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3.成長


 俺が女の子だったということが判明したクリスマスイブの日から、早くも3ヶ月を迎えようとしていた。


 ……とんだクリスマスプレゼントだったぜ。出会ったらサンタ刺す!


 俺はといえば、あれから何度も熱を出して寝込むという日々を過ごしてきた。おかげさんで……先っぽの方からオッパイが膨らんできた。いいぞ、たわわに育てよ俺のオッパイ。

 ……触ると痛い。しばらくの辛抱だ!


 あれから生理の方は2回ばかり来た。何故か2回とも24日。給料日前日。それはどうでも良い。

 2回とも大変軽い物だったので助かる。布用品を何回か取り替えさえすれば、どうにかなる程度。その間は、運動に適さない。そんな程度だ。

 あの恐怖が毎月来るのかと怯えていた。どうやら最初だけだったようだ。心より良かったと思う。


 ノリ子おばさんが言うには、重い子はずっと重い傾向が、軽い子はずっと軽い傾向があるとのこと。最初こそ辛かったが、俺は軽い方も軽い方、羨ましくて首を締めたい位だと怖い笑顔で言われた。


 あと、まだ毛が生えてこない。


 親父はダメだ。

 何回か話し合いという仲直りの席を作ったけど「普通わかるだろ、ばか!」とか「分からなかったお前が悪い! ばか」だとかばかり言って怒ってる。挙げ句の果てには「子なんだから親の言う事を聞いてれば良いんだ、ばか」なんて意味のことを言って、俺の顔を見ると怒るようになった。


 もともと、あまり話をしない親子だった。もともと、口を開くと何故か怒りで返してくる親父だった。

 心配するのも怒りながら。食事も怒りながら。

 どこに地雷があるか解らないので、いっそ喋らないでおこうと避けていた。この一件以来、ほぼ口をきかないようになった。


 俺は親父と距離を置くことにしたんだ。……逃げだな。

 ノリ子さんは逃げろと言う。でも、親だしね。仲良くしたいんだ。

 親父も寂しいんだと思うよ。賑やかな町で暮らすようになったら、親父の機嫌も治るだろうさ。


 この島は絶海の孤島なもんで、物資の配送は月一回、月末着だけ。俺用の女物のおパンツとかは2月の始めにしか手に入らなかった。海が荒れたので、船が遅れたんだ。

 それまで、男児用おパンツ(白ブリーフ)をはいて過ごしてきた。……いつも通りっちゃーいつも通りだ。

 んでもって、ようやく手に入ったのだけれど、……女の子用のおパンツということでドキドキして袋を開いたんだけど……ブリキユアの柄が入ったおパンツだった。選ぶのが恥ずかしかったんで、ノリ子おばさんにまかせたらこうなった。


「1人より2人だ。次、選ぶときは僕が監修してやろう」

 って、ナオが拝むように頼んできた。


 女の子用おパンツをカタログの写真見て選ぶ。堂々と選ぶ。だれに遠慮無く選ぶ。それは男の野望。

 解るよナオ。次は一緒に選ぼう。2人で選べば怖くない。 


 で、ナオの方なんだけど――

 コイツも熱出して、何度も寝込んでた。


 あの時、ナオも体調が悪かった。それが俺の件で大騒ぎしたせいでしばらく何ともなかったそうな。けど、俺の容体が一段落付いたことを知ったら気が抜けたらしい。熱出して寝込んだ。ごめんよ、ナオ。

 後は俺と一緒。仲良く互い違いに熱出しては寝込んで回復してここに至る。


 でもって、既に熱も出る気配が無くなり、もうすぐこの島ともお別れだなオイって事で、久しぶりに虫取りに誘った。


「アオイ、もう大丈夫なのか?」

「うん、開き直った。あのときの馬鹿話、実行してやる」


 それを聞いてナオは、恥ずかしそうな顔をしてこう言った。

「……僕も混ぜて……」


「それ、男として解りすぎるほど解る」

「アオイは女の子だよ」

「……あ。忘れてた」


 後頭部を引っ掻いた。人って、間抜けなことに気がつくと、無意識に後頭部掻きむしるよね? ……俺だけ?

 

 網持って歩いてると、いきなりナオが何か言いだした。

「アオイさー、女の子の服着ないのか?」


 ナオ相手に気取る必要はないんで、いつもの黄ばんだTシャツにヨレた半ズボンだ。小学生らしいと言えば小学生らしいんだけど……。ナオの言うことも解る。


「じつは、こっそりスカートはいたことあるんだ」

「え? すげー! どうだった?」

 ナオの反応は食い入り気味だった。


「勇気が足りなかった……。スースーしてんのと、おパンツを遮る物がなんもネェってのが気になってさー。何か恥ずかしくってさー。まだ慣れてないんだわ。もうちょっと練習してからな」

「スカートの練習って初めて聞く単語だ」


「じゃナオ、おまえ、いきなりスカート履いてみるか?」

「いや、それは……なるほど、そう言うことか。理解したぜ」


 解ってくれたようだ。俺ってば、ずっと男だったし、男の感覚でスカート履けったって、デリカシー的な意味合いで、そうすぐに履けないって。気分は女装だよ!

 いや、一度、夜中にこっそり一人で身に付けたよ。おんなの代名詞だよ、スカートって。だもんで変にドキドキしてさー。変なドキドキだったなー……。

 あれ一度だけで、怖くなって二度目は身に付けてない。何回か、夜中にこっそり出したりしてるよ。変なドキドキ感が怖くって、触ったり眺めたりするだけだった。

 

「こんな子供服着られるのも今月までだしさー。何たって、来月からは中学生だもんな。中学生って大人じゃん。でも、俺らみたいな子供が中学生になれるのかよって……なんか不思議じゃないかオイ?」

「うーん……、大人の中に入るのって怖いよなー」


 ナオの眉間に皺が入り、キリリと眉毛の両端が上がる。こいつさ、こういう顔するとライダー系のイケメンになるんだよなー。羨ましいよなー。


「大人と言えばさ、アオイ、おまえブラしてるよな? あの漫画がプリントされた、色気のないブラ」


 暑いのと窮屈なのを我慢して着けるようにしてるんだよねー。着けてないと色々痛くてさー。

 Tシャツから透けてるよなー。いや、色が透けてるんじゃなくて、ブラの外側の線とかがさー。俺もナオ程じゃないけど背が伸びたし、胸も少しばかり膨らんできたから、前のTシャツが小さいんだよ。だもんで、ブラの線が浮いて見えてるんだよなー。

 あと、お胸が立体的になって見えるのも気になる。


「色気無いよなー、このブラ。女児用スポーツブラだもんなー」


 ブラもブリキユアの柄入りピンクなんだよなー。おばさんが選んだの。女の子らしいって。それは女児らしい、だろ? なんつったって俺は来月から中学生だぜ。もう大人の仲間だぜ。もっとスゴイの用意して欲しかったなー。レースがヒラヒラの。


「おパンツもさー、女児用だったよなー」

「だよなー。もっと、こう……ハイレグみたいなの? 光沢有るヤツとか? エッチなのはいてみたいよなー。町へ行ったら大きな鏡買ってもらおうっと!」


「うーん、……アオイにエッチな下着は似合わないかなー」

「それなー。体型がストンだもんなー。……でも選ぶときナオも一丁噛みたいだろー?」


「下着その物には興味ある。うひひひ」

「てめえもスケベだよなー、うひひひ」


 うひひ、うひひ、とスケベな男二人、もとい……男児と女児が歯を剥き出して笑っていた。


 常夏のこの島は、3月でもセミが鳴いている。おかしい。小学生の俺でもこの島の特殊性に気づく。

 ま、難しいことは親父やおじさん達が考えていればいい。俺たちは残り僅かとなった島の生活を楽しみつつ満喫してればいい。


「満喫、なんて難しい言葉、よく知ってるな?」

「俺は国語とか社会とが歴史が得意なんだ。好きな偉人は道鏡だ。算数はダメだけどな。いわゆる文化系? 的な?」

 大学に、文化系と理数系があるって事ぐらい、もうすぐ大人なんだから知ってるさ! 


「僕は数字をいじくるのが好きだなぁ。一つの答えを探すのが良い。国語は苦手だ。作者の気持ちなんか作者でなきゃ解らないと思うんだよなー。アレってさぁ、作者に忖度しろって事だよなぁ?」

 ナオは理数系だ。お互い苦手のところが得意科目なもんだから、教え合うにはちょうどいいコンビだわな。


 して――

 一緒に、勝手知ったる道無き道を歩いているのだけれども……


「ナオ、お前さぁ、背、高くなってね?」

 目の位置が少し高いような?

「え? そうかな? どれどれ?」

 並んで比べてみる。俺の方が握り拳半分だけ背が高いはず!


「あれ? 僕とアオイが同じ背?」

「そ、そんなはずは……」


 大急ぎで戻ってきて保健室へ駆け込む。足はまだ俺の方が速い!


「あら、どうしたの? 二人とも昆虫採集へ出かけたんじゃなかったっけ?」

 ノリ子おばさん……いや学校では先生だ。ノリ子先生が早い帰りに驚いている。

「先生! 計って計って!」


 身長計に飛び乗った。


「なにを? えーっと……」

「次、僕!」

「えーっと……直央の背が伸びたわね。碧ちゃんより5ミリ高い。ははーん、熱出して成長したな!」

「なんだと、俺の身長、ちょびっとしか伸びてねぇ!」

「直央の熱は成長するための熱で、碧ちゃんの熱は体が女の子になるための熱だったのかも?」


 俺は、先生の言葉に愕然として、膝を床に着けた。

 ちょっとぉー! 俺のナオに対する優位性がぁー!


「直央、あんた体の節々が痛くなってない?」

「うん、寝るときとか、休憩しているときとか、体を動かさないときに痛くなるんで、しょっちゅう動かしているんだ」

「ははー、成長痛ね。直央はまだまだ伸びるわよー。のっぽさんになるのかなー?」


 母と子が団欒している!


「俺は? 俺はまだ伸びるだろ? ナオにすぐ追いつくよな? 先生! 先生?」

 ノリ子先生は横を向いて目を合わせてくれない。


「牛乳だ! 魚の骨だ! カルシウムいっぱい取って背を伸ばすんだ!」

「碧ちゃん、あなたの年齢にしては語彙力と精神年齢が高すぎると思って心配してたけど、年相応の部分があって安心したわ」


 そんなこんなで、島の生活が終わろうとしていた。

 

 

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