3.睦月直央と女子……
「やっぱ美少女2人の間に男が入ってはいけないか……」
「厳密に言うと、絵面が美少女2人でも、片方に男の要素が入っているだけで宗教的な罪だと思う」
ナオは武装原理主義者、っと。
いつものように話が脱線していく。
「……妹ちゃん、アオイよりギア1つ分上の女の子してるよな。お前ら本当に双子の姉妹か?」
「違うよ、ギア2つ分、あいつが上だ。俺より丸いし膨らんでるし柔らかいし、良い匂いがするし」
それでも俺たち、一卵性双生児……らしいわ。
「アオイも最近丸くなってきてるし、膨らんできてるし、柔らかくなってきてるし、良い匂いがするよ。特に風呂上がりなんか」
石鹸とかシャンプーとかのお蔭だな。如月家では薬用トニックシャンプーしか使わなかったし。石鹸なんて固形だし。……翠は、なんか香水のようなのを付けている。
「そうか……」
俺は立ち上がった。
そして、ロンTを脱ぐ。寝るときも擦れて痛いから、ゆるめのブラを付けている。
でもって、短パンを脱ぐ。
ピンクベースのおパンツだ。ちっちゃいリボンと細いレースが付いてる。しまむろで買ったおパンツだ。
「どうした、アオイ。相談に乗った賃金か? おちんこ硬くなっちゃうんだけど?」
「好きに硬くしてなよ。……どうよ、俺?」
「どうよって……充分すぎるほど充分だけど? 吉田だったら心臓だろうと胃だろうと捧げるだろうさ。……おいおいよしてくれよ、僕はアオイとそういう関係になりたくない!」
「俺のこと、嫌いか?」
「嫌いじゃないけど、恋愛感情はちょっと……まさかアオイ!?」
「バッ! ちげーよ! 逆だよ! ナオは、俺に恋愛感情を持たないのか? って聞きたかったんだよ!」
「いい加減、主語というワードを覚えような。何度も言うけど、無いなー。将来は仲の良い家族どうしでキャンプに行きたいタイプだ。アオイは?」
「完全なる同意だ。……話は脱線するけど、何でナオは俺を押し倒さない? 今の俺なら翠を押し倒すが?」
「あのさ、今、僕がアオイを押し倒したとしようよ。それ、アオイは嫌だろ? ゲロ吐くだろう?」
「うん。的確にゲロ吐く」
「僕とそんな行為に及ぶのは嫌だろ?」
「嫌だね」
「そんなことになったら、僕は二度とアオイのエッチなお姿を見ることが出来なくなる。それは自明の理。ならば問おう。押し倒して終わるか、現状維持で鑑賞を続けられるか、どちらが利口で利があると思う?」
「鑑賞用……だな……」
「だろ? ……んで、結局アオイは何が言いたかったんだ? 或いはしたかったんだ?」
「うん、まあ、……忘れてくれ」
好きになれば、押し倒したくなる。キスだってしたくなる。俺は翠を押し倒したい。
ナオが、下着姿の俺に手を出さなかったのは、俺を恋愛という意味で好きではないと言ったことの証拠になる。
「……ちなみに、ここにこういう姿で、翠がいたら?」
「押し倒す」
「ナオを刺す」
ギスギスとした殺意が飛び交っていた。
「それ、なんていう罠?」
「罠じゃない。すまん、俺はどうかしていた」
反省する。
「……おまえ、口べただな。ついでだ。もしアオイの様な下着姿の文月先生がいたら、力ずくで押し倒す。人生を棒に振っても良い。それだけの価値はある! 吉田も同じ事をするだろう。佐藤も岸も!」
全くの同意。……じゃなくて、俺と思考形態は同じだ。俺もナオと同じなんだ。
えーっと、何したかったんだっけ?
おパンツ姿になって……そうそう!
「なあナオ。俺って、可愛いか? 女の子としてアレ的な魅力あるか?」
「……充分あるって。吉田だったら心臓でも捧げるだろう。……あれ? デジャブ?」
ならいいか。
「何が言いたい?」
「……実はよく分からない。俺ってさ、翠に比べ、ずいぶんと貧弱だろう?」
「今のアオイでも充分魅力的だよ。そして、これからドンドン女の子らしい体になっていくだろうさ。心配は要らない」
断言された。
そうだな、俺も翠に追いつけるさ。……ハハハ、ナニを心配してるんだろう? いかんな、翠に主導権を握られていたようだ。
「ナオ、ほら」
「うひょっ! おいおいアオイ先生!」
「ほら」
「ちょっ、刺激が」
「ほんのお礼だ。……ほら!」
「ちょ、ちょ、かんべんして。出来ればすぐに部屋を出て行って、僕を一人にして!」
「はい、ティッシュボックス」
ナオの願いを叶えてやることにした俺は神。
翌朝。
ちょっと昨日はどうにかしていた。
一晩寝ると、雑多な事柄が整理されていて、本来の理知的な碧さんに戻っていた。
ナオもどうにかしていたらしい。一晩過ぎて実に紳士的な振る舞いをするようになった。
俺だって――、こほん、人のことは言えない。
「なあナオ」
「なんだアオイ」
「俺のおパンツな、お尻が全部入るタイプだったんだけど、こないだ買ったヤツの1つがさ、ちょい短めの丈なんだ。いわゆる、おパンティってヤツ? お尻の上の方ががはみ出そうで、なんか、不安定なんだ」
「それ、夕べ言って欲しかったなー」
等と言いつつ、スカートの上から、ずれ落ちそうになるおパンティのゴムを掴んで引っ張り上げた。
して、学校。
校門で翠の出迎えを受け、校舎へ入る。
4人組から明日香を迎えた仲良しグループ5人で、いつものガールズトーク。明日香が、日に日に明るくなっていく。よかったよかった。美人さんは笑顔が一番さ!
いろんなお話にくすくす笑いつつ(俺、入っていけないんで聞き役専門)、ずれ落ちそうになるおパンティのゴムを掴んで引き上げる。
円の半分以下にゴムがある感覚なんだけど、実際は、ずれ落ちたりしない。物理的に落ちないことは解ってるんだけど、こう、気持ち悪いんだ。この感覚が開放感に代わるまで今しばらくかかりそう。
で、また、ずり下がりそうな(感覚的に)ゴムを摘んで……なんか後ろに気配を感じるので振り向くと、ナオ達のグループが静かにこっちを見ていた。正確には俺だ。
「いや、気にせず続けてくれ」
とても紳士的な涼しい目をしたナオが、執事のようなハンドアクションをしている。
これにこのみちゃんがキレた。
「ちょっとぉー男子ぃー! すっけべ! アオイっちも隙を見せてんじゃないよ……」
「なにが?」
そうちゃんが手で口元隠しながら小声で囁く。
「お尻!」
「あ!」
想像したんだな。ナオはまあアレだとして、吉田とか佐藤とか岸とか、特に吉田とかが、純情そうな少年の目をしている。そしてガン見。
「すっけべ!」
「おめーら、きめぇんだよ、あっち行けー!」
「チッ!」
順にそうちゃん、ユキちゃん、明日香である。明日香ちゃん、女の子がチッなんて言っちゃいけません。美人だからそそるけど。
……美人だったら何でもOKなのかよ、俺! ……明日香にエッチされながら尻を叩かれる変態プレイ。――OKだ!
ずれそうでずれないという何ともむず痒い接触感を我慢しつつ、授業は進む。
3時間目が体育。初めての授業。
「さっそく、体操服を忘れたんだけど、どうしたら良いと思う? ナオ、お前の体操服、貸してくれ」
「……妹ちゃんが持ってないか?」
「それだ!」
ナオはいつでも頼りになる男だ。
翠の体操服。可愛い女子中学生の体操服。男の憧れ。――この時だ。おパンティの非装着感が肌にしっくりと来た瞬間は。この頼りなさをフェザータッチとして認識。イイ感じに思えてきた。
そして隣のクラスへ。
「翠ぃー!」
クラス中の目がこっちを向く。ちょっと唐突すぎたかな?
「なぁに、お姉ちゃん?」
翠が……なんか、周囲にマウントを取ったかのごとき悪役令嬢めいた目をしながらトトトと可愛く走ってくる。
「次、体育なんだけど、体操服持ってたら貸してくれ。忘れたんだ。持ってなかったら誰かのを都合付けてくれないか?」
「持ってる! はい、お姉ちゃん! 人のを借りる必要はないわ」
翠って、あんなに素早く走れるんだ。大股で……。
女の子が何人か自分の体操服を取り出していたけど……そっちの方も魅力的だけど……翠のが良い。
「汗かいても良いからね! むしろウエルカム!」
翠の性癖が心配だ。ちなみに、俺は鈍感ではない。……俺だってそうする。
ってか、教室へ戻りつつ、こっそり体操服に顔を埋めて深呼吸したのは、墓まで持って行かねばならぬ秘密だ。
「これ、妹の体操服」
ナオにだけ言ったつもりだったが、ほぼ男子全員が耳をそばだてていた。男子は、時に聴覚が異常発達する事がある生き物だからしかたないね。
ナオも普通の男子たる反応をしていた。こいつ俺以外の女子には普通に男子なのな。
……軽はずみだった。
吉田が異様に反応していた。翠がらみで変な事考えやがったら、人気のない山へスコップもって連れて行こう。あいつならホイホイ付いてくるだろう。
そして、お着替えだ……。どこで?
えっ! 女子更衣室!? いきなり?! まだ心の準備が!
「ンおい(アオイ)にゃん、着替えないとおくれぬのら」
はっ! ユキちゃんにせっつかれて意識が戻った。
き、緊張する! 女子更衣室。心の準備が……。
あれだ……みんな、見事に隠しながら着替えるのな。
でもチラリズムが……どうしても隠せない部位が……俺、女に生まれてよかった。泣けてきた。もう、人生がここで終わっても良い。でも終わりたくない。
ほぼ皆さんのお着替えが終わっていた。制服のままは俺だけだ。
バババッと手早くお着替えする。
「アオイっち、容赦ねぇ着替えだね」
なぜか、このみちゃんに呆れられた。
あと、女子更衣室は臭い。




