私の執事が何でも出来ると言うので試す事にしました。
事の発端は些細な事だった。
「いかが致しましたかお嬢様」
折り目正しく礼をする私の執事。
所作も完璧、仕事は出来る、そしてイケメンで高身長。
密かに我が屋敷のメイド達を虜にしている男、なのに女の影が見えない。
余りにも出来るものだから悪戯をしたくなった。
そうただの出来心。そして若干の下心。
「貴方、なんでも私の言う事を聞けますか?」
恐る恐る聞いてみた。
「お嬢様がそれを望むのであれば」
言質取ったで。
ここから私vs執事が始まる。
「…ならば喉が渇いたから水が飲みたいわ」
「こちらで御座います」
秒で水が出て来た。
そうこの執事、ちょっと優秀過ぎるのです。
「…今何処から出したのですか?」
「執事ですので」
理由になっていませんが?
「後ろに既に持っていたのかしら?」
「執事ですので」
…。
「日差しがキツいわ」
「傘をこちらに」
「なんか甘い物が食べたいわ」
「フィナンシェがこちらに」
「暑いわね」
「扇で仰がせて頂きます」
…。
「執事ですので」
聞いてねえよ。
「ねえ、今流行りの演劇があるみたいなの。でも人気で1ヶ月席が取れないみたい…」
「今目の前に呼びました」
呼んだ? 何を?
「執事ですので」
もしかしてそれだけ言えば解決すると思ってる?
目の前で演劇が始まる、これ本物だ。
「今日は聴きたい日では無いわ」
「劇団員の皆様、ありがとうございました」
…え、普通に帰るんだ。
どうやって連れて来たんだよ。
「劇団員ですので」
…そこは執事だろ!
「執事ですので」
変化球投げんな。
「この前死んでしまった愛犬を生き返らせて欲しいわ」
「呼んできました」
…。
「これ、そこら辺にいたバッ…」
「愛犬です」
いや、どう見てもバッタ。
「愛犬です」
…。
「転生してバッタになりました」
ウッソだろ!?
「あ、バッタもう1匹いました」
愛犬は1匹なんですけど。
「…逃げられました」
何故落ち込む、そして何故バッタ?
「執事ですので」
フォオオオ!!!
なんかよく分かんないけどテンション上がって来たあ!
「そこの本とって」
「はいお嬢様」
「爪が伸びてるわ」
「切らせて頂きます」
「肩を揉んで」
「かしこまりました」
あ、あふ。
「あんっ…」
「饅頭持ってきました」
「…違うわよ」
「すいません、こし餡でしたか」
「って違う! そうじゃない!」
なんかあるでしょ! 私に、この高貴な私に触れる事が出来て何も感じないの!?
ってか、私粒あん派ですけど!
こいつ、わざと鈍感気取っているつもり?
今私と貴方だけなの! 折角のチャンスなのよ!
襲いなさいよ! 男としてどーなの?
もうこうなったらトコトン虐めてやる。
「私、昼間は弱いの」
「遮光カーテンを用意しました」
「え? なに?」
「遮光カーテンです」
何それ? 聞いた事ないの出さないで欲しいんだけど。
一応今中世の貴族って言う設定だから!
「なんか爽快感のある飲み物飲みたいわ」
「コーラです」
「もっと違うのが良いわ」
「ペプシです」
「そうじゃなくて」
「ドクペです」
いや、ドクペはコーラに分類されねえから!
てか中世に全部ねえって!
もっとロマンチックに仕掛けなきゃ。
「ねえ執事、私あの流れる星が欲しいわ」
「お嬢様、今は昼ですよ」
「それが何?」
「夜になるまで待って下さい」
この執事、メイドで慣れてるな?
「じゃああの輝いてる太陽が欲しいわ」
「お嬢様」
「何かしら?」
「太陽を取ってしまうとどうなりますか?」
「どうなるって、暗くなるわ」
「そうです、暗くなって夜になってしまいます」
「それがなに?」
「貴方は夜になれば太陽を手に入れたも同然です」
この執事手強いな。
「じゃあ月が欲しいわ」
「お嬢様、月は満月の時も欠けてる時も御座います、どちらですか?」
「満月が良いわ」
「分かりました」
そう言うと後ろから一輪の花を差し出した。
「これは?」
「月下美人です」
なんで?
「満月の時にしか咲かない花だと言われています、ですので」
――貴方にこの満月を送りましょう。
ロマンチックーーーー!!!
「なんでしょう、凄い敗北を感じたわ」
「どうしましたか?」
こいつ、強すぎる。
そして手慣れ過ぎている、一体何人の女を落としてきたんだ。
いけないわ、落ちてはダメ、ダメよ私。
落さなきゃ! こちらが落とすのよ!
こうなったらちょっと恥ずかしいけど、勝つためよ!
「執事、足を舐めなさい」
「それは…」
おや?
「ん? どうしたの」
「あ、足ですか?」
おやおや?
「そうよ?」
「いや、その…」
まさかこの反応、照れてる?
「ほら、ほらほらほら」
「分かりました」
ほう、観念したか。
実はウブなのかしら。
「失礼します」
あれ? 本当に舐めるの?
私の足を? 本当に?
……。
「…やっぱり良いわ」
「?」
あっぶない、淑女にあるまじき事しようとしてたわ。
足を舐めさせるなんて、そんなプレ…行為は淫らだわ。
「コホンッ、さっきのは無しよ」
「はあ…」
何その残念そうな顔? 舐めたかったの?
私の足を? へ、変態なの?
「ど、どうしても舐めたかったのなら―」
「舐めたかったら?」
え、何。なんでそんななグイグイ来るの?
決めて無かった、え? どうしよう。
「舐めたかったら」
「はい」
え、えーと。
「私の事、好きと言いなさい!」
何言ってんだ私!?
ど、ど、どうしよう。
「それはお嬢様の望みですか?」
「い、いや望みではないわ」
「そうですか…」
で、どうなの?
「……それでは、好きじゃないです」
え、そんな。
好き…じゃない。
そんな、そんなの。
嘘でしょ?
瞳から涙が溢れて来る。
そんなのって。
ずっと私に仕えてくれたのに。
私はずっと好きだったのに。
メイドが良いの? 私なんかよりメイドの誰かを好きになったの?
嫌いだったなんて。
どうして! なんでよ!
「なんでよ!」
「なんでと言われましても」
彼は頭を掻きながら。
「そうゆうルールでしょ?」
凄くラフに、昔の幼い頃の二人のように。
「ルール?」
「うん、君が望むなら言う事を聞く。そうゆうルールでしょ?」
あれ? そんな事言ったっけ?
「忘れたの? 最初に君が言って、僕が望んだらと言ったじゃないか」
「そうだったっけ?」
「酷いなあ、1人で勝手に怒って泣いて」
「だって貴方が嫌いなんて言うから!」
そうよ、嘘でも酷いわ!
「じゃあさ」
「なによ!」
「俺に好きって言わせなよ」
「え?」
なにそれ、なんでそんなにニヤニヤしてるの。
ウザいんですけど、すんごいムカつく。
…でも。
でも。
「ねえ」
「何お嬢様」
「好きって言って?」
「それは君の望み?」
望み? そんな聞かれ方したら私が先に好きって言ってるようなもんじゃない!
あーあ、何この戦いは。私の完敗じゃない。
「望みよ」
だけど、試合に負けて勝負には勝ったわ。
だって彼から1番私が望む言葉をくれたから。
「大好きだよ」
これは、私と執事の2人だけの秘密の遊びである。




