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『BNA』


「そろそろ着きますよ」

「……えっ」


翌朝、俺は御者に声をかけられて跳ね起きた。爆睡してしまった。

 うわ、髪の毛ぐしゃぐしゃ。貴族が聞いて呆れるぞこれ。

使用人がいないので身だしなみも自分で整えなければならない。2ヶ月前の誕生日パーティで、やたら目が肥えた使用人達に「磨けば光る」と言われてからは少し気をつけるようになった。

 当然自分に自信はないが、蔑まれるよりはマシだ。


「右手をご覧下さい。

ブライウェルナイトアカデミーへようこそ」



高度を下げ始めた馬車から望むは銀の城。

背に海を従えてそびえ立つ『校舎』は、写真以上の迫力をまとっていた。


「凄い……」


こんな凄い所でこれから勉強するんだ。


 やがて馬車は黒い道に着地し、何も無かったかのように地に足つけて走り出した。

他生徒らしき馬車もチラホラと見える。

始業式はまだらしいから、同級生なんだろうか。


下級貴族の屋敷みたいなサイズの門を潜ると、いよいよ校舎が目の前に現れる。上から数人の生徒らしき人が見下ろしているのが見えて、思わず窓から身を引いた。


「はい、到着です。足元気をつけて」


少し手を貸して貰い、固い石の地面に降り立つ。

馬車は「荷物は寮に置いてきますから」、とちゃっちゃと行ってしまった。お礼を言いたかったんだけど。


 見回した先に城内へ入る人だかりが見えたので近づいてみることにした。

……様々な外見をした同年代の子達が沢山。

外国人が多いとは本当だったんだな。

 彼らに続いて長い階段を上り進んでいくと、魔法で照明がふわふわと浮いている不思議な空間に出た。

 皆も見慣れないようでザワザワしている。知り合いと一緒に入学した生徒も居るようで、和気あいあいとしていた。

……あれ、俺、出だしからつまづいてないか。


「新入生達、注目!」


手を叩く音が響き、ホールの上……バルコニーのような場所から男が現れる。


「入学式は明日ですが、ひとまず入学おめでとう!私は学園長のM.(ムッシュー)。ちなみに君達をここまで運んだ御者は私の分身でした!凄いですね〜、私」


ヤバい人だ。

 でも確かに外見は御者と似ている。全身も黒く、御者と違うのは仮面舞踏会で付けるような豪華な仮面くらいだろうか。


「私の凄さはこんなものじゃないんですけど、今日はお預けにして……。明日の入学式に備えてもらうために、ひとまずオープンキャンパスと洒落こむとしましょう」


もう一度学園長が手を叩くと、10人ほどの御者……分身が出てきた。


「まだ到着出来てない子も居ますがそれは後で。だいたい10人ずつで固まって、それをひと班としてください」


 確かにオープンキャンパスが開催されないとはなぁと思っていたが、さっきの馬車で納得がいった。不特定多数にあんな凄い魔法は見せられない。

友達は居ないのでそこら辺にいた子達と適当に集まる。


「それでは行ってらっしゃい!」



引率してくれるらしい分身がパチンと指を鳴らすと、俺達は一斉に転移した。




「魔法陣無しで転移……」


信じ難い。一体どうなってるんだこの学園は。


「凄いッスよね。仕組みも学べたりするんスかねぇ」


同意してきた隣の男子に「だといいね」と返す。



「私達はまずガーネット寮を見て、反時計回りに学園を巡りますよ〜」


いつのまに取り出したのか、小さなフラッグを振りながら学園長の分身が言う。


「にしても、広いッスね。5年通っても全部把握するのは無理なんじゃ?」

「ははは、それは努力次第ですよ」


さっきと同じ子……茶髪の男子くんは積極的に分身に話しかけている。

 他の子達は既に班内で話し相手を見つけたらしく、口々に喋っている。また出遅れた……。


「ねぇあんた、この国の貴族様ッスよね?なんで外人とか平民が少ない他所に行かなかったんスか?」


ぼーっとしていたら突然話を振られてビクッとする。


「いや、別に深い理由は無い」

「ふーん……。まぁわざわざ此処にしたってことは、俺ら平民についてもなんとも思って無さそうッスね。当たり前か」


なるほど、俺の貴族性を気にしていたのか。貴族には平民と同じ空気を吸うこと自体を嫌う者も多いから無理は無い。……俺の父親みたいに。


「ちなみに親父さんには爵位とかあるんスか?あ、嫌なら言わなくていいッスよ」

「侯爵だよ」


え゛っ、と驚きの声を漏らす茶髪くん。まあ、ルーカスならまだしも俺にオーラは無いだろうな。


「あー……馴れ馴れしかったッスかね。申し訳ないッス」

「全然」


ゆっくり首を横に振って微笑む。どうせ次男だし、出来れば仲良くしたい。


「はい、ここがガーネット寮です」


そんなこんなしてるうちに赤レンガの建物に案内された。玄関前の屋根には、薔薇モチーフの寮章らしきものが掲げられている。


「規律を守る優等生の方は、ここになる可能性が高いですよ!多分」

「うげぇ、俺は遠慮したいッス。ルールに縛られるのあんま好きじゃないんスよね」


うん、そんな気はした。


「あんたは此処になったりして。真面目そうッスから」

「そうかな」


魅力的ではあるけどね。



「中に入る時間まではありませんので、パパッと行きますよ〜。では、次はグラウンドに行きましょう」






それから数時間かけてあちこち見て回ったり、学食を食べたり。

貴族は団体行動自体まれだから、一日中新鮮なことばかりで。もう『測定』のことなんて忘れちゃいそうだった。

日が傾いた頃、俺達生徒は再びホールに集められた。オープンキャンパスは終わりということだろう。

 朝と同じく学園長がバルコニーから顔を出して話し始めた。


「今日一日お疲れ様でした。いやぁ、十人も分身をバラバラに使えるなんて凄いですねぇ私。


……さて、皆さんはまだ寮が決まっていないので寮には泊まれません。実は、ちょっと窮屈な思いをしてもらわないといけないのです」



その言葉に新入生達はざわめく。


「じゃん!!!貴方達には今から此処に『入って』、この中で休んでもらいます」

「はぁ!?」


上機嫌に『それ』を出してきた学園長に、茶髪くんが思わず文句を言う。他生徒も動揺しているのかいっそうざわめきが強くなった。

 無理もない、だってそれは


「棺桶じゃねえッスか!臨死体験でもしろってこと?」


……って訳なんだから。

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