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『社交界荒らし』4



『自称凄い学園長、なんか思いつきました?オレ達は全然』

『なんですかそのトゲのある言い方? おほん、私もあまり良い物が思い浮かびません!雪と氷が使えない冬のイベントとか前代未聞なので!』

『自信満々ですね~』


久しぶりに学園長の声を聞いたが、相変わらず元気なことだ。年齢不詳なのに。


「ま、まずいです」

「え?何が?」


イルゼが青い顔をしたので、思わず聞き返す。


『……で。

 イルゼ! 貴方聞いてるんでしょう!盗み聞きはいけませんと何度言ったら分かるんですか!』

「うわっ、バレてしまったよ!」


ヒロがドン引きした顔で後ずさる。君の勘もなかなか野生動物並だけどね。


『出てきなさい! そして良い案を提示しなさい』

『さすが学園長、無茶を言うね』


とても楽しそうなバルタザールさんの笑い声の中、イルゼは指先でいじいじするようになってしまった。


「おじさまには『裏校舎』から覗いていてもすぐバレてしまうんですよねぇ……」

「降りるッスか?」

「はい。皆さんの前で怒られるのは恥ずかしいですし」


少し顔を赤らめて拗ねたように言う彼が珍しくて、思わずクスリと笑ってしまった。

 にしても、降りるったっていつもイルゼはどうやってあんな勢いよく本校舎に戻っているんだろうか。


「ヒーローさんには着いてきて貰いますけど……ウィルス様達はどうしますか? 」

「うーん、上手く着地出来る気がしないからなぁ……。イルゼこそよくあの高さから無事に着地出来るよね」

「ふふふ、コツがあるのですよ」

「衝撃を上手く受け流すのが得意ということだね! イルゼはやはり、武士(もののふ)というより忍みたいだよ!」


ヒロの明るい声に眉を下げて微笑んだ後、イルゼはヒロの手を取って一緒に下へと降りて……というより落下していった。

 下から寮長達の悲鳴が聞こえて、ジミィと顔を見合わせる。


『いい反応だね! 楽しいよ!』

『おや、オイナクルミくんもいたんですか?』

『はい。心当たりがあるそうなので連れてきちゃいました』

『うむ、皆の為になるなら協力するよ』


「……俺達も本校舎に戻ります?」

「そうだね」



『裏校舎』を出ると、階段横の倉庫の場所に出た。『裏校舎』は入る場所はある程度指定できるのに、出る場所はバラバラでちょっと困る。


「えっ」

「えっ?」


どうやら俺達は壁を通り抜けた形で現れたらしい。

 ……さっき声をかけてきた1年生が、驚愕の顔で俺達を見ていた。


「あっ、こ……これはその」


見てはいけないものをみてしまった、と顔面蒼白になる1年生。傍から見たら俺達が後輩女子を脅しているようにしか見えないだろう。

 手には委員会で使ったらしいパイプ椅子が抱えられており、倉庫に返しに来たのだなと予想がついた。


「これは俺達がやっとくッスから、あんたは帰っていいよ。そのかわり内密にお願いするッス」

「は、はい……失礼しましたっ」


手慣れた様子でジミィがウインクすれば、弾かれたように彼女は走り去ってしまった。


「……大丈夫かな」

「多分?」



魔法学園だから仕方ないと都合よく解釈してくれれば助かるんだけど。

 椅子を倉庫にしまってから、俺達は2人とぼとぼと食堂の方へ向かったのだった。





それから1週間後。


「まさか本当に節分を採用するとは思わなかったよ」

「他にありませんでしたしねぇ……」


ヒロが思いついたイベントは無事可決、スノフェスに代わりセツブンが開催された。

 ルールは雪が豆にみたてたカラーボールになっただけでスノフェスとあまり変わらないが、1点だけ全く違う。


「アンバー寮とオパール寮が『鬼』役なんだよね」

「ジミィもエルザも敵だなんて……燃えるね!」


そう、『鬼』役と『人間』役に分かれるのだ。

 鬼も人間もカラーボールを相手に当てられれば失格。どちらかの陣営が全滅した時点でゲーム終了、敵を倒した数に応じてランキングがつけられる。

 寮は5つで鬼の方が少なくなるので、あちらは魔法による移動のショートカットが許されている。

 学園長ではない普通の先生方が移動用魔方陣を貼ってくださり、魔法が下手でもなんとかなるようになっている。


「移動用魔方陣に張り付いてリスキルするか……普通に逃げるか迷うね」

「ひっ、張り付いてて後ろからやられたらどうするんですかっ!逃げましょうよ!」


今年もいつも通りガーネット寮長のアベルさんが開会式をとりまとめ、今年限りのルールを説明してくれた。


「負けませんわよ。ねぇジミィさん?」

「もちろんッス、今年も優勝はアンバー寮が頂くんで。覚悟しとくことッスね?」


わあ、突き抜けて負けず嫌い同士の2人が味方同士になっちゃった……。

 と苦笑いしていると、ヒロが「ウィルも大概負けず嫌いだと思うよ!」と言ってきたので軽く睨んでおいた。


「それでは5分後にスタートとする。『人間』役、解散!」


相変わらずの厳しい顔と通る声で開始を宣言したアベルさん。

 同時に俺達『人間』役……ガーネット寮、アクアマリン寮、タンザナイト寮は一斉に散らばった。



「どこに行こうか?」

「去年は屋上で籠城したし……今回はそうだね、隠れ場所が多そうな温室に行こうかな」

「そうですね、賛成ですぅ」


温室って1年生のときに1回行ったきりだからね。新鮮なのもある。

 たどり着いた温室は相変わらず珍しい花が元気に咲いている。中は静かで誰もいないように思えた。


「……きゃあ!?」

「ひえっ!?」


が、俺達を敵かと思ったのだろうか。鉢合わせた1人の女生徒が悲鳴をあげ尻もちをついてしまった。


「大丈夫?……あ」

「あ……」


見かねて手を差し伸べて、気づく。この子この間、『裏校舎』から出てくる俺達を目撃しちゃった子だ。


「ありがとう、ございます。先輩方はここで隠れるおつもりですか?」

「まあね。君は1人なの?」


栗色の髪を手で撫でながら、彼女はそうだと頷く。


「メルル・ラブラです。……今まで挨拶してなくて申し訳ありませんでした」

「!」


ラブラ。ラブラ子爵家の……もう1人の子供!?

 そんなの居たのか?


「ディアモンド様ですよね。あの……ジュエルは一応、私の姉なのです。 不本意ながら」

「……なるほどね」


何となくピンと来た。本当に苦虫を噛み潰したような顔で『姉』と言ったメルルは、養子のジュエル嬢がルーカスと婚約したことに納得していないのだろう。


「まあ、弟妹同士仲良くしよう。同じ寮なんだし」

「む?どういうことだい?」


事情を知らないヒロがこてんと首を傾げる。

 もう発表されたことだし、簡潔にルーカスの婚約のことを話すと2人とも驚いていた。


「あのお兄さんが子爵家と婚約……ですか 」

「子爵って偉いのかい?」

「ディルクさんとデボラさんより上の爵位ですねぇ。エルザ様のお家の1つ下です」

「へえ、そうなのか!」


メルルは困惑したように髪を撫で続けている。

 前見た時も1人で居たし、あまり騒がしいのは好きじゃないのだろうか。


「まあルーカス様は社交界でも平民の中でも人気ですし……悪い話ではないですよね。子爵家的にも」

「ええ、父はまさに天啓だとばかりに喜んでいました。なぜ平民上がりの姉が見初められたのかは疑問ですけど」


不機嫌そうな顔に一瞬、彼女もデボラ嬢と同じくルーカスが好きだったのかと思った。

 しかしそれならもっとルーカス相手に恨みつらみを垂れてもいい気がする。


「ジュエル嬢のこと嫌いなの?」

「えっ」


率直に聞くと明らか動揺された。

 イルゼが「直球!」とおののくのを横目に、俺は努めて明るい笑顔で続けたのだった。



「俺もね、ルーカスのこと大嫌い」



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