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第24話 決意

 そんな私の気持ちなんて知りもしないアデラールとクロードは、まるで年若い少女のようにきゃっきゃと声を上げて話している。


 ……アデラールはともかく、クロードは気持ち悪い。


 そう思って、私は冷ややかな視線をクロードに向ける。……奴は、そっと視線を逸らすものの、すぐに真剣な面持ちになった。


「いや、本当にごめんってば。ベリンダからいろいろ聞いていたんだけれど、放浪の旅に出ててさ……」


 眉を下げても、クロードはちっとも可愛くない。


 心の中でそう思いつつ、私はクロードをジト目で見つめる。奴は、ごほんと一度だけ大きく咳ばらいをした。


「ま、まぁ、この話は置いておいて。……実は、フルールの耳に入れたいことがあってさ」

「……どんなことよ」

「このローエンシュタイン伯爵領で起こっていること、さ」


 ……何だろうか。この男は、全てを知っているのだ。


 その証拠に、クロードはアデラールに視線を向けた。アデラールが、ごくりと息を呑んだのがわかる。


「キミは、アデラール・ローエンシュタイン。このローエンシュタイン伯爵領の、先代の領主だね」


 先ほどまでの態度を消して、クロードがアデラールに声をかける。アデラールは少しためらったのちに頷いた。


「いやさぁ、俺的には? 人間がどうなろうが、貴族がどうなろうが知ったことじゃないんだけれどね」

「……薄情ね」

「そりゃそうだよ。魔王にとって、人間の寿命なんて些細なことだしね。……俺は『彼女』とフルールにだけ、情があるんだ」


 クロードの言う『彼女』とは私の師匠のことだ。クロードは師匠のことが人間として好きみたいだったし、その縁で私のことも気にかけてくれている。……肝心なときに、いないけれど。


「ただ、フルールが厄介ごとに巻き込まれるんだったら、それを阻止するべきが父親としての役目だ」

「……あっそう」


 もう、突っ込む気力も起きなかった。


 だから、私はもうどうにでもなれと適当な返事をする。アデラールは、ただきょとんとしているようだった。


「ベリンダから、フルールがローエンシュタイン伯爵領の元領主と一緒に暮らしているって聞いたから、ちょっと伯爵領を回ってみたんだよ」

「……旅って」

「まぁ、そういうこと」


 ……本当に、このクロードという男は食えない。


 こういうところも、本当に……敵わないなぁって。それだけは、思える。


「そこで、俺はいろんな噂を仕入れてきた。……その噂の大半は、現在の領主への不満不平。後は、そうだな……。先代の領主の不正がでっちあげだったんじゃないかっていう、話」


 その言葉に、アデラールが息を呑んだのがわかった。……アデラールの行いは、きちんと領民に伝わっていたのだ。


 それがわかって、ほっとする。


「まぁ、ここら辺は俺にとってはどうでもいいんだ。問題は、この後」


 クロードが指を一本立てる。その目は、いつも以上に真剣だった。


「領民は、暴動を企てている」

「……え」

「あと、先代の領主は死んだことになっているみたいだよ」


 そりゃそうだろう。アデラールの異母弟の考えはわかる。


 だって、アデラールが死んだことにしたほうが、都合がいいから。私だって、同じような立場だったらそう思う。


「……っ」


 アデラールが息を呑んだのがわかった。だから、私はアデラールの肩を軽くさする。彼の身体は、露骨に震えていた。


「キミは、どうしたい?」


 不意に、クロードがアデラールに視線を向けてそう問いかけた。


 どうしたい。その問いかけは、意地の悪いものだと思う。


「クロード……」


 私がクロードを嗜めようとすれば、奴はゆるゆると首を横に振った。


「フルールだって、わかっているんだよね。……このままじゃ、いられないって」


 ……胸の中を見透かされたみたいだった。


 つい先日、私たちはその件でちょっとした行き違いがあったのだから。


 そう思って私が黙っていれば、アデラールが唇を震わせる。


「……お、れは」


 その目の奥が揺れていて、多分彼も迷っているのだ。


(暴動を止めるということは、それすなわちアデラールの異母弟を助けるということにも、なってしまう)


 自分を殺そうとした人間を、助けようと果たして思えるのか。


 ……少なくとも、私だったら、無理だと思う。


「アデラール」


 無理、しないで。


 そう声をかけようとした。でも、かけられなかった。……アデラールは、ただまっすぐにクロードを見つめている。


「俺は、領民たちの血が流れるのが嫌だ。……だから、暴動を止める」


 アデラールのその声は、震えていなかった。ただ芯のこもった、強い声。


 ……あぁ、アデラールは私なんかよりも、ずっと、ずっと。


 ――強いんだ。


(私が思うよりも、弱くなかったんだ)


 それを、再認識した。なんだか、無性に……自分が、恥ずかしくなった。

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