【決意編】なんでもお金で買えると思うなよ!
全3話です。
あると便利だと思った。
ないなら作ればいいと思った。
2020年、僕はドミニオンステージを作ろうと思った。
なんせ暇だった。
あれは2020年の3月だったか4月だったか。もしかすると2月下旬だったかもしれない。よく覚えていない。気になる人は外出自粛の時期から計算して割り出してみてください。ある休日の午後、僕は暇を持て余していて、ボーッとしながら部屋の壁を見つめていた。この時期、新型コロナウイルスの影響で外出の自粛要請が出ていたせいで遊びに行きたくても行けなかったのだ。
ならば家で趣味に没頭すればいい。そう思ってなにかをしようとして、残念なことに気が付いた。僕の趣味はボードゲームである。電源を用いないゲームで、これが好きな人間はほぼ確実にメガネをかけているか早口で喋る。偏見ではなく経験上そうである。そしてボードゲームは一人では出来ない。人間の対戦相手が必要なのだ。いや出来るのもあるにはあるけど、傾向としての話で。なんで友達ってボードゲームの箱ん中に同梱してないんだろうか。いい加減そこを改善しないとボードゲームにハマるようなメガネは寂しい思いをしているよ。
ならネットでやればいいじゃないかって? 顔の見えないコミュニケーション苦手。
ということで、外出自粛で友達に会えない今、ボードゲームは出来ないのである。かといって他に時間を有意義に使いたくなるような趣味はまあ、なくはないんだけど、やる気があるかどうかはまた別問題。気持ちがそんな簡単に切り替えられてたら未練たらしくボードゲームのレビューサイトを巡回したりしないよね。
しばらく大した目的もなくレビューサイトを回ったりまとめサイトを見たりムフフな動画をテイスティングしたりしていると、ふとあるページが目に飛び込んできた。
『ドミニオンステージ』。
ドミニオンというカードゲームのグッズである。色は黒く、横長の長方形が3枚、傾斜して並んでいる。それらステージの上に、3~4種類ずつ、合計10種類のカードが乗っかっていた。
遊戯王のプレイマットのように無くてもプレイに支障はないが、あると見通しが良くなって遊びやすくなる商品だ。麻雀で言えば手前に出っ張りのある専用のマットと言ったところだろうか。色々説明したけど画像検索して。
ドミニオンは財宝カードや勝利点といった毎回使うカードとは別に、10種類のカードをランダムに選び、1種類あたり10枚ずつの山を作ってゲームを行う。これらの毎回使うカード+ランダムで選ばれた10種類のカードをまとめてサプライと呼ぶが、ドミニオンステージはこのサプライを見やすく並べるためのものだ。
その商品を使ったゲーム風景を見てひと目で気に入った。サプライの山が散らばりがちなドミニオンにはうってつけのアイテムだと思ったのだ。
ボードゲームはコマの移動やカードの配布といった全ての処理をプレイヤーが行うため、ゲームそのものの面白さを処理の煩雑さやごちゃついた盤面が打ち消してしまうことが往々にしてある。そのため見通しが良くなったりプレイしやすくなったりすれば、ゲームそのものが変わらなくても体感としてより面白くなることは珍しい話ではない。麻雀で言えば全自動卓。あと、机にフェルト生地のマットを敷いてカードゲームをしてもよく分かる。カードの取り回しやすさが上がって滅茶苦茶やりやすい。と、いいなあ。実はこの時点ではマットはまだ購入していなかった。ボードゲームをやり始めて8年ぐらい経ってるのにまだ使ってなかった。滅多にやらないテラミスティカに1万円出せてもマットには2千円出せない不思議。
ドミニオンはちょうど拡張を集めまくっていたところだったこともあり、プレイアビリティをあげるドミニオンステージはまさに渡りに船。買います買います百個買いますという感じである。
と、ここまで書けば読者諸兄も薄々勘づいていると思うが、僕はドミニオンが大好きである。大学時代、電気技術部のアゴ長メガネに教えてもらったのがドミニオンとの出会いだ。システムを聞きデザイナーは天才だと思ったが細かいことはまた今度。その場で何回かプレイして、それからすぐに自分でも購入したのだが、その頃にはニトロプラスカードマスターズという、カード内容はそのままにイラストだけゲームのキャラクターにしたバージョンが登場していた。その会社のファンだったこともあり、大元の――つまり、箱に斧を持ったおっさんや怪しげな実験をしているおっさんや陰謀を企てているおっさんが描かれている――原作を買わずに、そのゲーム会社の――つまり、蜘蛛になれる褐色美人や女体化したアーサー王や賞金稼ぎビッチが描かれた――バージョンを購入した。欲望には素直。
自分のドミニオンを手に入れてからは友達の小太りメガネやアゴ無しメガネや後輩のしょぼくれメガネとめちゃくちゃやった。合宿に持っていったときは止め時が見つからずにズルズルやって結局夜中の三時になっていた。「ドミニオンやろー」と言われれば用事がなくても大学まで赴き、そのまま何時間も遊び通した。特に小太りメガネはカードゲームが三度の飯と同じくらい好きで、とにかくカードをいっぱい引ければそれだけで絶頂するタイプの人間である。圧縮カードがあるなら圧縮しないと死ぬタイプの人間でもある。それに対し、僕は相手さえいれば無限にゲームしたいタイプの人間だったのでいい感じに歯車がかみ合った。結果、アホほどやった。授業に出ない日があってもドミニオンをしない日はなかった。
ドミニオンステージを買うことを決意した僕は、早速通販やオークションサイトを覗いてみた。結果は空振り。公式サイトによると、数年前の時点で売り切れており再版する予定もないという。
ボードゲームのレビューサイトでドミニオンステージの素晴らしさを啓蒙する記事を読んで僕は不貞腐れた。そりゃーいいもんでしょうよ持ってる人は。でももう生産終了してんすよ。ファックス。どうにかして手に入れる方法はないものか。とにかくサプライをすっきりさせてプレイしたくてしたくてたまらないのだ。どうして俺に気持ちよくドミニオンさせねえんだ。むーん。金なら出す。
とはいえ売っていないものは売っていないのである。現実は非情である。残念でした。むーん。金なら出す。
気分転換に漫画を読むことにした。その帯に目が留まる。
『あんなこといいな! できたらいいな! はい! DIY!』
せやな。
ということでドミニオンステージを自作することにした。この手の工作は学校の図画工作的なアレを最後にやってないけどまぁイケるっしょ。古来より人間はないものは作って何とかしてきたのだ。出来なきゃ死ぬなら案外出来てしまうのだ。人間の歴史は挑戦の歴史。なんでもお金で買えると思うなよ!
金なら出すとか言ってた過去の自分よさようなら。ようこそ新しい私。お金で買えないものもあることを教えてくれてありがとうドミニオンステージ。
しかし百均の商品はお金で買える。財布を握りしめて百均へ。百均は素晴らしい。ボードゲーマーの駆け込み寺。ジップロックやら小物入れやら、快適プレイに欠かせないものが百均には目白押しだ。最近は二百円の商品とか千円の竿とか売り出して均一ではなくなってきた感があるがそんなことは気にしない。え、無線スピーカーも三百円で置いてあんの? 子供のお小遣いで無線技術を味わえるとか令和マジパネェ。あ、スピーカーはともかく、スマホ置いて音を拡散させるプラスチックメガホンはお勧めしません。
百均に到着した僕は店内を物色する。何故かというと何を買うか全く決めていなかったからである。行けば何とかなると思っていたし今もそう思っている。なんせ百均だし。イケるイケる。キョロキョロしながら歩き回っていると、エスカレーターの脇にワゴンセールが如く積み上った黒い格子状の巻物チックなものを見つけた。
『滑り止めマット』。
そのときワイに電流走る。なんか使えそうな気がする。
そのときワイに電流走る(一行ぶり二度目)。思い……出した! アマゾンの段ボール箱に敷いてあった段ボールの中敷きがあったんだ。なんか使えそうな気がするって念のために置いといたやつ。まさか本当に使うとは思わなんだ。
滑り止めマット+段ボール板=ドミニオンステージ。
脳内イメージでは完璧である。これは勝った! まだ買ってないけど。 設計図が出来た途端、工作意欲がふつふつと湧き上がってきた。一刻も早く形にしたい。買ったら直帰だ!
会計! 寄り道! 帰宅!
帰り次第、設計図を具体化することにした。仕事じゃないからって手抜いてたら手抜き癖がつくってイタチの親方も言ってたしな。ノートを引っ張り出してフリーハンドでしゃかしゃか。はい設計図完成(板に滑り止めマットを貼り付ける。以上)。
それじゃあ工作道具を集めよう。真っすぐ切るための定規やカッターをとってくる。うっわ、小学校でもらえる兄ちゃんの30センチ竹定規、窪んでるところに修正液流し込まれてる。いったい何の意味が。小学生の行動に意味とかないか。直線取れればなんでもいいや。こいつは学校からの支給品のわりに使い勝手がいい。3コスの万能型アクションカードって感じ。+2ドロー。直線が引ける。孫の手にもなる。なんだこれ執事か?
続いてカッター。これは本来5コス相当だと思うが小さいタイプなので気分は4コス。ビニール切れます。細いところにも入ります。ハサミみたいな使いやすさはないけど、隙間産業的にいぶし銀な活躍を見せる。そう思うと再建が近い気がする。この感じ伝わってるのか? 念のために確認したけど再建って4コスだったんだ。3コスのイメージだったわ。
最後は漫画。『スクール×ツ●ール』。読んだ。作れる気がする。
さあ地獄のショータイムの始まりだ。
あんなこといいな! できたらいいな! はい! DIY!
それじゃあ次回は実践編、いってみよう!