表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/62

17.告白


 して――。

 母子姉妹の会見は続いている。


 揉めると思ったが……冒頭、ある意味揉めたが……おおむね、平和な感じで対面の行事が進んでいく。

 もっと揉めると思ったんだけどなー、……いや、俺がいちゃもん付けなければ揉めようがないか?


 食事も始まり、和やかな雰囲気がより和やかになっていく。


 ノリ子さんがタイミングを見計らっていた。

「それでね、茜さん……」

 チラリと俺の顔を見る。良いよと目で返事をする。いよいよだ。


 前もって打ち合わせしたとおり、ノリ子さんが俺の特殊性について話をすることになっていた。


「全ては達夫さんの悪行に起因するのだけど……落ち着いてよく聞いてね」


 そして、俺の身の上話が始まった。

 俺が去年のクリスマスまで男だと思いこんで育ったこと。結果、体は女の子だけど、心は(スケベな中一)男子だと言うことを。それについて苦しんでいる……苦しんでないか?……(一部楽しみながら)苦しんでいることを。全て。全部。あからさまに。


 お母さんは、途中から、またも涙を流しながら黙って聞いてくれていた。


「と言うわけで、俺は男なんだ。どうしても女になれねぇ。自分の一人称は『俺』なんだよ」

 ノリ子さんの後を引き継ぎ、俺の台詞で長い話が終わった。


「ごめんなさい、ごめんなさい碧。わたしに力が無かったばかりに。わたしが碧を引き取らなかったばかりに。こんな事になってしまって。あの時、無理矢理にでも碧を連れていくべきだった……」

 お母さんは、泣きっぱなしだ。


「それに関しては……わたしにも責任があるわ。ごめんなさい茜さん、碧ちゃん」

「いーや違うね!」

 間に入る俺。


「全部親父のせいだ! ……とは言い切れないか? 俺の資質にも原因があると思うんだ。男であることが楽だし、この男物の服着てると楽なんだ。女の子の体に男の心が入っていて、それが俺なんで、スカート姿はちょっぴり恥ずかしいけど、可愛い俺も好きで……」


 ……変なことに気づいた。

 妹ちゃんは双子であり、俺と瓜二つのはず。だのに印象が違って姉妹だなんて思いもつかなかった。それは、妹ちゃんが眼鏡を掛けていることと、髪の毛が長くて綺麗で女の子してることに起因する。

 つまり、目の前の妹ちゃんは、俺の女子形態完成形なのだ。頭半分低いけど。


 俺は、俺の容姿が好きだ。アオイという容姿に恋をしている、といってもいい。

 でもって妹ちゃんは俺とそっくりだ。男としての触手が蠢くほどの美少女である。俺が美少女だから妹も美少女だ。こうして目の前に置かれると美しさが際だつ。


 ……タイプだ。


 俺も何言ってるか分からなくなってきたが、妹ちゃんは、翠ちゃんは、俺のタイプなんだ。すごく好き!

 が、しかし! 俺は紳士。冷静になれ! 素数を数えろ! 1,2,3……あとは知らん。まだ習ってないから。


 ……中身が男の女の子。女同士で血の繋がった姉妹で、モラルという上でHはいけない! 愛だの恋だのはいけない事だ。罰が当たる。

 だので、おかずにすることがあっても恋してはいけない。明日香みたいな辛い目に合わせてはいけない。諦めろ俺。うん、諦めた。


 可愛い妹がいる。それだけで人生勝ち組だ。妹には人並みな人生を送ってもらいたい。

 ――この間、約0.5秒。


「……その、アレです。今の俺を受け入れてくれれば、無問題です。いずれ、時が解決してくれるかもしれないし……」

 その時が来るかな?


「……来ないかもしれないし……」


 俺が妥協するか、俺を知って、なお愛してくれる可愛い女の子が現れるかのどちらかだ。問題は、両方とも可能性が低いって事くらいだろう。


「碧ちゃん」

 お母さんがテーブルを回って俺のところへ来た。


 そして、両手を広げ、怖々と近づいてくる。


 ……俺は無抵抗だ。十分予想される、これから起こることに、俺の体が震えている。

 お母さんは、ゆっくりと、大事に、壊れ物を扱うように優しく、俺を両腕で包んでくれた。俺を胸に抱いてくれた。

 柔らかい。良い匂いがする。これが母の匂いか。温かい。これが母のぬくもりか……。


「碧」

 耳元で名前を呼ばれた。母の声で名前を呼ばれた。


「おがあざん!」

 俺も抱きついた。お母さんの胸に頬を押しつけて甘えた。


「会いだがったよぉ。う、うえぇぇーん!」


 情けない事に、声を上げて泣いてしまった。

 泣いたのはいつ以来だろう……。それは、足を滑らせて、股を木の枝で打って、一回転して海に落ちたとき以来の事だった。

 

「お姉ぇちゃんッ! ふええぇーん!」

 翠ちゃんが後ろから抱きついてきた。手をお腹と胸に回される。


 翠ちゃんも温かいよ! 柔らかいよ! これが血の繋がった身内なんだな。感動的なシーンだなぁ……。

 俺一生忘れないよ。今日という日を。……翠ちゃん、右手、そこオッパイだから、もう少し上か下にして、手をニギニギしないで。


「よかったわね、碧ちゃ……ぐすぅっ!」

 ノリ子さんも、泣いてくれていた。


 ……家族……なんだなぁ……。

 

 

 して――

 泣きの一騒動があって、食事の残りを片付けて、団欒の時間となっていた。


 ずいぶん時間をオーバーしていたが、お店の人のご好意で(10年ぶりの親子の対面だと、ノリ子さんがチクった)もう少し居られることになった。

 お母さんと翠ちゃんは、親父と別れてからの生活を(母子家庭だった)。俺は島の生活を(おもしろおかしく加工して)話した。

 それと最近の学校生活もだ。


「碧ちゃん、壁ドン、お母さんにもやって!」

 お母さん、ちょっと天然が入ってるのかな?


 でも、お母さんのにこにこ顔、そしてこの暖かい空気を壊す真似をするほど野暮な俺じゃない。お母さんも、わざとこの空気に乗っかってくれてるんだ。


「じゃ、ちょっとこっちへ」

 お母さんの手を取って壁際に誘導する。

「わくわくするわ」

 お母さん楽しそうだな。


「お母さん! お姉ちゃんの壁ドンは、冗談の範囲だからね! ホントは男の子がするモノだからね。本気になっちゃダメだよ!」

「何言ってるの、この子は。お母さんは30過ぎた大人よ」

 お母さんも笑ってる。たしかに宴会芸の一種だ。


 では――


 お母さんに覆い被さっての――壁ドン! 顎クイッ! 唇と唇を近づけ「俺の女になれ」……


「キャー! お姉ちゃんッ! キャーッ! 王子様ぁッ!」

「うわー! 碧ちゃん、これはわたしでも来るわー!」

「あはは、こんな感じで……お母さん? あれ? お母さん?」


 お母さんは放心したような顔をして、目からハイライトを無くして、ズルズルと背中を壁に擦りつけて、お尻を畳に付けた。腰が砕けた?


「あ、碧ちゃん……お母さんね……まだ女だったの……」

 がくっ! 


 俺翠ちゃんとノリ子さんは互いに顔を見合わせた。


 翠ちゃんから一言。

「だから、言ったのに」


 ノリ子さんから一言。

「碧ちゃん。壁ドン禁止令を発令します」


 こうして俺の壁ドンは禁呪とされ、封印される事となった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ