少女の思い
結局テーブルの上にはあったかい紅茶のカップが2つ。
じろりとファルを見るとわざとらしく斜め上に目線を逸らした。
ふっ、可愛いから許してあげましょう。
目線を戻したファルと目が合い、ヒラヒラと笑みを浮かべ手を振る。
「アナティナ、僕にもいつもみたいに微笑んで欲しいな」
うざいですわね。
何様のつもりかしら。
私が黙っていると殿下はさらに口を開く。
「ふぅ、話っていうのは他でもない。君のそういった態度のことだよ。どうしたっていうんだ?僕たちは今までうまくやってきただろう?」
うまく…そうですわね。お互い必要最低限度の接触と公の場での婚約者としての振る舞い。
「確かにうまく騙されましたわ」
私は籠の中の鳥にはもうなりたくない。
貴方の偽りの笑顔や優しさと言う餌をもらいながら生きるなんてまっぴらよ。
「…騙す?僕がいつ君に嘘をついたのかな?」
珍しく笑みが消えてる。
どうやら私の言葉が頭にきているようね。
それなら早いわ、ここからが本題よ。
「婚約破棄してくださいな」
言った。
ついに言ったわ。
おかしいわね。心臓がバクバクする、今更緊張してきたのかしら。
殿下は一瞬目を見開いたかと思うと、飲んでいたカップを静かに置いて口を開いた。
「理由を聞いても?」
理由ね。
なんて言おうかしら。
1番の理由は死にたくないから、だけどこれを言ったところでよね。
私は1度死んで思ったのよね。
まだまだやりたいことはあるのにって。
「恋…。私は恋愛をしたいのです。他にも、やりたいことが沢山あります。その為にはまずは邪魔なものを取り除く必要があるのです。」
いざやりたいことを口に出してみると、気持ちが昂って色々余計なことを言ってしまった。
でも、私の真剣さは伝わっただろう。
そう思いチラッと殿下を見る。
ふいっと顔を逸らされ…た?
この距離で無視ですか。
「…帰る。あーそれと、入学式の日は迎えに来るから待っているように。じゃあね、アナティナ」
やっぱり無視を決め込んでるわね。
どういう事ですの、なかったことにされましたわ。
これ、性格悪いどころじゃありませんわよ。
殿下の出て行った扉を見つめため息を溢すアナティナであった。