表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/32

閑話4 好きって、自覚(アデラール視点)

 フルールが俺と出逢わなきゃよかったって、言っていた。


 それを聞いた瞬間、俺の心は冷え切った。……あぁ、フルールも一緒だったんだ。そんな気持ちが胸中を支配して、気が付いたら小屋を飛び出していた。


(俺は、何処に行っても邪魔ものなんだ)


 そう思って、近くの池に石を投げこんでいたら、フルールがやってきた。


 そして、彼女の本当の気持ちを知った。その気持ちを知ったとき、俺は初めて理解した。


 ――俺は、フルールを愛しているんだって。




 小屋に戻って、湯浴みをして。髪の毛についた土とか、全部落として。


 俺は食事用の椅子に腰かけた。目の前には、病人用の食事。フルールの前にも、同じものがあった。


「フルール、調子悪かったっけ?」


 きょとんとしてそう問いかければ、彼女はびくんと肩を揺らす。


「……そういうわけじゃ、ないんだけれど」


 彼女が視線を逸らす。……露骨に逸らされて、ちょっと悲しい。


 そんな風に眉を下げていれば、フルールは観念したように口を開いた。


「なんていうか、魔力に酔っちゃったみたいで」

「……フルールでも、酔うの?」

「そうなのよ。……心臓がなんていうか……すごく、音を鳴らしていて」


 頬を仄かに赤くして、そう言うフルール。


 ……多分、それは魔力に酔っているんじゃない。俺を、意識しているんだよ。


 なんて、言えたら楽なのに。もしもそうじゃなかったら、ただの自意識過剰な奴だし。


(言えないよなぁ……)


 心の中でそう思いつつ、俺は「そっか」と口に出す。フルールは、ただこくんと首を縦に振って、食事に手を付け始めた。


 だから、俺も食事に手を付ける。すっかり慣れたフルールの手料理の味。……どんなご馳走よりも、美味しく思える。


(好きな人の手料理って、こんなにも美味しいんだね)


 もちろん、料理人の腕が悪いとか、そういうことを言っているわけじゃない。


 ただ、フルールの料理が特別なだけ。彼女が俺のために作ってくれた。……それだけで、どんなご馳走にも勝ってしまうんだ。


「あのね、フルール」


 ふと、彼女に声をかけた。彼女はびくんと肩を揺らして、スプーンをテーブルの上に落とす。


 目の奥には、少し慌てたような色が宿っていた。


「……な、なに?」


 こんなフルール、レアだなぁ。


 なんていうか、彼女のいろいろな姿を知れて、嬉しいかも。なんて。


「ううん、呼んでみただけ」


 俺がゆるゆると首を横に振ってそう言えば、フルールは露骨にほっと胸をなでおろしていた。


 普段側に居る使い魔……ベリンダは、どうやら本日は別室で食事を摂っているらしかった。……気を、遣わせてしまったんだろうな。


「俺、フルールの料理、好きだよ」


 そう思いつつ、俺ははっきりとそんな言葉を口にした。……フルールの目が、驚いたように見開く。


「多分、どんなご馳走よりも美味しいよ」

「……大げさ、よ」


 フルールはそう言うけれど、なんていうか満更でもなさそうだった。仄かに目元が赤くて、頬がさらに赤くなる。……照れているんだ。そういうところも、どうしようもないほどに可愛い。


 俺の心を、乱して止まない。


(俺は、領主に戻ってフルールを迎えに来るんだ。……フルールと結婚して、幸せになりたい)


 すべてをあきらめていた俺に、手に入れたいものが出来た。


 それは喜ばしいことなのかもしれない。だけど、その手に入れたいものはなかなか手に入らないもので。そのうえで、俺の心を支配する強すぎる執着心。


 フルールに心を覗かれたら、終わるなぁ。と、なんてことない風に考える。


「……アデラール、は」


 不意に、フルールがそう声をかけてきた。そのため、俺はきょとんとしてフルールの言葉を待つ。


「……その、年上の女性が、好きなの?」


 多分、それは好奇心からの言葉だったのだろう。


 ……年上の女性が、好き。


(違うよなぁ……)


 そう思って、俺はにっこりと笑う。……フルールが、露骨に肩を揺らしたのがわかった。


「俺は、フルールだから好きになったんだよ。年下とか、年上とか。そういうの、関係ないから」

「……そ、っか」


 フルールが、いたたまれないような表情になる。


 そんな表情も愛らしいなぁって思うのは、いけないことなのかな?


(そんなわけ、ないよね)


 誰よりも可愛くて、誰よりも美しい。誰よりも優しくて、誰よりも俺のことを思ってくれる。


 ……そんな人、フルール以外いないよ。


(なんて、伝えられたらいいんだけれどね……)


 今、そう言ったら。きっと、フルールは逃げ出してしまう。


 それを悟っていたから、俺は自分の気持ちを口にするのは後回しにした。


 いつか、俺とフルールが添い遂げられるように。俺は、頑張るんだ。そう、心に決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ