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10.少女として


 して――

 二日目も無事終了。

 明日から本格的な授業が開始される。時間割もフルだ。鬼か?

 そして俺たちは反省会だ。今日は俺の部屋な。


「ナオなー、もちっと早く吉田止めろよぉ」

「止めたんだけど、あいつが振り切ったんだ。アオイも後ろで聞いてたんなら、もっと早く声掛けてやれよ」

 面白そうなので最初ッから聞いていたのは内緒だ。


「俺、吉田のおかずにされてんのかー。なあナオ、俺、どんないやらしい姿にされてたんだろ?」

「吉田はおパンツに拘るタイプだから、おっぱい丸出しでおパンツ姿がベースだろうな。そこからのバリエーションだ。たぶん」

「おパンツ好きは俺達と同じだな……」


 吉田になった気分で、ちょいと想像してみた。……俺、すっげースケベな女になってた! おっぱいでっけー!

 ナオは……難しい顔をしてウンウン唸ってた。唸らねばならぬのか?


「むーっ! おっぱいを大きくして、腰を細くて相対的にヒップを大きくして……くっ! だめだ。想像を挫折した!」

 ナオの馬鹿が床に拳を打ち付けている。


「そんなに想像しづらいか? 吉田も言ってたけど、俺って結構綺麗な顔してると思うんだけどなー」


 アゴとかほっぺたとか、指で挟んでプニプニする。年末のあの時よりプニプニになってる。

 ……メシの量が増えたからかな?


「まあ、そうだね。綺麗だと思う。クラスで1.2を争ってるぞ。敵は水無月さんだ」

 水無月さん。落ち着いた大人の雰囲気を持った美人さんだ。


「アオイって、最近、急に綺麗になってきた。去年のクリスマス頃とは大違いだ。何があった?」

「嫌なこと思い出させるな。ぶん殴るぞ」

「はっはっはっ、悪い悪い、冗談だよ」

「碧20歳ならおかずにしていいぞ」

「20歳のアオイはとっくにだ」

「年上趣味か、やるなこのやろう!」


 20歳になった俺かー。さぞや美女になってるんだろうなー。体もメリハリ付いててぇー。おっぱいはあまり大きくない手頃なのが好みなのだが。美味しそうなおかずだ。楽しみだなー、20歳。


「ところで、のど乾いたからなんか飲ませろよー」

「ミルクでいいか? なに? キリリンサイダーがいい? まってろ」


 言われると俺ものどが渇いてる気がする。下の台所へといそぐ。

 ペットボトルごと持って上がってきた。


「自分でつげよー」

「うん」


 ナオは俺のタンスをゴソゴソしていた。おパンツを入れた引き出した。引き出しの中は切り子に仕切られている。おパンツをクルクル巻いて仕切りに入れておくんだ。上から見ると花のつぼみみたいで綺麗だ。お花が女子のおパンツだから、より綺麗に見えるんだ。


「好きだなぁ、ナオは」

 ナオは、パステルブルーのボーダーパンツを引きずり出して、指を突っ込んで広げた。


「なあアオイ、これ履いてくれてる?」

「いや、こないだの一度きりだ。先に俺の履きたいのから履いている」

「今日のは?」

「光沢感に優れたピンク色のだ。……ほら」

 スカートをまくし上げて、見せてやる。


「あー、はいはい、あれね。前に小さなレース付いて、どこか昭和テイストな」


 このおパンツは、ナオのウケがいまいち悪い。ナオのために買ったのではないのだから、気にする必要はないんだけど、俺とナオの趣味が割れててなんか悲しい。

 俺は基本、無地で小さな小物が付いてるのが好きだ。ちっこいレースとか、ちっこいリボンとか。そこにアレ的な魅力を感じる。

 ナオは柄物が好きだ。ボーダーだとか、生地の切り替えだとか。

 ハイレグ好きなのと、前割れなどのドが付くスケベ下着が嫌いだというのだけが2人の共通点だ。


「ナオはどう思う? 後ろに回るとだな……こう、ほら、洗濯表示の付いたペラペラさんが透けて見える。これ、どうよ?」

「ほんとだ。おパンティ系は生地が薄いからかな? なぜか興ざめるな」

「思うに、商業ベースってのが意識されるからではなかろうか?」

 ナオは、突き出した尻に顔を近づけ、透けて見えるペラペラさんを眺めてる。


「これ、外に出したら……」

 ナオの手が伸び、おパンツのゴムから指が入った。上手い具合にペラペラさんを外に出す。

「おパンツから白いのがはみ出してる。ちょいだらしないか? 色気とはほど遠い」


「どれどれ……」

 俺は姿見へ移動する。


「有りよりの無しかな? いっそ切るか?」

「貴様、天才か? どれ、僕が切ってやろう」

「ハサミはそこの引き出しに。そうそれ。それでヒヤぁッ!」

 金属の冷たいのがお尻に当たってビクンとなった。


「動くなよあっぶねぇ! 尻の皮切るところだった! ほらよ。よし! うん、良い具合だ」

「だめだ。切った残りがチクチクと尻の皮を刺激して痒い。これは失敗だ!」

 残糸処理をしなければならんのが面倒なので廃案だ。どうにも、はし痒い。


 俺はパンツを脱いで、……ナオが遊んでいるボーダーパンツに手を伸ばした。

「かせ」

「えぇー、今履くの? ちぇっ」


 ナオは渋々ボーダーパンツを手渡した。かわりに脱いだのを渡した。


「洗濯物が一枚増えてしまった……ナオ?」

 ナオの目が男前になっている?


「やはりパステルブルーボーダー。使ってこそのおパンツ。ボーダーおパンツが世界を救う」

 俺が履いてたピンクのおパンツを握りしめ……履いてたのは興味ないのか?


「よしよし。今晩のおかずにしたまえ。吉田のように」

 スカートを胸までまくり上げ、おパンツ剥き出しで何回かポーズをとってやる。俺にしても夢にまで見た女の子のアレだ。夢だ。ロマンだ。おかずだ。……このおかずまで食費に入れたら、摂取カロリーはとんでもない数値となるだろう。


「パステルボーダーは神。よぉーし、次はピンクボーダーを買うぞお!」

「しばらく買わなくても大丈夫なくらい所持してるんだが?」

「金なら出す! 何でも好きなおパンツを買うがいい!」

「まいどあり」


 次の土日にしまむろへ行こう。いや、もうしまむろに綺麗どころのジュニアおパンツはない。めぼしい物は、あらかたかっさらった。

 残りは大人用……大人用?


「なあ、ナオ。小さいサイズの大人用おパンツを買うのって女々か?」

「貴様、天才かッ! 僕の全財産を放出しよう」

 そんなこんなで、次の土曜日、ナオの財布でおパンツを買うことになった。

 

 して――

 春の日は釣瓶落とし。日も暮れた……秋の日が釣瓶だったっけ?

 

 親父が帰ってくる前に風呂へ入っておく。

 体の各所を洗うわけだが……胸の膨らみが、くッ、ちょいとばかり大きくなってるような? 形がね、だんだん格好良くなってきてるというか? まだ芯が残ってて触ると痛いんだけど。これ、治まるんだったよね? ガンじゃないよね?

 後、変化が見られるところと言えば、尻だな。前に見た記憶より曲線が増えている。

 体重も増えている。有り難い話だ。……女の子は体重を気にするらしいが、なんでだろう? ふっくらしていいじゃないか!


 洗い終わって、湯船に肩まで浸かる。

 むー……んなんなんな……ユキちゃんみたく可愛くはねぇし。

 だんだんと体が女の子になっていく。ストンペタンゴリゴリだったのが、ふっくら、ふんわり、やわやわに置き換わっていく。

 俺的には……性的にはハァハァものなんだが……だんだん、男から離れていく。力いっぱいブレーキを掛けているのに、ズルズルと前へ進んでいく。そんな……焦りか? そうか、この感情は焦りか……。


 俺はどこへ向かっているのだろう? いや、向かう先は知っている。

 俺は今まで通り、男でいたい。女の子と結婚したい。可愛い嫁といちゃいちゃチュッチュしたい。お嫁さんと力を合わせて暖かい家庭を作りたい。でもって、ナオが作った家族と一緒に旅行へ行ったりバーベキューしたり遊んだりしたい。

 ……したかった。


 ドブンと湯船に頭まで浸かる。ブクブクと口から泡が出ていく。

 女の子になりたくなんかない。だけど、女の子の体が好きだ。アレ的な意味で。

 俺の行き先は……。俺が行くべき場所へ行ったとき、隣にナオはいてくれるんだろうか?

 ザバリと水音を立て、勢いで湯船から出た。


 まだ答えは出ない。答えを出したくない。

 今の俺にはやることがある。俺には目的がある。


 もうすぐ親父が帰ってくる。帰ってきたら酒を飲ませて酔い潰して、親父のパソコンで海外エロサイトを見るという目的が残されている。



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