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4.ナオとアオイ 体育の授業


 体育初回の授業は、体育館を使用した。

 コートの半分が女子で、半分が男子。そして体育教師を待つ間、男子共がはしゃぐ。小学生みたいにはしゃぐ。特に吉田がこっちをチロチロ見ながらはしゃぐ姿にイラっと来る。


 んで、まあ、ナオとお話だ。

「これ、体育館、すげぇ」

「体育館、初めて、すげぇ」

 俺たちは原始人と化していた。島には体育館なんて巨大建造物はない。建てたとしても台風で持って行かれるのがオチだ。


「じゃ、軽く。背が伸びたことだし……」

「うん、軽く。体重増えたことだし……」

 ナオは身長で俺は体重か……。


 体育館の真ん中まで、歩きながら軽く関節をほぐして、目で頷き合う。

 バッ!


 ナオは側転からの連続バク転。ナオは側転で勢いを付けないと回れないんだ。

 俺はいきなりの連続バク転。へへん!


 4回転もしたら限界が来た。前は10回は出来たというのに!

 5回転目で根性出して、後方宙返り。これで誤魔化……締める。

 ナオは8回まで回ってへちゃばった。お互い、身体能力が落ちている。都会は怖い。

 俺はすでに走り出していた。

 壁が目の前にある。

 ナオも起きあがりダッシュに入った。


 両者、全力で飛ぶ。

 ダダン!

 壁を蹴ってさらに高く。三角跳びだ。


 いつもなら、この高さを利用して前方宙返りにはいるのだが、どうやらダメらしい。

 足を抱え込んでの側転に切り替えた。ナオは中途半端な緩い伸身の宙返りに切り替えている。こいつも調子が悪いようだ。


 ドダダン! と着地。すぐ側にいたユキちゃんがビクンとしてる。


「だめだ!」

「僕もダメだ」

 運動不足か、体の成長が足を引っ張ったか?


「足元が板張りだからもうチョイいけると思ったんだが」

「僕ら、都会の体育に付いていけるか?」


「オーバースペックなんだよぉ、おめぇらぁー!」

 なんでか、ユキちゃんに怒られた。ユキちゃんハイパーモードだ。


「どうして?」

「おめぇ、ふつーの中学生はンなこたぁーできねぇんだよぉー!」

 ……ってことは? 俺たちがおかしい?

 男女ともの、注目の的になっていた。



 体育の授業は、中学生になっったばかりだと言うこともあるのか、終始柔軟運動だけだったユルイ。

 2人組みになってぇ、背中合わせでぇ、ギッコンバッコンすることも、な く。

 緩くお股を開いた女子がキャーキャーいうことも、な く !


 ジャージの上下で色気なんかない。まったくない。ブルマが全廃になって幾年月が過ぎたのは知ってる。せめて短パンでと願うものの、季節は春といえどまだ寒い。色気無しで終了した。


 で、更衣室。授業前でも気づいたけど、何か匂う。なんで? 女子ばっかなのに?

「くちゃい!」

「放課後、運動系の子らも着替えるからね。察して」

 ……らしいぞ。女の子に過度な期待は止めてあげて。


 じっくりと女子のお着替えを観察したいのだが――生涯掛けての夢が実現してるんだが――、翠に借りた体操服を返却しなきゃならんので、いそいで、でも欲張りはせず、視野に入る女の子だけの観察に止めておいた。充分眼福だった。女の子に産まれてきた良かった……ホントよかった……今日はこれでいいや。

 そろそろ、脳内おかず用メモリーの増設を真剣に検討しなければならない時期が来たようだ。

 

 さて、翠に借りた体操服だが、きれいに、丁寧に、畳んで翠に返す。がさつな男だと思われてはいけないからね。


「汗をかかないよう気をつけてたけど、汗が滲んでたらごめんね」

「むしろ……いいえ。役に立って嬉しいですぅーハー」

 翠ちゃんが俺の脱いだ体操服に顔を埋めた。


「翠。恥ずかしいから、ね! そういう性癖は表に出さないで、お願いだから」 

 翠ちゃんの後ろに行列が出来ているのはナニ。……俺の体臭か? 碧吸いか? これは、ちょっと……これ、おかずになるのか? 受け身は難しいな。

 何か最近、俺の判断基準が、おかずになるかならないかになってきた気がする。

 日本食のお料理は、全て白米のおかずだと誰か言ってなかったっけ?

 

 そしてみんなで給食。この頃になるとクラス中、仲良し同士が机を合わせて食べるようになっていた。

 ナオは吉田達のグループだ。ボッチにならなくて良かったな。


 あらかた食い終わった頃。女将さんの風格を持つそうちゃんに声を掛けた。

「ナオ、どうだった? イケそう?」

「うーん……」

 パンを千切ってかじりながら悩ましい顔をするそうちゃん。こういうところが大人ぽいのな。

 このみちゃんは、食べる手を止め、そうちゃんのこれからに注目した。明日香でさえ、耳だけをそうちゃんに向けている。ユキちゃんはお構いなしに一生懸命食べている。


「ちょっと……違うなって」

「あああー」

 このみちゃんの口からため息が漏れた。


「たぶん、いえ、きっと、わたしと睦月君はうまくいかない」

「じゃ、お終いってことかな?」

 くくく、ナオの野郎、ふられてやんの。


「睦月君はわたしと正反対の子が合ってると思うの。例えば――」

「私じゃないよ」

 俺は、間髪を入れずそうちゃんの台詞を遮った。


「ナオの好みがどんなかは知らないけど、私じゃない。私を元にしているのかも。だけど、私ではない他の誰かさ」


 続けて畳みかける。

「ナオも同じ事思ってる。ここからは内緒のお話だけど……」

「「「「んなんなんな?」」」」

 今回ばかりはユキちゃんも反応した。

 

 4人が顔を近づけてきた。明日香ちゃんまで近づけてきた。女の子に、顔をここまで接近される事など初めてで、ドキドキしつつ、口元に手を置いた。

「……こないだ確かめたんだ」

「なにをぉ~?」

 このみちゃん、声が震えていますよ。


「お前、お(俺じゃない)私のこと好きかって?」

「でっ、でゅっ?」

 それで、と言いたかったんだろうな、このみちゃんは。黒目がぐるんぐるんしてる。


「守備範囲外だと言われた」

「ごっ、アオイっちは?」

「まあ黙って聞いてって。それで、ナオからも『僕のことどう思う?』って聞いてきたんだよ」

「んでんでんぎゃんぎゃおぎゃおぎゃ!?」

 ユキちゃんが赤ちゃんになった。

「「「おぎゃおぎゃおっぎゃ」」」

 残りの3人も赤ちゃんになった。これが噂の赤ちゃんプレイか? さしたる破壊力はないな。可愛いけど。


「おそらく、気とかウマは一番合うんだろうけど、恋愛感情は湧かないなぁ、って答えた。双方、ウンウンさもありなんって納得していたなぁ」

「ちっ!」

 明日香ちゃん、いま舌打ちしたよね?


「そういうことでさー。私たちはウマの合う者同士ってだけで、恋愛対象じゃないんだよ。それと、ナオはさ、見た目アレなイケメンだけど、みんなが思うより子供(ガキ)なんだ。女の子とお付き合いするにしろ、男の友達とか、気心の知れた私と野山で遊ぶ感覚をデートと勘違いしてるフシがある」

「はぁー……ってことは、熟成するまでお預けなのかな?」


 このみちゃんが首だけ振り向いて、ナオを見る。ナオは佐藤とあっち向いてホイに熱中していた。……よりによって今ソレかよ、こんガキが!


「しかし、ヤツに唾付けとくに越したことはない」

 フォローしてやったぞナオ。帰ってから教えてやる。そこで感謝しろ。


「お姉ちゃーん!」

「お、来た来た、お弁当!」

 翠がお弁当の包みを手にして、駆け込んできた。

 男共の穢れた目が翠に集中する。廊下から、恨めしそうに覗き込んでいる隣のクラスの男子が数名。

 本物の美少女は目とアストラルに優しく、時に、男心に厳しくなるときがある。

 そして恋愛塾はお開きとなった。

 

 うまいうまい。唐揚げがうまい。チーズが乗っかったブロッコリーがうまい。小さなおにぎりがうまい。

「でさ、こんどさ、土曜日にさ、翠ん()に泊まりに行っても良いかな? ノリ子さんが……おいどうした翠?」

 翠の黒い瞳から光が無くなっていた。

「……くはっ!」

 息を吹き返した。


「お泊まりなの? お姉ちゃんとお泊まり? いいよ! きてきてきて! お母さんの返事は聞かなくていい!」

 ピョンピョン跳び回る翠ちゃん。ちょっと恥ずかしい。なんか、俺といやらしいことするみたいで。したいけど!

 

「妹ちゃん、かわいいのら」

「普段は学級委員長で知的で眼鏡でクールビューティなのにね」

「お姉ちゃんと毎日会えて嬉しいのよ」

 順にユキちゃん、このみちゃん、そうちゃんである。明日香までこっそりと笑っていた。

 


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