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12.秘密にすること


「――と、いった事がありました。もう何が何だかわかりません。ノリ子さん、たしけて」


 お母さんと翠を守るため、吉沢さんをハメようとして、逆にお母さんにハメられたという酷いオチの話をノリ子さんにしている。……ハメられたと言っても、そっち方面のハメではないのでご留意ください。

 ちなみに場所は俺の部屋。ノリ子さんと俺の2人きり。


「うーん……碧ちゃん、厄よけ寺へお払いしに行こうか?」

 あ、医者がさじを投げた。


「冗談よ、冗談。それにしても、茜さん、恋多き女だとは思ってたけど、やってくれるわね」

 碧さんはポーチを取り出し、メイクを直しはじめた。

「そんなにたくさん恋してたんですか? お母さん」

 自分の母親が男をとっかえひっかえしていたなんて、ショックだ。


「恋と言っても、小さな恋ね。わたしの知ってる限り、大人の関係には一つも発展しなかった。せいぜいが昼のお食事ね。あなたのお父さんの(トラウマ)もあって、結婚に繋がりそうな深い恋愛はなかったようよ」

「よ、よくご存じで……」

 お母さん情報に詳しい!

 島の中の生活ばかりで、外界とは遮断されてたんだけどなぁ。おとなのおんなのひとはわかんないや!


「ラインとかメールとか、便利なアプリがあるの知らない? そこでしょっちゅう相談されていたわ」

「ははぁー」

「付き合いだすのも早いけど、すぐに怖くなって逃げて。挙げ句の果てに碧ちゃんだなんて……。あれも一種の男性恐怖症なのかしら?」

「でもさー、俺の中身が男だからって、親が子をさぁー」


 ぶっちゃけ、俺にとってお母さんはお母さんだ。ママだ。翠に向けたような感情はない。性的な意味合いで翠のおっぱいを吸いたいと思うことはあっても、お母さんのおっぱいにその思いはない。……たぶん。

 もし、おっぱいを吸うことがあるとしたら、それは母性を求めて、だろう。俺にタマタマはないから、ナニか起こっても大丈夫だ。……たぶん。


「不誠実な男を好きになってビクビクしていたところに、男らしい碧ちゃんが登場。頼りになって、性格が良くて、色々と女心を弄んでくれて。言葉だけ羅列すれば、落ちない女なんていないと思うの。茜さん、まだ今年で31歳だし。現在は30だし。30で独身なんてザラにいるわよ」

「ノリ子さんは俺の相談相手? それとも、いじめっ子?」

 からかわれている余裕は俺にない。いつものように、行動指針をずばりと指摘して欲しい。


「茜さんからも話を聞いて、それからね。……ちょっと茜さんに会ってくるわ」

 先ほどからスマホを弄っていたノリ子さん。お母さんと連絡を取っていたようだ。アポイントが取れた模様。仕事が早い!

「はい、メイク完璧。じゃ、行ってきます。うははは!」

 笑いながら出て行った。遊んでんじゃないよね?

 


 椅子に腰掛けて、翠のこと、お母さんのこと、ついでにクソ親父のことを考えている。

 ……なにをって? 性格とか諸々。俺はお母さんに似たんだと思っていた。顔の作りもお母さん寄りだしね。

 この変な性格だけは親父の血だと思っていた。


 ま さ か、母方の血だったとは。


 人のことは言えないが、姉を好きになる妹。娘を好きになるお母さん。……そして中身が男の俺。3人とも血の繋がった家族。

 どう考えても母方の血だ。遺伝子だ。IPSだ(*注:違います)。


 だがまだしかし、お母さんが俺のことを好きだと言っていたが、どれだけの深度で好きなのか、はっきりさせていない。親子の愛情の延長線なのか、……本気の男女なのか……俺、まだ12歳と11ヶ月の子供だけど。

 まだ諦めてはいけません。


「おーい、アオイー!」

「おー、ナオか?」

 ひょこりとナオが顔を出した。

「話は済んだのかな?」

 なんだろう? ナオは寂しそうにしている。


「まあ入れ」 

 ナオはベッドに腰掛けた。俺は学習椅子だ。床を蹴ってクルクル回っている。

「すっげぇ短いスカートだな。チラチラと……見えてないな? なんで?」

 普通見える。でも見にくいだろう。

「ほら」

 片方の膝を立てた。


「あっ! こいつ! 黒を履いてる! おとなのおんなのひとだ!」

 おパンツを認識しにくいように、かつ、ませて見えるように黒にした。わざわざ買ってきたんだぞ。吉沢さん対策でだ。


「俺の家庭の方面で、ちょいとめんどくさいことがあってね。問題は……解決はしたんだけど、新たな問題が起こって、それでノリ子さんが走ってくれてるんだ」

「ははー……察するに、最初の問題はアオイの関係が薄くて、新たな問題はアオイがらみだな?」

「くっそぉー! 当てるなよ! 今は話せないんで、聞かないでくれると嬉しい」

 ナオは勘が良い。そして心も広い。


「うん、……聞かないでおくよ……。なあアオイ」

 ナオに元気がない。


「アんだ? あらたまって」

「前は、僕たちの間に秘密なんか無かったのに、今は秘密が増えてる。なんだかなーと思ってさ」

「あー……」

 ナオが寂しそうにしているのは、そういうことか。

「うーん……何でかな? なんで秘密が増えるのかな?」


 秘密と言ってる時点で、すでに秘密じゃないような気もするが……。

 今回、秘密にする一番の理由は、母親の恥ずかしいところをナオに知られたくない、という点だ。

 ……なんでそんなことをするのだ? と考えてみると……。


 ナオに悪く思われたくない。これだ! ……これかな?


 秘密にする。秘密を持つ。嘘をつく。

 それは、相手を傷つけない、悪いように思われたくない。そういう守りに入った時だろうか?

 これまで、――小学生の頃は――、ナオと、記録的豪雨の日も歴史的暴風の日も、団子になってコロコロと育ってきた。

 同じ世界にいた。


 中学に上がって、男と女になって、母や妹が出来て、自分固有の世界が出来た。

 それを仮に小さな世界、小世界としようよ。

 その小世界に、ナオはいない。ナオの世界ではなく、俺の大切な大きな世界なのだから。

 自分が作った小世界の恥や醜さをナオに見せたくない。ナオの気分を害したくない。ナオに嫌われたくないという思いが、ナオに対して秘密にする理由なんだ。


 して――、


 秘密にする、そのこと自体がナオの気分を害する様では、何のための秘密かわからない。

 それは嫌だ。


「決着が付いたら、ナオに全部話すよ。それまで、温かく見守っててくれ」

「うん、まあ……言いたくないなら無理に聞かない。どうせアオイが絡んだ事件だ。人を傷つけるような大事じゃないだろうし……、うん、まあ……」

 寂しそうなナオ。すまないナオ。

 ……やっぱり俺が悪いんだ。


「あのな、ナオ。秘密というのは――」

「ばか! 喋るな!」

 ナオに叱られた。


「なんて顔してるんだよアオイ! 僕が秘密の一つや二つ、アレされたとしても、アオイのことをどうこう思うような男じゃない!」

「じゃ、せめておパンツ見せるから……」

「その必要はない! 僕たちの間に、そんな取引は要らない! ……やっぱり見せてくれ!」

「う、うん」

 ナオは良いやつだ。忘れていた。良いやつだ!


「言えないことは言えないと言ってくれ。嘘付いて誤魔化すのだけは止めてくれ」

「うん」

「それと、お前ッ! おパンツ見せれば大体のことは丸込められると思ってないか?」

「え? 違った?」

「合ってるよ! でも、アオイのおパンツは安売りするな!」

「うん、安売りしない……」

 ん? 安売りするな、と?


「それどういう意味だ?」

「それは! ……なんだろ?」

 ナオが小首をかしげた。それから腕を組んで真剣に悩み出した。


「風呂上がりとか、おパンツ姿でウロウロするなって事か?」

 ノリ子さんがはしたないって言う。おじさんが急に新聞を読み出す。その系列かな?

「それはどんどんやってくれ。……んー? ……良く分かんないや」


「結果、不明かよ!」

「うーん、僕は何が言いたかったんだろう? 自分でもよく判らないなー。なんか、こう、よく言ってるじゃん。喉に小骨が刺さったような、って。アレが正にこれ」

 ナオが喉を指さす。



「その小骨って自分じゃ取れないんだよねー。――あ、電話だ」

 スマホが鳴った。ノリ子さんからだ。



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