「火球」のファル~ファイヤーボールのみで英雄になった冒険者~
優れた冒険者には2つ名がつけられる。
「覇者」であったり「大賢者」であったり「剛剣」であったり「龍迅」であったり。
歴史に載るような偉業を果たした冒険者達である。
その中でも異色な存在がいた。
「火球」のファル。
彼は魔法使いとしての才能は並で、火魔法の中でも一番弱いと言われるファイヤーボール――小さな火の玉を飛ばす魔法――しか使う事が出来ない。
しかし彼はその魔法1つだけで2つ名を得るまでの功績を叩き出している。
そんな彼の歴史の一変。
彼は小さい時にはもう冒険者になる事は決めており、その中でも魔法使いに憧れた。
周りの幼馴染の友人が剣士や槍士などの前線で戦う事に憧れる中においては特異ではあった。
彼は魔法使いになると決めたその日から町の外れに住む元魔法使いであったと言われる薬師のばーさんに教えを乞いに行く。
魔法使いは才能であり、こんな普通の町の子供にはなれない。なれたとしても大成は出来ないし才能は無いだろうから諦めろ。と言われて追い返されるも毎日毎日飽きもせずばーさんの所へ行った。
ばーさんも追い返しても毎日来るファルにウンザリして、自分の薬師としての仕事を手伝うという条件の元、少しだけ魔法の手ほどきをしてあげる事にした。
「あぁ、違う。何度言ったらわかるんだい。魔法を使うには魔力を練らないと駄目だと言ったろう?」
「魔法使いは何個も魔法を覚えたから強いんじゃない。効果的に使うから強いんだよ」
「大魔法?あんなもんゴミだよ。ま、ワシは使えるけどね」
「何よりも速度さ、魔法を対処する時間を与えない事が重要なんで」
それから一人前と言われる16歳になるまで元魔法使いのばーさんに時には煽られ、時には説教され、時には杖でどつかれながらもファルは足しげく学校終わりに通い、魔法を学んだ。
結局魔法は1つ。ファイヤーボールしか教えてもらえなかったが。
「ばーさん!俺16歳になったから冒険者になる!」
「あーうるさいねぇ。さっさとお行き」
「今までありがとな!ばーさん」
ファルがやってきたのは都の冒険者ギルド。ここで冒険者として登録を受けなければ活動が出来ないからだ。
明らかに田舎者なファルは律儀に会う冒険者に挨拶をし、血気盛んな冒険者の毒気を抜きながら受付の順番を待つ。
「ファルさんこちらへどうぞー」
呼ばれたファルは冒険者カードに名前や年齢などを記入し血を一滴垂らす。
「えーっとファルさんの適正は剣士、弓士、魔法使いですね。どれで登録しますか?」
「魔法使いでお願いします!」
「はい、かしこまりました。使える魔法は既にありますか?」
「ファイヤーボールです!」
「では火魔法使いで登録されました。おめでとうございます。今日からファルさんは冒険者です」
伝説の始まりだった。
ファルは少しずつ少しずつ活動の幅を広げていく。
E級からD級に上がる頃、仲間が出来た。
D級からC級に上がる頃、新たな魔法を覚えようとしたが、本を読んでも理解で出来ず、知り合いの魔法使いに聞いても覚えられなかった。
C級からB級に上がる頃、彼は諦めてファイヤーボールの使い方を模索していた。しかし1つの魔法しか使えない事から仲間から追放され、ソロ冒険者に戻った。
彼はソロになっても、1つしか魔法が使えないと馬鹿にされても冒険者を辞めなかった。
ファイヤーボールしか使えないのならもっとスピードと量を上げようと練習を重ねた。
通常の魔法使いは魔法1つ使うごとに時間が生じる。それは中魔法や大魔法になればなるほど撃つまでも撃ってからも時間がかかってしまう。
初期魔法しか使えないフィルはその時間を更に減らし、初期魔法を連発することで火力差を埋めようとした。更には同時に魔法を発動できないかばーさんに手紙で聞いた。
返事は
「出来るよ」
としか返ってこなかったが、フィルにはそれで充分だった。ばーさんは嘘つかないので。
週1日の休み以外のほぼ毎日何かしらの討伐依頼、そして道中ついでにできる採取依頼を真面目にこなし、そしてギルド併設の訓練場で練習するフィル。
フィルの放つ魔法が訓練場においてある的に当たる度「パーン…パーン…」と音が鳴っていたがいつの日か「パン、パン、パン」となり、今では「「パパパパパパ」」と鳴るようになっていた。二重に音が鳴っているのは両手から高速でファイヤーボールが放たれているからである。
たまに訓練場に来るフィルより下のランクの冒険者も上のランクの冒険者もそれを見ると「え…何こいつ…怖…」という感想しか出ないレベルで異常な魔法の射出速度であった。
ギルドから冒険者バトルに誘われるようになった。
冒険者バトルとはパーティー毎に総当たりで対戦し、優勝したパーティーには貴族からの指名依頼という権力者と繋がるチャンスが得られる。
フィルは別に権力には興味が無かったものの、ギルドに誘われたので律儀に参加した。
しかもソロで。
ソロ、しかも後衛の魔法使いなんて傍目から見て鴨である。
対戦相手は舐め腐った目つきでフィルに襲いかかるが始まりと同時に襲いかかる異常な量のファイヤーボールに全員沈められた。余裕の優勝だった。
そして貴族よりの指名依頼。
何とかの森の何とかというモンスターの素材が欲しいという話であった。フィルは基本的には近場の狩場しか行っていなかったので場所にもそのモンスターの名前にも馴染みが無く、覚えられなかったのでギルドに頼んで地図を貰った。青い蛇だという事だけ覚えて現場に向かった。
そして数日後、暗闇の森のブルースティールスネークはフィルに食らい付こうと口を開けた瞬間に口腔内にファイヤーボールを連続で叩きこまれて丸々素材となった。しかもフィルは1匹で良いと言われたのに楽しくなって合計15匹分も持ち帰ってきた。
フィルがA級冒険者に格上げされた実績であった。
ちょっとしたお金持ちになったフィルはこの頃からモテはじめた。
しかしフィルはA級になったものの自分がファイヤーボールしか使えないのにどうしてこんなに女の人が話しかけてくるのかわからなかった。
彼がS級冒険者、そして「火球」と呼ばれるようになった功績。
それはダンジョンスタンピードの解決。である。
ダンジョンより大量発生した魔物によるスタンピードによって自分の育った町が危ない事を知ったフィルは町へと帰還し、その前線へと急いた。
かつての幼馴染や仲間、留まっていた冒険者によってギリギリ保たれていた戦線は、フィルの登場によって一気に優勢に傾く事となる。
そのまま前線で、ファイヤーボールを連発していたところ、後ろからばーさんが現れて「ブスッ」と謎の注射を刺されたフィルはばーさんに刺された薬によって超ハイテンションになり、笑いながらファイヤーボールで連発していった。
魔力が尽きるまで。
いや、魔力が尽きた後もおかしいテンションのまま魔法を発動させようとし続けた結果、大気中の魔力をかき集めてファイヤーボールとして放つ事が出来るようになった。
魔物が死んだ時に少量の魔力が大気に還元される。
そしてスタンピードにより魔物は大量にいる。
その魔力を集めてファイヤーボールとして放ち、魔物を倒す。
永久機関の完成である。
その日、フィルは魔物がいなくなるまでファイヤーボールを撃ち続けた。
その光景を見た冒険者や住民からは少し恐れられながらも、英雄としてS級冒険者の照合と「火球」の2つ名が贈られた。
S級冒険者「火球」のフィル。
彼はこれからも戦い続ける。
「以上が火球の冒険者ファルの物語となります」
そういって紙芝居のおじさんは話を終えた。
「ファルすげええええええ!」
「1個しか魔法使えないのにS級なんてかっこいい!」
「決めた!オレ冒険者になる!」「僕も!」「オイラも!」
ただ一つの魔法で最高峰にまで登りつめた男。
後世に渡ってもその活躍は人々によって語り継がれた。
digression
ばーさん
その昔「鮮烈」の2つ名で知られた女魔法使い。
様々な魔法を駆使したと言われるが一番得意にしていたのは火魔法。
火魔法を多重に重ねた物を魔物の群れの真ん中に飛ばして花火のように爆発させる
オリジナル魔法「フレイムブロッサム」によって一撃で群れごと消滅させる実力の持ち主だった。
フィルの魔法の師匠。金は余るほどあるので暇つぶしで薬師を行っている。
弟子が実はフィル以外にも沢山いた。
ブルースティールスネーク
青い金属の鱗で覆われており、装飾品の材料となる蛇型モンスター。
物理でも魔法でも倒せはするが、鱗に傷をつけると素材の価値が落ちる上に
猛毒を持つため厄介な相手。
フィルは高速ファイヤーボールで内側からこんがり焼いた。
なお、初期魔法程度であんなに狩れるならと真似しようとした者が大勢いたが
結構な人数が毒によって敗走する事になった。
ダンジョンスタンピード
ファルによって解決された大規模な魔物の襲撃。
ばーさんに打たれた注射の中身は違法な薬物とも賢者の石とも言われる。
ファル。
S級冒険者「火球」のファル。
才能:並 魔力量:極大(大気中の魔力使用込み)
ファイヤーボールのみ使える魔法使い。
田舎の町出身から英雄となり最終的にはその実力で貴族まで成り上がった豪の者。
彼の妻は指名依頼を最初に行った貴族の娘であり、ファルに一目惚れして
かなり熱烈なアタックを繰り返し、見事射止めたという。