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6.翠の本質、測定方法


 そして、葉月家でお泊まりの日。

 一泊二日の用意をする。と言っても、用意するのは、お着替えと小物くらいだ。


「本日の服装チェック! おブラ着用」

 ほんのりと盛り上がってきたおぱいにぴったりフィット。カワイイ系。大きく育って買い換えた第2世代型である。


「おブラにヨレ無し、ヨシ!」

 ナオからチェックが入る。

「おパンツ、ピンク色着用」

 くるりと一回転し、足を肩幅に開く。手は腰にだ!


「おパンツ、シミ汚れ共に無し。ヨシ!」

 ナオからチェックが入る。


「あと、上と下だが、こんなんでいいか? ノリ子さんプレゼンツなんだが」

「服のチョイスは母さんに任せよう」


 黒っぽい上着をおブラの上からはおり、黒っぽいスカ-トを足から履く。

 ……スカートで町を歩くのか……恥ずかしいな……変態だと思われなければいいが。

 ……俺、女だった。


 股の下、直接空間で外気と接する。薄い布一枚隔てて大事なところ。それがなんとも頼りない。だが、それがいい! だんだん良くなってきた。男も履けば解るようになる。


「持ち物。おブラ、大人タイプ1枚。おパンツ、白いの一枚。予備に勝負用光沢系グレ-1枚」

 ナオが手にとってこねくり回す。二重になってるところのにおいを嗅いでいる。

「共に汚れ穴あき無し、ヨシ!」

 バッグに詰め込む。

「ボ-ダ-パンツがありません」

「それは洗濯上がってきたばかりだから、お留守番です」

「履かないの、か?」

 すげ-ショックを受けているようだが、知らんがな!


「パジャマと歯磨きセット。タオル。お土産にその他小物が諸々。こんなもんか?」

 ナオはパジャマに興味がないようで、チェックしようとしない。


「アオイと遠く離れて寝るって初めてじゃないか?」

「ほんとだ。……なんだナオ、寂しいのか?」

「うん」

「仕方ねぇな。ほら、これ、俺と思って」

「ありがとう。大事に使うよ」

 もう一枚のボーダー。パステルブル-のボ-ダ-パンツを手渡しておいた。


「行ってきます!」

「いってらっしゃい!」

 ナオとノリ子さんとおじさんが見送ってくれた。


 

 如月家を迂回して歩くこと30分あまり。葉月家に到着した。

 

「お姉ちゃん! いらっしゃ-い!」

 ピンポンを押すと、ドドドドと足音を立て、階段を翠が降りてきた。ずいぶん短いスカ-トだな。チョイとしゃがむと白い逆三角形が覗く。なんで解るかというと、チョイとしゃがんだからだ。


「キャ-! お姉ちゃんカワユイ!」

 翠も可愛いぞ! 顔がにやけるほどに。

「さあさあさあさあ!」

「おいおいおいおい!」

 勢いよく腕を取られ、階段を駆け上がる。チョイとしゃがみながら。


「碧!」

 お母さんの笑顔が待っていた。

「こん……」

 こんにちは、じゃねぇよな?


「……ただいま……」

 我ながら声が小さい。

「お帰りなさい、碧」



 ごく自然にお母さんお胸に甘えられた。お母さんは力強く抱きしめてくれた。

 はぁはぁと荒い息が聞こえる。お母さんも感極まっているんだと思う。

 お母さんは俺を抱きしめていた腕をそっと放す。もっと抱いていて欲しかった。

 その思いを受け止めてくれたのか、二の腕をそっと握りしめてくれた。そして、頬と頬をくっつけてくれる。俺の耳に直接話しかけてくる。

「荷物を翠の部屋に置いてらっしゃい。ゆっくりお話ししましょう」

「うん……」

 頷いたのだが、お母さんは手を離してくれない。

 お母さんが俺を見つめる目が水っぽい。目に俺の顔が映っているよ。


「お姉ちゃんとおかあさん。なんかキスしそうな体位だよ」

「おっと!」

 翠のヘタなツッコミに、思わず2人とも慌てて離れてしまった。


「もう! お姉ちゃん、こっち、荷物置いて!」

 翠に引っ張られる。お母さんをキッと睨み付ける翠。おいおい、お母さんに焼き餅はよしてくれ。

「ちょい待ち。え-っとゴソゴソ。これ、お土産」

 取り出したのは美味しいと有名な、駅前の店で買った焼き菓子だ。

「気を遣うことないのに!」

 お母さんが口を尖らせる。

「今回だけだよ。ちょっとしたケジメだと思ってちょーだい」

 水くさい事をするのは今回が最初で最後。これを機に、今から以後は、水入らずの遠慮無しだ。

「お姉ちゃん、はやくはやく!」

 翠に引っ張られて部屋に引きずり込まれる。

「おかあさん、それ開けて。家族3人で食べよう!」


 家族。3人。

 なんて素敵な言葉なんだ!

 

 ダイニングテ-ブルにお土産のお菓子を広げ、温かい飲み物を用意して、3人でまったりお茶会。

 テ-ブルに付属する椅子は3脚。お母さんがキッチンを背にして座り、俺が角に座り、翠が俺の横。

 俺を中心にして、L字型に並んで座っている。

 お母さんと翠は紅茶を飲んでいる。俺はインスタントだけどコ-ヒ-だ。もちろんブラックで。苦いけど。もう中学生だし。大人だしぃ。

 まだ午前中。時間はたっぷりある。これまで、穴の空いていた過去を埋めるように先を争って会話した。


「でもって、海の水が透明すぎて、海の底までの距離感が狂ってしまうんだ。そこから飛び込むと怖いのなんの! 足が海水に触れるまで海面の位置が分からないんだよ。着水の時、股を少しでも開いていたら衝撃が股間を直撃するから、余計に怖いんだ!」

 

 俺は島の話をおもしろおかしく話した。

 お母さん達は、母子家庭で苦労したろうに、そんなことはおくびにも出さず、これまでのことを面白く話してくれた。主に翠のドジ話を。

 翠もこの空気を大事にしたいようで、あえて強固な否定をしない。「もぉー!」とか言ってはにかむのが可愛い。

 頭の良い子だ。我が我がと自分だけを前に出さない。それがいじらしい。


 話がほぐれてきたので、アレ出すか……。

 ノリ子さんが持たせてくれた。翠の中身判断用試料……。


「そうそう、ノリ子さんから翠に見てもらいたいものが有るそうだ」

「え? なにかな!?」

 わくわくキラキラしてる翠。試すのが心苦しい。

「ちょっと待ってて」

 俺は翠の部屋に戻り、紙袋を持ってきた。

「これ」


 紙袋から中身を出す。中身は、古い同人漫画誌だ。なんでもノリ子さんのコレクションの中でも貴重な一品らしい。

 俺も初めて見る。

 表紙はファイア-ヘア-の二枚目と、サングラスをかけたアフロ男、それにヨ-ロッパ系っぽい……背中に羽の生えた? 武闘派の男の天使? 達が3人とも上半身裸で汗をかいている?


「こっ! これはッ!」

「ケヒョィ!」

 これに食いついたのはお母さんだった。


「幻の! 一矢、京四郎のリヒテル総受け戦場合体本!」

 本を持つお母さんの手が震えている。


 顔を歪めながら表紙をめくり、仰け反った。

「なにそれなにそれなにそれ?」

 翠ちゃんは興味津々、お母さんの横に顔をくっつけて覗き込んだ。

 そして、目を大きく見開いて固まってしまっている。


「なんだ?」

 俺も興味が引かれた。これほどまでに2人が引き寄せられる本だ。内容は――

 ……俺知ってる。これ、BLってんだよね? ケロッ。


 お母さんはフンフンと鼻息荒く、震える指でペ-ジをめくっていく。

「おかあさん、はやい、めくるのはやい、もっとゆっくりじっくり」

 同じく鼻息の荒い翠から漢字がなくなった。


 ちょっと解りません。ですが、お母さんと翠は親子なんだなと。そして翠の中身はちゃんと女の子なんだなとまでは理解できました。

 ――翠が、……体が女の子で心が男の子で、性癖がゲイとレズの両方だったら別だけど、まあ、そんなレアな組み合わせは確率的にコンマ2桁以下――


「碧ちゃん……」

 読み終わってから……お母さんが潤んだ目で俺を見上げている。翠は顔全体が真っ赤になって恥ずかしがっている。


「え-っと、ノリ子さんに掛け合って、その本もらえるように交渉してみます」

「今日ほど碧を産んで良かったと思った日はないわ……」


 あ、はい。



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