01 デスゲーム開幕
「いってきます」
いつも通りの朝。
いつも通りの挨拶。
いつも通りの光景。
そしていつも通り──帰って来れると思っていた。
その日、俺は誘拐される。
◆
目が覚めると、俺は白い部屋の中にいた。
寝惚けてぼーっとしながらも辺りを見回す。
すると小さな扉と、これでもかとばかりに大きなテレビが目に飛び込んでくる。
「この状況は……なんだ?」
病院? 誰かの家? それにしては余りにも殺風景な気がする。
奇妙な現実というよりは、未だ夢の中にいるかのようなフワフワした感覚がある。
「たしか大学に向かってて、それから……」
その先の記憶がない。
という事は、あの時の道で何かあったんだろうか。
どんなに記憶を探っても、思い出されるのは閑静な通学路を歩いた映像だけだ。
今、謎の部屋にいる理由と一切結びつかない。
意味不明な状況に、正気度が喪失しそう。
考えても埒が明かないので、部屋の中を探索してみることにした。
配置されている家具は小さなタンスのみ。それ以外はベッドも椅子もない。
客人をもてなしたり、住んだりするには余りに不便なので、普段使いは想定されていないんだろう。
タンスには鍵がかかっていなかったので、普通に開ける事ができた。
「……拳銃?」
日本ではテレビでしか見かけないような暴力装置がケースに入れられる事もなくそのまま置いてあった。
流石に本物って事はないよな?
エアガンやモデルガンの類いだろう。でなきゃ不用心すぎる。
触るのも怖いので、放置することにした。
万が一指紋が残って銃刀法違反だとか言われるのは嫌だからな。
拳銃っぽい物の下に敷いてあるのは……紙?
手が拳銃に触れないようそーっと紙を引き抜くと、何か文字が書いてあった。
『応援してます! byリスナー』
いや、何がやねん。
主語がないぞ主語が。国語のテストなら0点だぞ。
応援って言われてもなぁ。心当たりがないぞ?
リスナーってのはテレビとかYouTubeとかのリスナーか?
うーん、ちょっとこの紙がどういう意味をもつのか分からない。
突然、部屋にある大きなテレビが光を放った。
『───そろそろみんな起きたかな? スタッフさんどう? OKね……あっこれもう放送始まってる? ごめんなさいね、久しぶりの生放送ということでバタバタしちゃって』
ドンキで売ってそうな、ピエロの仮面をつけた人間が喋り出す。
機械で合成されたような音声が流れてきた。
イベントか何かかな?
何をするにしても情報が足りないので、とりあえず座って聞くことにした。
『えー、これから皆さんには殺し合いをしてもらいます! 俗に言う「デスゲーム」ってやつですね。逃げようとしても体内に埋め込まれた爆弾が起爆するだけなので、皆さんに拒否権はありません。思う存分、デスゲームを楽しんでいってください〜』
唖然とする。
このモニターの向こうにいる人間の言うことを信じるならば、俺は悪趣味なゲームに巻き込まれたことになる。
悪戯か?
誰が? なんのために? どうして俺を?
分からない。
ふと部屋の様子をうかがうと、1つの扉があった。
外に出てご覧なさいと言わんばかりのオーラを放っている。
ここで外に出るという行動を起こせるのは、中々にメンタルが強い者だけだろう。
閉鎖的空間というのはストレスを与えるが、時に安心感も与えてくれる。
外にいるなにかから身を守るために。
「まぁいっか」
───ガチャリ。
俺はわりと肝が据わってる方なので、普通に扉を開けた。
うん。
海だ。
美しい青。
潮風の独特な匂い。
見渡す限りの水平線。
なんだかバカンスに来たんだと勘違いしそう。
旅行とかあんまししてこなかったから、ちょっとワクワクしている自分がいる。
ビーチバレーとかやってみたいな。
『島内に……あー、ここはどこかの無人島なんですが、ここにいる参加者さんたちは自由に生活してもらって構いません。快適に過ごせるよう「ミッション」なども用意しております☆ なお、デスゲームの内容は弊社の配信サイトにより生中継を行っておりますので、配信NGな方は申告してください。今すぐ爆死させてあげます』
バカンス気分が清々しくぶち壊された。
えーと、まとめると「テレビの企画」ってことか?
ショービジネス的なあれか。
各国の金持ちが道楽のために観戦してるやつ。
なんだかマンガや映画で見た事があるような内容だ。
ギリ信じられなくもない。
ああいうデスゲーム系の作品ってどう終わってたっけ?
いつも途中まで見てやめちゃうんだよな。
「デスゲーム運営側をみんなで協力して倒したぞー的な最終回だっけ? あんまし覚えてないなぁ……それにしても、お腹が空いた」
ブツブツと呟きながらも、周囲を散策する。
今の時刻はわからないけどお腹がグーグーと鳴るのを止められない。
朝に食べたっきりだと思う。
サバイバルの知識なんかは無いけど、現代人が暮らしていく上で「衣・食・住」は重要だ。
衣も足りてないし、食も足りてない。
「住居はさっきまでいた小屋を使えば───」
『あ、言い忘れてましたが参加者さんたちがいた小屋は数秒後に爆発します。ご注意ください』
数秒後。
その声の言う通り、最初に目覚めたときの小屋が爆発した。
映画やドラマなんかで見るそれよりも、生々しい温度感が肌に伝わる。
耳を突き刺すような凄まじい轟音は命の危険を感じずにはいられない。
モクモクと黒煙が上がっている。
「8、9……10は超えてるっぽいな。参加者とやらは」
近いような遠いような。
そんな場所から、ここと同じように煙が上がっているのが見えた。
おそらくこのデスゲームの参加者が、俺と同じように連れてこられた場所を示しているのだろう。
生えている草木に遮られしっかりと見通すことはできない。
まぁ数だけ知れたら十分だ。
ここまで来ると、もう誤魔化せなかった。
まだ、心のどこかでは悪い夢なんじゃないかと思っていた。
「どうやら本物らしい」
平和な世界で生きてきた。
殺しの経験など、当然ない。
ツゥと冷や汗が流れる。
しかし、無情にも残酷な殺し合いの火蓋が切られてしまった。
『では───《 ドキッ!女の子だらけのデスゲーム♡ 》スタートです!』
……いや、そもそも俺は男だし。
少しでもいいなと思ったらブクマ、感想、↓★★★★★評価をどうかお願いします。
毎日投稿していきます。