聖女様が? チュドーンって一体全体??
チュドーンーーーーーーー
何が起こったのだろう。
赤いドレスの女性にフィーネが抱き着いた瞬間だった。
女性の身体から発するオーラが大爆発を起こしたのだ。
それは、オーラが見えないはずの人々にも、突風を巻き起こし、皆、悲鳴を上げた。
そして、赤いドレスの女性は、そのまま倒れた。
皇太子妃セシリア様が赤いドレスの女性の元へ駆け寄る。
「リーゼっ?どうしたの?」
リーゼと呼ばれたその女性は反応がないようだ。青い顔で地面に横たわっている。
フィーネは恐ろしくなって、ゆっくりと後ずさった。
ふと気が着くと、皇太子妃を警護してきたであろう、騎士団数名がフィーネを囲んでいた。
周りの民衆も恐る恐るフィーネを遠巻きに見つめている。そこには心配そうな両親の姿もあった。
病院から医者らしき人々が出て来て、リーゼの脈を取る。
セシリアが医者に向かって。
「ツルハ先生。リーゼは??」
「気を失っているだけです。皇太子妃様。すぐ、担架で運びましょう。」
リーゼが運ばれていくのに、ツルハ医師とセシリア皇太子妃は付き添って行った。
騎士団の一人がフィーネに近づいて。
「さぁ、来るんだ。」
フィーネの腕を掴んだ途端。
「いやっーー」
チュドーンーーーー。
と音がしてそのまま倒れる。
先程の大爆発では無いにしろ、オーラを爆発させて倒れたようだ。
ただ、他の人には見えず、音も聞こえず騎士がフィーネに触れた途端、ただ倒れたように見えたはずだ。
騎士達に緊張が走る。
フィーネは怖かった。何が起こっているんだろう。
父親と母親が走り寄ってきて、騎士達の前に土下座をし。
「この子は悪くないんですっ。何かの間違いですっ。」
「どうかお許しを。」
両親の姿に泣きたくなった。
白銀の鎧を着た、金髪の顔が美しい騎士がゆっくりと近づいて来る。
凄いオーラだ。キラキラと金色に輝いている。手には金色の剣を持っていた。今にも抜きそうな勢いだ。
「私は騎士団長、ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵だ。おとなしく来るがいい。でないと力づくで連れて行く。」
ひええええええーーーー。
怖いよーーー。
フィーネはマジで腰を抜かした。
あんなのに、力づくで来られたら殺される。
そこへ、ガタイの大きい、髭が生えた黒い鎧を着た男が、大きな斧を背にかついで現れた。
「よぉ。ローゼン。このお嬢ちゃんの力を解らずに、飛び掛かっていっていいのか?あ??」
後から来た男の顔を見た途端、明らかにローゼンは不機嫌に眉を寄せて。
「ザビト治安隊総監。王家の職員と騎士に手出しをしたこの女を連れて行くのは、私の管轄だと思うのだが。」
「ハハハハハ。こいつのおっとさん、おっかさんが真っ青な顔をしているじゃねぇか。
お嬢ちゃん。俺は平民の味方だ。ちょいと気を落ち着けて茶でも飲もうか。」
部下に命じて、敷物を敷いて、その上に大男はどかっと座る。
湯気の立つ暖かな紅茶の入ったカップと、大皿に焼き菓子を用意して。
「さぁさぁご両親も。なぁ一緒に。」
さっき、倒れた騎士も担架で病院へ運ばれる。
人々は、騎士団や治安隊によって避難を誘導されていた。
周りに民衆は誰もいなくなる。
居るのは騎士団と治安隊が50人程度だけだ。
恐る恐る敷物に座り、フィーネはザビトと向かい合う。両親はその後ろに座ったようだ。
勧められた紅茶を飲めば、とても温かくて美味しい。
静寂があたりを包み込み、鳥が、ぴいいいいいいと鳴きながら遠くの空を飛んでいくのが見える。今日もいい天気だなぁ。空が青い。
「どうだ?美味いだろう。特製の紅茶だ。毒や薬は入っていねぇよ。」
人相が悪いザビト総監はにんまり笑って、安心するように大きな手でフィーネの頭を撫でてくれた。
触られたのに何も起こらない。
フィーネは不思議な気がした。
ふと背後から声がする。
「オーラを操れるようだねぇ。そのお嬢さん。凄い力だ。」
振り向けば、先程、女性に付き添っていったツルハと呼ばれた医者が立っていた。黒髪に眼鏡をかけた中年の医師である。
ツルハはフィーネの傍に来ると、敷物に同じく座り込んで。
「その力はね…下手をしたら国を滅ぼしかねない力だ。そうそう、さっきの女性のオーラの爆発で、不思議な事に入院していた怪我人が全快したんだよ。後、病の人たちも、快方に向かっている。彼女は聖女だね…。でも、もし、ローゼン騎士団長のような人のオーラが爆発したら…王都一つはふっとぶかもしれない。」
ひえええええーーー。
フィーネは思った。
聖女様。国を滅ぼさないで下さいじゃなくて、私が国を滅ぼさないで下さい。って自分にお願いするのが正解じゃないの???