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14.美少女碧ちゃん、ゲロる


 信じられねぇ!

 俺、美少女なのにゲロ吐いたぁーッ! 美少女の前でゲロ吐いたー!


「如月さん!?」

 水無月が大きな声を出した。俺は口に手を当て、廊下へ飛び出す。教室を出たところに手洗い場があるんだ。


「おゲロッ! ゲロゲロゲロッパシャー!」

「如月さん! 如月さん!」


 水無月が背中をさすってくれる。美人にさすってもらえて、これに答えぬ男はいない!

 ゲロはすぐに止まった。止めた! 気分が悪い。

 

「ぷはー! ダイジョウブ。くちゅくちゅくちゅッ、ぺっ!」

 うがいして、吐瀉物で汚れた手を洗い、胃の内容物を流し、袖で口を拭く。

 美少女でも嘔吐物は臭い。


「だ、だれも見てないだろうな?」

 美少女たる者、人前でゲロしてはいけません! 美少女憲章第3条に違反する行為だ。

 キョロキョロと辺りを見回す。


「大丈夫よ。誰もいないわ! 大丈夫よ!」

「お、え?」

 水無月さんが俺の頭を胸に抱えてトントンしてくれている。

 胸が、おっぱいが、柔らかい、セーラー服が……

 

 ――水無月さんに惚れていいですか?――

 

 なんか変なことになったんで、秘密のお話はそこまでとなった。


「水無月ッ! 何でも言うことを聞く。ゲロの件は黙っておいてください」

「だ、大丈夫よ! だれにも言わないわ!」

 

 といった乙女の秘密を……すげー汚くて、乙女という言葉を発明した人が時空を超えて全力で殴りに来そうな乙女の秘密を胸に秘めてくれた水無月さんは偉人だと思う。

 乙女の秘密でいいよね? 女の子の秘密と言い換えても良いですけど。


「水無月の笑ってる顔、初めて見た」

「え?」


 おや? 気づいてないのかな? 今、水無月が笑っていたのだが? お気に召さない? ゲロのことチクられる?


「水無月は綺麗なんだから、笑顔だともっと綺麗だよ。学校一番の美人だよ! 2番目のわたしが言うんだから間違いない!」

 これだけ褒めておけば機嫌も治るというもの。


「そうかな?」

 長い髪の毛を弄くる水無月。本物の美少女は絵になるなー。


「如月さんも綺麗よ。クラスの男の子、みんなあなたのことを狙ってるみたいだし」

「むぶっ、オゲロッ、パシャー!」

「キャーッ!」

 


「本当に大丈夫? 保健室、行く?」

「や、ダイジョウブダイジョウブ。出来れば2~3日、男とのオセッセを連想させるワードは控えて欲しい。はぁはぁはぁ……」

 手洗い場に両手をついて、肩で息をしている。

「水無月先生、ゲロの件は……」

「わかってるって!」


 どちらからともなく「またお話ししましょうね」という実に美少女的でチャーミングな言葉を口に出して、学校を後にした。

 ……ごめんよ、水無月さん……



「ということがあった」

「きったねぇなー!」

 ナオの家に上がり込んで胃散を飲んでるところだ。

 話し相手が誰だとは言ってない。秘密にすることも約束させた。ナオは、この手のことは絶対守る子だ。


「……絶対だぞ。俺の心のカウンセリング的な意味を含めての話なんだからな。相手のことより、俺がゲロったって事を問題にしてるんだよ。ノリ子さんにも話すなよ。話さなきゃならないときは、吐きそうになっただけ、つって話すんだぞ! いいか、美少女がゲロったなんて絶対あってはならないことなんだからな!」

「美少女のくせになんちゅーことしてくれる! アオイ、お前、成人するまで二度と吐くなよ。少年が抱く美少女の夢を壊すなよ! 次吐いたら警察を呼ぶぞ!」

 充分心得てるって。……警察案件なの?


「なんにしろ、誰もいない放課後で美少女2人きりの図は美しかった。美術品として価値が出るぞ!」

「あー、まー、アオイが美少女だって事だけは認めてやる。吐くなよ」

 ナオはしつこい。


「俺、症状が悪化してないかな。それが心配だ。あと親父殺す。殺してからノリ子さんをけしかける」

「どれどれ?」

 ナオの手が伸び、俺の二の腕を掴んだ。

 握ったり離したり、グッパを何回か。そして離す。


「なにやってんの?」

「症状は落ち着いたようだな。男の僕が触っても何ともなさそうだし」

「はぁ?」

 意味不明なんですが?


「僕← 男← 二の腕← 触った← イマココ」

 ちょいちょいと自分を指さして原始人ワードで喋るナオだった。馬鹿かコイツ?


「あ、ああ、なんだ。いつもの馬鹿か。いきなりで気がふれたのかと思った。安心したよ」

 こいつだったら何ともないな。いや、たとえ夜のおかず目的で触ったとしても、なんともない。どうぞどうぞだ。

 吉田あたりだったら……直接おせっせに繋がらなければ大丈夫だと思うんだが……それきりだったら何ともない気がする。おっぱいとかは対外的にマズイからダメだが……。だめかな? 試してみるか?


「おっぱい触る?」

「もう少し大きくなってから」

 ハッハッハッ、ナオはこういうヤツだ。


「でもって、アオイ。大事なことだけど、その謎の美少女と今後どういうお付き合いをするつもりだ?」

「……悩んでるんだよ。綺麗だし優しいし、おっぱいあるし、お尻丸いし、体は柔らかいし……」

「アオイも充分柔らかいぞ」

「……なんで?」

「さっき触ったけど、冬よりさらに柔らかくなってる」

「良い傾向じゃないか?」

「だな」


 脂肪かな? 運動量は落ちたとはいえ、そこらへんの女子より遙かに多い。いや、運動を減らして脂肪を溜めるという手もある。全てはおっぱいのために。

 

「話、続けていいかナオ?」

「お、おう! 美少女同士?のお付き合いの話だったっけ?」

「うん……、美少女同士?の、だ」


 水無月さんな……、彼女が女の子しか駄目な性癖の持ち主だとは思えない。父親に暴力を振るわれた結果、変に曲がってしまって男という生き物を怖がってるだけだ。優しい男と出会えれば、頑なな心も傷も、解きほぐされることだろう。……と思う。知らんけど。


「近似値な経験者同士で意見を交換するだけの間柄に落ち着くだろうな。……謎の美少女のような美少女にお友達認定されたらラッキーということで」

「ラッキー、からの?」

「からの、は無い。そこに『からの』は付かない。もといして、万が一その関係になったとしようよ。謎の美少女が女の俺を愛してくれたとしようよ。俺もそれに答えたとしようよ。付き合うとしようよ。でも、俺の中身は男なんだよ。それって裏切りじゃないか?」

「黙ってりゃわからんだろ?」

「気持ちの問題なんだよ。俺、黙ってられないよ。それにいずれ感づかれる。バレるって。いつバレるかとビクビクしながらお付き合いするのって、無理。俺の性格上、無理。即、答えでないと無理!」


 お互い、明け透けな関係がいいんだ。肩の凝らない相手。笑える程度の裏切りしかできない小心者どうし。嘘をつかない。それがいい。


「そうか、奥さんに黙って風俗へ冒険に出かけるのとは違うか」

「愛とか恋とか、違いが分からんけどそういうのでなきゃ良い。アイドルの推し活くらいなら可愛いものだ」

 どうしても女は受け身だ。いかんともしがたい。


 ナオはスマホを弄っている。俺も持ってるけどラインしか入れてない。あと、このみちゃんに勧めて入れられた画像加工アプリ。

 ナオは青い鳥のSNSをよく使っている。後学のため、ネタのため、時々見せてもらっている。見る毎にエッチなフォローが増えている。


「ここ、ほら、ネタかもだけど、レズ風俗――」

「お前が神か!」

 俺はナオのスマホを奪い取った。 

 

 翌日。校門付近で吉田に会った。たぶん偶然を装って俺を待ってたんだろう。

「や、やあ、如月さん。偶然――」

「吉田、腕貸せ」

「え? え?」


 吉田の腕を無理矢理つかんで、俺の二の腕を握らせる。

 フニフニと。

 うむ、なんともない。完全回復したようだ。


「邪魔したな」

「えっ? えっ?」

 内股になって前屈みになった吉田を置いといて、下駄箱へ向かった。


 吉田は俺の腕だけでイケルと。

 男は外見の変化があるから辛いね。


 下駄箱で水無月と会った。水無月も偶然を装って俺を待っていたようだ。なんか嬉しい。

「もう大丈夫そうね」

 儚い笑みを浮かべる美少女は美しい。俺の体を気遣ってくれる美少女はもっと綺麗だ。そして嬉しい。ナオをスマプラで打ち負かしたときより何倍も嬉しい。



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