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14.変質者


「な、なんだって?」

 吉田が驚いていた。


 4月下旬の金曜日。いつもの教室。いつもの昼休み。

 俺の背後。数メートル後ろで、ナオ達バカグループが、いつものように騒いでいる。

 いつものように話題は俺だった。

 違っている点を上げれば、吉田が情弱者だったってことか。


「なっ! 如月と睦月が、同じ家に住んでるって?!」

「それ、知らないのは吉田だけだ。その分だと事情も知らないだろ?」


 横目で吉田を追いかけているんだが、なんか、こう、マンガの「がーん!」みたいな顔をしている。

 この事を文月先生が居られる前でカミングアウトしたときは、クラス騒然となったのだが、なんで吉田は知らないんだ? かなり初期の頃だぞ。

 岸も佐藤も、天然記念物を見るような目で吉田を見ている。


「教えろ!」

 ナオが胸ぐらを捕まれ、揺さぶられている。男子は苦笑いでもって吉田を眺めている。女子に至っては何を今更って冷たい目だ。生きる道を違えるなよ、吉田君。


 で、一通り説明が終わって。

 吉田が俺の方を見ている。赤い眼をして。そんな目で俺を見るな!

 恥ずかしいだろうが!


「如月さんッ! 辛かったんだろうね!」

 こいつ、見かけによらず涙もろいのな。でもフラグは立たねぇ! 第一、時期が遅いよ。


「いやいや、もう済んだ話だから。あんまり騒がないでくれたまえ」

 手をパタパタさせて、この話はお終い、を強調した。今更迷惑なんだ。ホント。

「うん、うん」

 大人が小娘を見る目をするな!

 どうして、こう、吉田ってタイミング悪いのかな? 基本、いいヤツだと思うんだけどな。


 そして、吉田達のグループがナオの家、すなわち俺ん家に遊びに来る話になったそうな。帰りに寄るって。それで俺の許可を求めてきた。意味解らんって! ……あ、わかった!


「下着泥棒のために?」

「違うって!」

「覗きか?」

「たぶんそれ。でもアオイが下着でうろつかなければ防げる」

 えーっとね。


「男の付き合いでね。僕じゃ断り切れないんだ。アオイがダメだと言ったら断れるんだけど? その顔は何だ?」

「吉田達がやってきて、ナニするのかに興味ある」

「アオイでも小悪魔的な顔が出来るんだな」

 俺は慌てて顔を手で拭った。


 男として、吉田達が何を考えているのか。手に取るように解る。

 この年頃の男はタマタマでモノを考えるとノリ子さんが言ってた。

 だとすると、タマタマ2対脳ミソ1の多数決で、必ずタマタマが勝つ。

 ちなみにタマタマと脳は同じ種類のタンパク質で出来ていると何処かの本で読んだ覚えがある。その本がどこへ行ったかは覚えていない。(注:俺は転生者じゃない)

 ……2対1を装って実は3対0の可能性もある。恐るべし……。


「別に良いんじゃない? 面白そうだしゲヘ」



 して――

 吉田、岸、佐藤を連れたナオが、帰ってきた。


 目敏く、吉田がガレージにとめてあるマウンテンバイクに目を付けた。ナオが何か言ってる。たぶん、俺たちのだって事を説明してるんだろう。


 あ! いきなり吉田が赤い方のサドルに頬をグリグリ押しつけだした!

 そっちはナオのだぞ! 俺のは青い方だ。青は(あお)から来ている。

 なんか、ナオと掴みあってる。たぶん、もっと早く言え! 言う前に飛びつくな! ってところだろう。


 お馬鹿共は、鍵を開けて入ってきた。

 すぐさま階段を上がってくる。俺とナオの部屋が2階にあるからだ。


「なあ睦月、如月さんの部屋はどこだ?」

「僕の部屋が手前で、アオイのが奥だ。あそこ。今日は友達と遊んでから帰るそうだから、俺たちの方が早い」

「ふーん……あれ? ドアが開いてるぞ?」

 ドアは僅かに開いてある。


「朝、閉め忘れたんだろう。不用心なやつだ。さ、入って入って!」

 ナオに促され、部屋へ入っていく吉田達。


 俺は、密かに潜んでいた、自室のクローゼットから、静かに出てきた。手にしたガラスのコップを壁に当て、さらに耳を当てる。こうすると、ナオの部屋の音や声が聞こえるのだ。


 ナオに、なんで悪趣味な事をするのかって聞かれた。

 吉田達が信用できないからだと答えておいた。それに、連れてこないわけにはいかないんだろう? って言葉を添えて。

 メスガキみたいな顔で笑うなと言われた。そんな顔のストックは持ち合わせていない!

 隣の声が聞こえてくる。雑音が多いが、どうにか聞こえる。 


「如月が帰ってくる前に、パンティ見せて欲しいんだが」

 吉田ぁー。開口一番、それかぁー!


「言っとくが、あいつ数を数えている。でもって、たたみ方に工夫してあるらしいから、触ったら一発でバレるぞ」

「見るだけで良いッ! 上から見るだけで良いんだッ! 頼む睦月! この通りだ!」

「「お願いします!」」

 ザザッと3人分の土下座音が聞こえた。こいつら、女の子のおパンツ見るだけで土下座するか?


 ……明日香がおパンツコレクションを見せてくれるってのなら、俺も土下座するけど。


「しかたないなー。他の物には手を触れないと約束してくれたら、こっそり見せてやるよ。ちなみに、他の物も、位置とか数とか覚えてるみたいだから、少し動かすだけでバレるぞ。僕はすぐお前らの名前出すからな。約束だぞ!」

「約束しよう! 睦月ぃー。この恩は命に替えても返すよ」

 おパンティ何枚分の命だ? ……さて、隠れよう。

 

 そっと侵入してくる男子(ガキ)が4人。

 先頭はナオ。吉田、岸、佐藤の順に入ってくる。

 体がカチコチで、マンガの泥棒みたいに抜き足差し足で歩いている。ちょっと面白いぞ。


「あ、あああ、ここが如月さんのお部屋! すーはーすーはー!」

 吉田のヤロウ、深呼吸してやがる。ここからだと全員の動きが全て把握できるんだ。


「俺も! すーはーすーはー」

「俺はそこまでは」

 岸は深呼吸したが、佐藤は苦笑いで止まっている。


「聞け! 俺たちは紳士だ、紳士的な振る舞いを期待する」

「まかせろ!」

 女の子の部屋にこっそり忍び込んでおいて何が紳士だぁ?


 俺の部屋のレイアウトは、ナオのそれと線対称で同一になっている。

 ナオの部屋にある雑多な物入れ用ラックの位置に、籐の籠が置いてあるのだ。中身は主に下着類。

 窓際にベッド。妹から押しつけられた可愛いぬいぐるみのナスアザラシちゃんとデビアクマちゃんだ。

 壁際に机。あとは小物がいくつかと、ドレッサーぽいの。そしてクローザー。


「お、おい。あれ。如月が脱いだ靴下か?」

 床に可愛い柄の靴下が脱ぎ捨てられてらる。わざとだ。


「こ、これ、如月さんのナマ靴下……」

 吉田が何か邪悪なモノに憑かれたように、ふらふらと靴下に手を伸ばしてくる。

「ぐっ!」

 歯を食いしばって耐える吉田。指を鈎状に曲げ、踏ん張っている。


「はぁはぁ、もう大丈夫だ。はぁはぁ……如月さんのベッド!」

 バフンと音を立て勢いよく俺のベッドに顔を埋めた。

「すーはーすーはー」

「止めろ変態!」

 流石にナオが肩を持って引き上げた。


「ひくわー」

「それひくわー」

 岸と佐藤が吉田と距離を取った。


「冗談だよ!」

 やっておいて……冗談と言えば全てを誤魔化せると思ってないか?

 ベッドに寝転がって「如月さんと添い寝ー!」とか言われなくて良かった。


「Tシャツが椅子の背もたれに掛かってるぅ」

 今度も吉田だ。こいつら、部屋に入れたの間違いだったかな?

「靴下やTシャツぐらいで騒ぐな。ほら、あそこ、籐の整理棚。あそこの何処かにあるはずだ」

「「「おおおおお」」」

 カルト教祖を崇める信者のように、ワラワラと籐製品に集まる男の子3人。


「あ、あああ……」

 吉田は、なんかの病気持ちみたいなギクシャクした動きで一番上の引き出しを開けた。

 外気に触れたのは……小さな切り子で仕切られた小部屋に入った色様々な布。おパンツだ。


「こっ、こっ、これっ、これっ……」

 鶏か?

「触るなよ! バレるから! 上から見るだけだぞ!」

「もちろんだとも……スハーッ!」

「うわっ! こいつ匂いをかぎやがった!」

 ナオが腰を引いた。おまえもしょっちゅうかいでるだろうが!


「「俺も俺も!」」

 岸と佐藤も顔を突っ込んできやがった。男の子の願望爆発でござる。

 みんなハァハァいってる。


「次の引き出し……開けるぞ」

「「ごくり」」

 唾を飲む音が生々しい。

 そろりそろりと引き出しがあいていく。


「こ、これは!」

「ブラジャァ?」

 岸が震える手を伸ばす。


「さわるな!」

 吉田が制止した。鬼の気迫だった。


「俺たちは、紳士的な振る舞いをしなければならない。手出し禁止! ノータッチだ!」

「あ、ああ、そうだった。ついこの手が」

「手を出すのはダメだ。しかし!」

 吉田は顔を埋めた。


「スーッッッ……スーッッッ……クッ、グッ……クラッ」

 吉田が酸欠で倒れた。


「息吐け! 息ッ!」

「ぷはぁ! なぜ、このまま死なせてくれなかったッ!」

「あなただけを殺させはしませんよ。スーッッッ……クラッ」

 岸と佐藤も酸欠だ。

 なんのコントだ?


 俺も大概の自覚有るが、こいつらにリミッターは付いてないのか?


「さて、そろそろ戻ろう。アオイのやつ、いつ帰ってくるかわからんし」

 ナオによる引き上げの合図だ。

「それはヤバイ」

「こんなところ見られたら、言い訳が出来ない」

「だけど、最後に一つここだけは!」

 吉田が粘る。これ以上どこを開けるというのだ?


「そこのクローゼット」

 あ、そこは不味い!


「如月の普段着が見たい」

「え? 止めとけって」

 止めようとしたナオの手をかいくぐって吉田の手がクローゼットに届く。


 バン!


 クローゼットの中に、ごちゃまんと非整理的に整頓された衣服類が! 恥ずかしい!


「……あ、あああ如月さんのだ……おおおお! これが如月さんの体を……ふうううう!」

 ゴチャゴチャのクローゼットを覗いて、なんか満足げだ。あと内股で前屈みだ。


「気が済んだか? アオイが帰ってくる前に戻るぞ。忘れ物とか落とし物とか厳重チェックな!」

「確認ヨシ!」

「あと、ドアは半ドアな!」

 男子連中は指差確認を入念に行ってから部屋を出た。


 ……楽しそうでいいなー……。


「行ったか」

 俺は潜んでいた天井裏から静かに飛び降りた。フワリ。


 なぜか俺の部屋の天井に、屋根裏の点検口があるんだ。設計ミスだと思う。

 

 

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