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『全力ファイティング』7


午後3時を告げる鐘が鳴る。


かくして、『スノーファイト・フェスタ』は幕を下ろした。

…………アンバー寮の勝利で。



「ギャハハ! ざまァねえなあ〜!ウィルくんよォ」

「やめてください……」


宴会……言うなればお疲れ様でした会……の席でレーオンハルト殿下が俺と肩を組んで煽りに煽る。

 皆がお菓子をつまんで談笑している中、俺の周りだけ剣呑な雰囲気に包まれていた。


どこから持ってきたのか、唯一の成人であろう殿下は酒を飲んでいる。

 そんな状態で俺にうだ絡みしているのだから、ヒロは殴りかかる寸前。イルゼは怯えてカタカタ震えている有様だ。


「寮長、いい加減にしないとその酒瓶で頭かち割るッスよ」

「んだよ〜つれねェな。誰のおかげで勝てたと思ってんだ? ええ?」

「それとこれは別ッス」



そう、アンバー寮が優勝したのには実は理由がある。

 レーオンハルト殿下が『初めて』寮の指揮をとり、『初めて』自分で動いたから。

それも、国王陛下もビックリの手腕で。


「囮役が俺だったのには納得してないッスよ」


ムスッとするジミィ。

彼はさも秘密兵器のようにホースで無双しており実際何人も屠ったが、所詮あれはただの陽動。

 真の目的は『普段ダラダラしている』レーオンハルト殿下をアタッカーにすることで油断を突き、大きく敵を瓦解させることだった。


寮での会議でも、殿下はルールすら覚えていないような演技をしたらしい。そのおかげで味方であるアンバー寮生にも意識を向けられることなく動けたということだ。

 身内にも秘密兵器はジミィということにしておいて、ジミィと副寮長にだけ自分の立ち回りを説明した……らしい。


頭の固いところのあるガーネット寮とアクアマリン寮は呆気なく崩壊、オパール寮とタンザナイト寮も終盤に入るまで殿下を危険視することは無かったという。

 長年殿下と付き合ってきた人間ほど引っかかりやすい罠だったというわけだ。



「素晴らしく姑息な手で、俺も感心しました。その頭があればルーカスなんて赤子同然では?」

「あァん? いい子ちゃん相手に通じる戦法じゃねーんだよ。いい子すぎて『あの方にも何か考えがあるのかも』とか思いそーじゃん?」

「思われる自信があるんですね」


先生達は休みなので、殿下から酒をひっぺがせる者はほぼいない。

 酒臭いな……。


「ウィルくんも最後まで残ってたじゃん? まあわざと狙わなかったんだけどよォ。凄い凄い、いーこいーこ!」

「撫でないでください」



年末のように人目が無いわけでもなし、こんな場所でそんな扱いされると困る。


 『裏校舎』に逃げ込んだあの後、俺が屋上に戻ったときには既にヒロとイルゼは殿下にやられており、俺も逃げる前にやられてしまったのだ。

既にヘロヘロでなければまだいけたかもしれなかったのに。



「うわ、レーオンハルトさんなんで酔ってるんですか!?」

「没収だ」


クリフ副寮長とヤーヴィス寮長が来てくれて、殿下から酒をひったくる。


「うっわ出た出た、大公サンがよォ。つーか酔ってねェし」

「大公とな。それを言うならお前もある意味『大公』だろうに」


会話をしているすきに肩に組まれていた腕を無理矢理はがす。

 面白くねーの、と不貞腐れた顔の殿下だったが無事に寮長に連行されていった。



「なーんであの人はウィルスくんに絡むんスかね……」

「うむ。ウィルも迷惑ならハッキリ言うべきだよ」

「え、でもでも王族の方なんですよねぇ? 言えませんよぉっ」


そう話す3人に向かって肩を竦めてみせる。

 勘でしかないけど、俺が社交界に出たこともあって、同じような境遇の奴……と変に仲間意識を抱かれているのかもしれない。

俺は全くそんなこと思ってないしむしろまだ怖い。


「まあ最後の半年だからね〜。出来る限り付き合ってあげよ?」

「そうですね……」


副寮長にウインクされて、渋々頷く。

 そうかもう2月で……7月末に終業式のはずだから、もう半年もないんだ。


「そういえば、歴代の寮長とかってどうやって決めるんですか?」

「んー、寮によっても変わるけど、タンザナイトは先代の指名が多いかな。ガーネットとアクアマリンも指名だね」

「アンバーとオパールは違うんですか?」


視界にお疲れ様でした会を楽しむエルザ嬢を見つけたので、思わず聞く。


「うん。寮長になる資格があるっぽいよん」

「へぇ……」

「あ、ちなみに副寮長は全寮共通で寮長からの指名☆」


ピース☆した彼に思わず笑みをこぼす。

 流石ヤーヴィス寮長が指名しただけあって、仕事ぶりはお手本並みだ。


「……っと。そろそろ俺は行かないと。じゃねバーイ!」

「ありがとうございました」



去る副寮長の背中に一礼しながら、少し考えてしまう。

 俺が指名されるなんてことあったらどうしよう……なんて。 その時は辞退したいところだ。


「なんだか疲れちゃった」


椅子に座って、ぼうっと空を眺める。

 蒼から橙色に変わり始めていた世界の天井が、今日という日の終盤を知らせる。



「ウィル〜!」


友が自分を呼んでいる。

 何気ない一瞬が幸せだと感じれるほど、まだ俺は実家に引っ張られているようだ。


「今行く」



くたびれた体操服の埃を払ってから、俺は3人の元へと駆け寄った。

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