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推しを救いたいだけなんです!  作者: 江藤樹里
ペインフォード編
40/233

40 王都同行を希望した日


「王都へ行く使用人の数?」


 私の質問に、朝食を摂りながらミリーは怪訝そうに返す。料理長が私たちの話を聞いていたらしく、はっはと笑った。


「お前も王都に行ってみたいんだな、エマ?」


 推しの命を救うために何としても王都へ行かなくてはならないだけなのだけど、そういうことにしておいた方が理解されやすそうで私は頷いた。


「シーズンの頃にはエリオット様も王都に行きますよね? 向こうにいる使用人だけじゃないですよね? うちからだって、例えばエドワードとかミリーとか、連れて行くんじゃないですか?」


「それはまぁ、そうですけど」


 ミリーは不審そうに私を見た。本当にそれだけかと疑っている顔だ。


「誓って他の人に目移りはしません。エリオット様だけに尽くします」


「そういうことを言っているのではありません」


「へぇ、お前、ジャックと色々あると思ってたけど違うのか?」


「ジャックと?」


 私は料理長へ視線を向ける。おう、と料理長は鍋の中身をかき混ぜながら私を見た。この前の騒ぎの時もずっと心配してただろ、と。


「大広間でお前がジャックを抱き締めるのを見てたやつがいるんだよ」


「あわわわ、それは別に誰だってそうしますよ。ジャックやスタンリーとは仲良くしてもらってますけど、でもそれだけです。ジャックだって私にそんな想いはないですよ」


 同担だったことが判明したわけだけどジャックはそうと知らないだろう。ジャックはもしかしたら同担拒否をするかもしれないし、私も推し語りを彼にしたことはない。それに友達が憔悴していたら気遣うのは当たり前だ。それを恋だと捉えられたのでは堪らない。


「浮ついてるとかそういうのはないんです。ミリーは心配するかもしれませんけど、王都はきっと此処以上に危ない場所だと思うから。毒なら私、何とかなりますし。王都でもお役に立てるんじゃないかと思ってるんですが」


 真剣な表情を作ってみせれば、ミリーは心配そうに眉根を寄せた。ミリーは私が毒を摂るのを良く思わない。それは暖かな心だ。でも私が推しの傍にいるためにはこれしかない。また自分を売り込む必要があった。フォーブズ邸で留守番などになったら困る。


「良いんじゃないのかミリー。こいつ、置いてっても勝手についてきそうだ。それに向こうでも掃除の人手はあった方が良いはずだろ」


 料理長が味方してくれて私は大きく頷いた。


「エリオット様がいなくなる時期に此処に人手を割く必要はない。むしろ普段の様子を解ってる使用人をタウンハウスには連れて行った方が最終的には益があるんじゃないか」


 料理長からの思いがけない援護射撃に私は何度も頷いた。


「給仕は向こうの使用人でもできるだろ。でも毒の拭き取りは、エマがいた方が良いと思うがな」


 よくぞ言ってくれました、という思いで私は料理長を見る。料理長はニヤリと笑った。


「どうせ連れてくメンツはお前が提案するんだ。エドワードの審査は入るが別にエマがいたからって何か言うとは思えない。むしろこの前の牧師の例みたいに、向こうで役立つことだってきっとあるぜ。エマもやる気充分だ」


「やる気あります! だから私を連れて行ってください!」


 私が真剣にミリーに頭を下げるとミリーは弱ったような声で提案はしますと言ってくれた。その日のうちに、許可が出ました、とミリーが教えてくれて、私は思わず飛び上がる。一緒に行けるんだ、とアイリスも喜んでくれた。料理長は夕食のシチューに大きなお肉を入れてくれた。


「お姉さん、王都に行っちゃうんだって?」


 スタンリーが翌日、お昼を持って訪れた私に尋ねた。すっかり良くなって庭師の仕事の手伝いに復帰しているのに寂しそうだ。もう聞いたのね、と返せばスタンリーは頷く。


「シーズンの間だけだから。終わったらまた、エリオット様と皆で戻ってくるよ」


 そう、推しも一緒に。私は自分に言い聞かせるように言って微笑んだ。ホントに? とスタンリーが私を見上げてくるから、本当に、と私は返す。


「困らせるなよ、スタンリー。エマの言う通り、シーズンが終われば戻ってくるんだ。その時に何ができるようになったか報告できるように励んでおいた方が良いぞ。タウンハウスの庭師は優秀だからな、戻ってきたらオレたちの技術なんかみすぼらしく見えるかもしれない」


「えっ」


 作業道具を持ってジャックがやってくる。口元の布をずらしながらそう言うから、スタンリーが不安そうに兄を見上げた。そうなの? と私が尋ねれば、まぁなとジャックは頷く。


「種類が豊富なのは断然此処だけど、王都の方はエリオット様がいない間もきちんと手入れして育てている。オレはまだエリオット様に世話の仕方の指南を受けることも多いから、シーズンの間くらいしか完全に任せてもらえるわけじゃない。でもいずれは、エリオット様に一目置いてもらえるようになるつもりだ。

 まだまだ学ぶものは多いぞ、スタンリー」


 ジャックがそう言うとスタンリーは頷いた。ところで、とジャックは言う。


「エリオット様から庭園に入る許可をもらったんだ。スタンリーが面倒見てるシクラメンの区画なら入っても良いって。スタンリー、どうする、見てもらうか」


「……良い。おれ、寝てばかりで最近の世話は兄ちゃんがしてたから、ちゃんと世話できてない。お姉さんには、おれがしっかり世話できたら見てもらう。ごめん、お姉さん」


 スタンリーは悔しそうに眉根を寄せて絞り出すように言った。ううん、と私は首を振る。ジャックが息を零し、私と目を合わせて微笑んだ。私も微笑ましく思って頬を緩める。


「見習いでも意識はちゃんとプロだね。良い庭師になれるよ。私も風邪をひいちゃったから人のことは言えないんだけど、お互い健康に気をつけてしっかりお仕事しようね」


 スタンリーと視線の高さを合わせて言えば、スタンリーは私を真っ直ぐに見て頷いた。そしてあれから綺麗にしてくれたという庭師の休憩小屋に向かって、私たちはお昼を食べたのだった。


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