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『Danger』6


4ヶ月後。

随分と暖かくなり、夏の花が咲き乱れるこの時期。

 魔法空調で快適な図書館にて、俺は今日も自習に励む。


「今日はこのくらいに……」


暑いゆえ、汗ばむのが嫌いな貴族達はこの時期大神殿にも全く姿を見せない。おかげさまでよく集中出来る。


 今日学習したのは魔法史。

入学後のテストは魔法史、魔法薬学、言語学の3つ。そこまで難しくもないのでどうせなら満点を取る気持ちで挑みたいところだ。





 夏といえば、俺の誕生日もいよいよ今週末に迫った。パーティ好きな両親は、体裁とただ騒ぎたいがために俺の誕生日パーティを企画している。いつもはご近所さんの貴族しか来ないのだが……


「気が重い……」


なぜか今回は王太子が来るらしい。

 ルーカスによると『今回を逃したら殿下にウィルを紹介する機会が無くなっちゃう』とのこと。

両親は舞い上がって、妹を見初めてもらおうと画作しているようだ。妹はカイルと年子なので、王太子とは6つ違い。充分釣り合っている。

 王太子が居るなら、例年のように挨拶の後自室に籠るわけにもいかないだろうし。話の話題とかを考えておかないと。


 立ち上がって、規定の棚に教科書代わりにしていた本を戻す。

あれからほぼ毎日のように図書館に来ているが、『ヒーロー』くんらしき人とはまだ会えないでいる。こっちは向こうの顔を知らないから来ていても分からないし、仕方ない。

俺もBNAにしたことを報告したかったんだけど。


名残惜しげに館内をざっと見回してから、俺は出口へと向かった。




4日後。



「タイはどちらにしますか?」「誰かヘアオイルを持ってきて」「ハンカチは……白にします?紺もありますけど」「ちょっとこの靴、磨きが足りないわよ」

「メイク道具はどこかしら」


自室にて、完全に使用人のおもちゃにされている俺。

 肌着とズボンを自分で着たとたん、わらわらと使用人がやってきてこのザマだ。

いつもはこんな事ないのに、アイメイクすら自分でさせてもらえない。人にやられると眼球に筆が刺さりそうで恐怖しかないんだが……


両親的にはお飾りでも主役である俺がみすぼらしいと、王太子の心象が悪いと思ったのだろうが。5人も要らないだろう。



「整いましたよ」


肩を軽く叩かれたと思ったら、目の前に鏡がスっと置かれた。……え、メイク濃くないか?


「意外と素敵ね」「流石ルーカス様の弟君」

「磨けば光るってこういうことだわ」

「こら、よしなさいな」


部屋にはベージュのシャドウしかなかったはずなのに、瞳の色に合わせて紫などが追加されている。くそ、なんだか無駄に目立つ気しかない。


「……ありがとう」

「いえ。ではこれで」


自分で直す時間もないため、渋々礼を言うと即座に皆撤退していった。



「あ!ウィル」


部屋の外に出ると、待ち構えていたかのようにルーカスに話しかけられた。


「わあ、カッコいい! 今日は使用人達が用意してくれたんだろう?やっぱりウィルはちゃんと毎日お世話してもらった方がいいよ」

「余計なお世話だ」


タイの飾りを撫でながらそっぽを向くとクスクス笑われてしまった。……この反応を見るに、別に変とか似合っていないとかではないらしい。

 ルーカスは妹と一緒に会場入りするらしいので、俺はさっさと奴を置いて歩き出す。


「分かってると思うけど、『測定』の話題が出ても濁すんだよ」

「……知ってる」

「あと、それと」


まだ何かあるのか?


「お誕生日おめでとう」





パーティ開始からまだ数十分。

 ようやく王太子を除く全参加者に挨拶してまわれた俺は、隅っこの壁にもたれ掛かった。


「疲れた……」


王太子が居るせいで、客が多い。俺の誕生日パーティというより王家に媚びを売る会となっている。

 現に一応主役の俺の場所に人はおらず、王太子の周辺は賑やかだ。ただでさえ後回しにしてしまったんだ、早く挨拶しないといけないのに。

……と思っていたら、人払いでもされたのか段々散っていった。どうしたんだ。


「君がウィルスか」

「!」


向こうから声をかけられてしまった。

ホストはうちの両親とはいえ、主役から挨拶しないと客に無礼になってしまう。


「申し訳ありません。いち早く殿下にご挨拶すべきだったのに」


慌てて礼をとり、出席に対しての謝辞を述べる。

人見知りですみません。


「気にするな。俺やルーカスの周りは騒がしいからな」


こちらこそすまない、と謝る王太子の顔をチラリと見上げる。

……顔が良い。

暗いブルーの礼服が、この国の王族特有の明るい水色の髪をよく映えさせているし、スラリとした体格をさらに魅力的にしている。


「会えて嬉しいよ。君の話はルーカスからよく聞くからな」

「は、はあ」


ルーカスと並ぶと巷で人気の恋愛小説さながらだ。

 『よく』聞く、ということは全寮制の魔法学園に行きたがってる事とかも把握されていそうだ。

嫡男のルーカスならまだしも、次男で有名でない俺の進学先など大して噂にもならないのに。


「あ、殿下こんな所に。ウィルもお疲れ様」


次の話題に困っていると、颯爽とルーカスが現れた。王太子となにやら親しげに耳打ちし合っている。


「それで、『例の』学園は決めたんだって?」

「はい。BNAに行こうかと」


すると、2人は少し驚いた後、悪戯っぽくお互い目配せをした。

……え?何?


「そうか。貴族間ではどうしても俺達が通うSBCが目立ちがちだが、あそこもSBCに負けず劣らずの学園と聞く。きっと楽しいぞ」

「うんうん。ウィルならきっと大事な友達も見つけられるよ」


パッと打って変わって、さっきと同じくにこやかに談笑し始めた。……なんだか怖いんだが。



「あのぉ、王太子殿下。お話のところ申し訳ありませんが、よろしいですか」


と、そこで猫なで声の母親が近づいてきたので話は終わってしまった。

 一体なんだって言うんだ。学園のパンフレットは何度も読み直したし、別に変な事は書いてなかった気がするんだが……。



「俺もそろそろ婚約者決められちゃうんだろうな……。ウィルは好きな子いる?」

「居るわけないだろ」


パーティは夜まで続いたが、

その間人に揉まれた殿下が帰ってくることはなく、ルーカスもまた俺から離れようとはしてくれなかった。

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