉強会にすれば? もうすぐ中間だぞ」

 俺は、笑いながら部屋を出て行く。宿題が多かったのはマジだ。


 吉田達をからかい終わったら、真面目に宿題をする予定だったので、寄り道せずに……その前に2階のトイレで用を足してから、部屋に籠もった。

 トイレを使った後すぐに、吉田達がトイレに入っていった。……そこまで考えが及ばなかった、迂闊。

 

 机に向かい、数学の宿題を片付けていこうとしたけど、難しいので頓挫。英語に替える。

 隣からワイワイと声が漏れてくる。不明瞭な音声なので何を言ってるのかまでは分からない。人の声であることだけが判別できる程度。

 たまに俺の名前が漏れて聞こえる。自分の名前だけは鮮明に聞き取れるって、不思議。

 男同士でY談に興じているのだろう。……お下劣なんだろうなー。楽しそうだなー。……混ざりたいなー……。


 ……実を言うとね……


 今日、吉田達を部屋に呼び込んだ悪戯は、目的が有ってのこと。

 それは本物の観察。


 俺は男の体を嫌悪し、女性の体にハァハァする。そういう生き物だ。

 男だと主張している。でも、本物の男じゃない。肉体が女なので、本物の男には、あと一歩及ばない。吉田達を見ていて理解した。

 前にも言ったけど――ノリ子さんの受け売りだけど――、この頃の男の子は成長ホルモンの関係か、タマタマが肉体に及ぼす影響力が大きい。もはやタマタマは寄生生物。

 それは仕方ない。

 男なんだから仕方ない。……その後、どうするかが問題なだけだ。


 俺は男だ。そうなんだが、……。

 タマタマが無い。


 部屋に潜んでタマタマ小僧代表の吉田達を観察したのは、つまるところ、本物の男の行動を観察するためだ。

 観察した結果。

 ショックを受けた。


 行動は予想通りだった。おパンツ類にハァハァし、ご対面に喜んだ。それは予想していた。

 何が違ったのか? それは反応の強さ。

 俺が吉田だったら、……においを嗅ぐまでは同じだろう。でも息を止めたりはしない。下着周辺の空気を肺へ永久に留めようとなどと思いつかない。それもおパンツでなくブラジャー類の引き出しで。……なんでブラジャー?

 吉田達は俺とは全く別の生き物だった。あれが本物の男だ。

 容易に犯罪に手を染めてしまう生き物。将来を考えず、タマタマに支配され、動かされる動物。

 俺はそこまでしない、できない。発想がない。発想とか言ってる時点で違ってる。 

 

 ……俺は……何者なんだ?



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