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『Danger』7

 時の流れとは早いもので、今夜に入学式のために旅立つこととなった。


悪趣味な黒封筒の手紙が届いた時は怪しすぎてビックリしたが、校章で封をされていたので使用人に捨てられずに済んだようだ。

『入学式の三日前に迎えをよこすから出立しなさい』とのことで、とりあえず自前で転移魔法陣を調達しなくて済んでほっとしている。

凄い高いから、アレ。


「寂しくなるなあ」


 しゅん、と目に見えて落ち込んでいるルーカスに冷たい視線を送る。なぜ俺の部屋にいるんだお前は。


「お兄ちゃんがこんなに寂しがっているのに、お前は全然優しくしてくれないね」

「はいはい、それはすみませんね」


珍しく嫌味を言う兄を尻目に、淹れたての紅茶を飲んだ。……ん、美味しい。


「でもよかった、無事に出立出来そうで。父上がやっぱり駄目って言う可能性もなくは無かったから」

「……それやめろ」


幼い子供相手のように俺の頭を撫でてきたので、渾身の目力で睨みつける。しかし、いつもは直ぐ手を離すのに今日は全く引く気配がない。


「今日くらいは良いだろ?次に会えるのは年越し前になっちゃうからさ」

「まぁそうだけど」


あまり実兄にベタベタされるのもな……


「もう3時か。アフタヌーンティー、俺も貰っていいかな」

「どうぞ」


こいつ、夜まで居るつもりか……。

 あまり拒むとカイル辺りから飛び火してきそうだし、仕方なく。今日だけの辛抱だと我慢することにした。





「忘れ物無い?ホントに?いや、ウィルはそんなうっかりしてないのは知ってるけど。取りに戻れないんだから」

「何回も確認したって」


親かというほどに何度も何度も尋ねてくるルーカスに流石に少し引いた。

 今日は夜会があるため両親は見送りには来ない。弟妹は居るはずだが顔はもちろん見えなかった。


 執事を連れていかないので、本当にディアモンド家と年越しまで物理的に縁が切れるのはとても嬉しい。が出発するまでこんなに心労が大変だとは予測していなかった。

俺は今から長旅なんだが?分かってるのか?


スーツケース2つ抱えてようやく玄関ポーチに出ると、


「なにこれ」


真っ黒な馬車があった。カーテンも黒。今時珍しいアーチ屋根になっており、馬も綺麗な黒色だ。

……あれ、転移魔法じゃないのか。


「あれかな?僕の学園と一緒で、最初は馬車で行って降りたところに転移魔法陣があるのかも」


ルーカスが事も無げに言う。


「?普通に校舎があるじゃないか」

「あれは事務舎だよ。あの中に魔法陣があって、本校舎はBNAと同じくらい」

「えっ」


そうなのか。てっきりあれが本校舎だと思っていた。

 なら、王太子が『SBCに負けず劣らずの学園』と言ったのは本当のことだったんだな。



「ウィルス・ディアモンド様でお間違いないでしょうか」

「は、はい」


馬車と同じく真っ黒な、そしてなぜか仮面をつけた御者が出てきて、ゆったりとお辞儀をする。なんだか妙な感じで思わず背筋を伸ばした。


「お荷物はこちらに」


ゴソゴソとスーツケースを馬車に積む御者。……服もメイクも真っ黒だ。好きで全身真っ黒にはならないだろうし、従業員の規約なんだろうか。


「じゃあ、元気でねウィル。年越しのホリデーに会おう」

「……ん」


俺の額に手を当てて、さぞかし寂しそうに言うルーカスから目を逸らす。

 なんでそんな顔をするんだろう。俺は好きでこの家から離れるのに。

最後にぎゅっ、と抱きしめられてから、馬車の乗り場に足をかける。


「帰ってきたら沢山話を聞かせておくれ!」


今から楽しみだという顔で笑ったルーカスに、つい釣られてにやけてしまった。


「……もちろん!」



ハッ!という御者の合図で馬車は走り出す。

窓からそっと振り返ると、まだルーカスが立っているのが見えた。


「馬鹿な兄さん」


羨ましいくらい綺麗だなぁ、本当に。




「揺れますよ」

「え?」


突然御者から言われ、程よい硬さの座席の上で身構える。

ガタガタガタッ!と結構激しく揺れたので少しよろめいてしまったが、問題ない。

 ふう、ともう一度窓の外を見た時、驚愕のあまり座席から落ちかけた。


「と、飛んでる……」


首都の街が眼下に広がっていた。

 【浮け】という魔法は確かに存在するが、こんな大きいものを浮かせるのは出来ない。数センチ浮くだけならまだしも、完全に重力に逆らって『飛ぶ』なんて。

人間でも箒がないと出来ないのに。


「窓は開けないでくださいね」


窓に張り付いているのが分かったのか、御者が忠告してくる。流石にしないよ。


「この事は校外には他言無用です。もちろん、お兄様にも。破れば記憶処理の後退学となりますのでご注意下さい」

「わ……わかった」


退学は嫌だな。通信の魔法機器は持ってきていないし、年越しに帰るまでは関係ないと思うけれど。



「着くのは朝になりますので、座席に横になっても大丈夫です。あ、クッション等は座席の下にありますよ」


よく喋る御者だな……。

どうせ寝るつもりだったし、お言葉に甘えることにするか。

 下からクッションと薄いタオルケットを取り出し、座席にセッティングする。……あ、いいかも。揺れを気にさえしなければ充分眠れる。


「……そうだ、パンフレット」


かといってまだ興奮しているので、最後にもう一度パンフレットでも確認することにした。


「寮の項目でも読み直すか……」



BNAの寮は5つ。

薔薇のガーネット寮。

深海のアクアマリン寮。

荒野のアンバー寮。

白銀のオパール寮。

夕闇のタンザナイト。


自分の家名が『ディアモンド』であるゆえか、宝石がモチーフのものだと少し背筋がゾワッとする。


ガーネット寮は規律をよく守る優等生の寮。

アクアマリン寮は知略に長けた策謀家の寮。

アンバー寮は実力のある野心家が集まる寮。

オパール寮は自分を磨き続ける向上心ある者の寮。

タンザナイト寮は秘めた才能を持つ原石達の寮。


と書いてある。

寮の外装の写真からも、それぞれ全く違う特徴が伺える。うぅん、アンバー寮は暑そうだし、オパール寮は寒そうだ。アクアマリン寮は……海の中にあるように見えるけど気のせいだろうか。タンザナイト寮はなんか暗い。

一番環境が良さそうなのは緑や花もあるガーネット寮に見える。



「ふぁあ……」


眠くなってきた。

 折角の眠気を無駄にはしたくない。大人しく眠ろう。

タオルケットにくるまって目を閉じる。秋だから少し肌寒いかと思ったが、そうでもなかった。

 うとうとと半分意識を飛ばした状態で、明日のことを想像してみる。


『Danger』から逃れるために頑張ろう、とか。テストで良い点を取りたいな、とか。

ああ、でもなにより望むのは。



「友達出来たらいいな……」

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