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『BNA』2


「言いたいことは分かりますが、これも入学する手続きの一つなんです。この学園の守護神的なもの……神じゃないですけど。とりあえずそんな感じの物との約束なんですよぉ。大丈夫です、死んだりしません」


……まあ分かるが。

 神でないとしたらやはり天使とかだろうか。天使にしてはちょっと暗すぎる制約な気もする。


「その代わり、起きたらもう始業式の始まりは万端。面倒な着替えもメイクも完璧!って感じなので。大目に見てくださいってか従って下さい」


凄い開き直りだ。

 生徒達も「はあ……」という微妙な空気になっている。


「では、二列に並んで下さい。分身が棺桶に入れてくれますので。あ、暗所恐怖症の方がいたらご報告を」



ぞろぞろと並びだす生徒達。

 茶髪くんと隣に並んで、軽く喋りながら待った。


「そういやあんたの名前聞いてなかったッス。俺はジミィ」


よろしく、と握手を求められたので笑って応じた。


「俺はウィルス・ディアモンド」

「ああ!ディアモンド家だったんスね。平民……ってか商人の息子の俺でも分かるッス」


へー、そうなのか。

 通りでオープンキャンパス中に

「あれいくらするんスかね」「高そ〜」「高級そうなものって使いにくいッスね」

とか言ってたわけだ。


「……おっと、そろそろ順番ッスか。入学式でまた会えるといいッスね!」

「うん」


心からそう願いたいな。

 最後にもう一度「じゃあまた!」と言い合って、直立に立てられた棺桶に入る。


バタン、と蓋が閉められた瞬間に、どうしようもない眠気が来て……


『魔法、なの、かな……』


そのまま意識は飛ばされた。





「いやぁ、守護神様も無茶なこと言いますよね。入学式直前に棺桶に入れろなんて。

ま、でも私凄いので。出来ちゃうんですけど!」




ガタン!!


「っ!?」

「はい、おはようございます」


急な意識の覚醒にくらくらしながら、手を引っ張られて外に出た。

 ……あ、そうだ。棺桶の中で寝たんだっけ。



「えっ」


いつの間にか服が変わっている。

これは……ローブ?黒の金刺繍のローブだ。ポケットをまさぐると、何か指に当たったので取り出してみる。


「えぇ……」


それは手鏡だった。慌てて自分の姿を確認すると、メイクも髪もたった今準備されたかのように整い済。

 他生徒も自分の変化に驚いたり喜んだり。平民だとメイクもする機会がないだろうし、物珍しいのかも。

ぽやーっとした気持ちで突っ立っていると、学園長の分身が「こっちですよ〜」と急かしている。


棺桶置場らしき場所は既に生徒達で埋まっているので、このままじゃまだ起きてない子が出られないのだろう。

 人の並に合わせて案内された方へ向かう。ジミィくんの姿は見当たらないな……。


「……!……れ、……!」


どうやらホールへ向かっているようだ。浮いた照明が見えてくる。


「……ス!……い!…ウィルス!」

「へ?」


ホールに踏み入れた瞬間、何者かに後ろから肩パンされた。

 …………いたっ!?


「い、痛……」

「ああ!すまない!大丈夫か!?」


こ、この声はもしかして。


「嬉しくてつい力んでしまったようだ! ウィルス、君もBNAに来たなんて! この巡り合わせは奇跡だ!オイナに感謝しないと!」

「『ヒーロー』くん!」


あの『ヒーロー』くんだった。


「ヒーローと呼んでくれているのか!なんでか全く誰も呼んでくれないんだ。君が最初に呼んでくれるなんて嬉しいよ!」


え、そうなの。

てっきり身内での渾名なのかと……

 『ヒーロー』くん改め、ヒロくんもローブに身を包んでいる。


「棺桶の中は意外と寝心地がよかったな!」

「そ、そう?」


凄い今肩が凝ってるんだけど……。

 声量からしても、体育会系なのだろうか。



「にしても、噂に聞いていた通りこの学園は凄い!故郷で全く見たことがないものばかりだよ!少しでも目に焼き付けておかないと!」


その言葉にうんうんと頷く。

 SBCも凄いとは聞くが、BNAの魔法技術は桁違いだ。


「そうだ。君がヒーローと呼んでくれるなら、僕はウィルと呼んでもいいだろうか?」

「え?」


思わぬ申し出に思わず目をぱちくりとさせる。


「良いけど……俺は別に、四六時中ヒーローと呼ぶつもりじゃ」

「本当か!? ウィル、ウィル、ウィル……うむ!いい響きだ!」

「ちょっと……」


聞いてないし。あと恥ずかしいからやめてくれ。

 ははは!!と燃えるような赤髪を揺らして笑うヒロくん。薄い色の髪が多いこの国では、こんな濃く鮮やかな髪は珍しい。

……あ、そうだ。


「改めて。ウィルス・ディアモンドだ、よろしく」


ジミィの時は相手から名乗ってもらったので、今度は俺から名乗ることにした。


「うむ!ヒロ・シェ・オイナクルミだ!こちらこそよろしく頼む!」


思った以上に独特な名前をしていて驚いたが、笑顔で握手を交わす。やはり外国人なんだろう。



「新入生の皆さん。今度こそご入学おめでとう!皆さん式典服がよくお似合いです。いやぁ〜、私ってばデザインセンスも凄い!流石私」


 変わらず自信満々な学園長が祝辞を述べる。ホールいっぱいに長机と椅子がズラっと並べられていて、立ちっぱだった昨日より随分楽だ。教師陣や各寮長の紹介などもあったので、睡魔が来るまでの気は抜けなかったけど。


「さて。では皆さん、堅苦しい話は終わりにして、乾杯しましょう。手元のグラスを手に取って!」


 パンっと学園長が一つ手を叩くと、長机に一人一杯のワインが出現した。


「あなた方の新生活が良いものであるように!乾杯!」



乾杯!


 ホール中に声が響き、楽しそうな笑い声で包まれる。


「ウィル、これはなんの飲み物だい?こんな神秘的な色の飲み物は初めてだ!」

「ワインだよ。葡萄から作られてるお酒。……ん、美味しい」


 アルコール度数は低いが、ジュースとは全く異なるこの味わい。もしやこれも魔法から作られたものなのか?


「お酒なのか!祖国では白濁酒しか見た事がないよ!ごくごく、うむ!実に美味しい!」

「は、はくだく?」


なにそれ。


「ではでは、皆さんお待ちかね。寮の組み分けを行いたいと思います!」


学園長の言葉に、新入生達が歓声をあげる。確かにお待ちかねだ。


「組み分けは貴方の本質と、水鏡次第。行きたい寮になるとは限りませんから、そこんとこよろしくお願いしますね」


 ホールの中央ステージ真ん中に位置された『水鏡』は、一見普通の鏡に見えた。


「なんだ!?鏡面が波立たっているぞ!」


ヒロくんの言う通り、鏡の部分が水面のようにゆらゆらと動いている。どういう仕組みなんだ……。


「さあそっちのテーブルから順番に分けますよ!分けられた生徒は、横に掃けて、押さないでくださいね」


がやがやとまた騒がしくなるホール。

 ヒロくんは常目をキラキラさせ、あれは何かこれは何かと周りについて沢山尋ねてきた。



「ウィルはどこに行きたいとか無いのか?」

「うーん……策謀家でもないし、野心家でもないし、向上心も微妙だし……ガーネット辺りだと嬉しいかもしれない」


同じ『ウィル』呼びをされていても、ヒロくんにはルーカスよりずっと喋りやすい。これは友達というやつか。

 ぼっち回避の嬉しさを噛み締めているうちに、このテーブルの順番になったようだ。

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