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『デビュタント』2


「皆様、本日はこのパーティにご参加頂き…………」


から始まった、少し長い挨拶がやがて終わる。

 次に進行役は本日の主役はこの方達とばかりに、今日参加する王族の紹介をし始めた。


最初は王弟殿下やその妃から始まり、少し遠めの血縁にあるギリ王族の方々が紹介される。

 そして王妃殿下の次に出てきたのは、王太子フェルデ殿下だった。いっそう大きい拍手が会場を包み込み、王太子の人気ぶりを表している。


……あれ。


「レーオンハルト殿下は……?」


帰ってきてると聞いてたけど。

 進行役が一切それに触れることがないまま、王太子が軽い挨拶を終えてしまった。

デボラ嬢達に聞いてみたいところだが、あいにく表向き殿下がBNAに通っているのは秘密なので黙るしかない。……この2人ならもう知っていそうだけど念の為、だ。


「それでは皆様お待たせ致しました、この国の頂点にして栄光の象徴。空を翔る隼のごとき御方!

 国王陛下!」



ワアア!と場が一斉に湧いたように圧倒的な拍手が送られる。玉座に現れたのは長いマントをつけた50代前半の男性……国王陛下だった。

 王族にしか許されない明るい青が特徴の最高品質の服をまとい、頭には輝く金の冠。

たっぷりと伸ばした髭が威厳を醸し出してはいるが、目は優しかった。

 挨拶を述べ始めたその声も優しく、ああやっぱり王太子の父親なのだなあとぼんやり考える。

……レーオンハルト殿下には全然似てないけど。



「今日デビューする子供達よ。おめでとう、これからも良き業を積んでくれ」


こちらに微笑みかけられながら、祝いの言葉を賜る。

 ありがとうございますと皆で揃ってお礼を奏じれば、陛下は満足したように結びの言葉を言って、そしてとうとうパーティが始まった。


余りにも人が多いので、俺一人踊らなかったくらいでは全くバレなさそうなんだけど。


「ウィル〜!」


そうはいかないか……。

 王太子と一緒にわざわざこちらに歩いてきたルーカスに内心舌打ちし、ディルクくんと目配せをした。エルザ嬢との約束を果たさねば。

 

「空翔る白鳥の御方、王太子殿下。ご機嫌よう」

「ご機嫌よう。王太子殿下、ルーカス様」


まず形式上義務なので王太子に挨拶をする。双子が俺の後に続いてお辞儀をすれば、ルーカスは少し不思議そうな顔をした。……友達くらい居るから。


「俺の同級生」

「カルセドニー男爵家長女、デボラ・カルセドニーと申します」

「同じく長男ディルク・カルセドニーと申します」


ああ!と笑顔になるルーカス。

 王太子のサロンに属しているだけあって男爵家の名前もだいたい覚えているのだろう。



「改めて、俺はルーカス・ディアモンド。弟がいつも世話になってるね」

「いえ、滅相もない。こちらこそお世話になってばかりで。とても素晴らしい方だと思いますわ」


お兄ちゃん面出来るのがよほど楽しいのか、ルーカスは一層キラキラと笑顔を瞬かせる。それと同時にデボラ嬢は少し赤くなり、ディルクくんは一瞬こわい顔になった。


「……いつもあんな感じなんですか」

「うん」


ひそ、と小声で彼に言われ正直に答える。ディルクくんは面白くなさそうに「へえ……」とだけ漏らした。


「そうだ。王太子殿下、あの……レーオンハルト殿下は帰ってきていらっしゃると聞きましたが。何処にいらっしゃるのでしょう?」

「ああ。兄上なら人目が嫌だとバルコニーに居るはずだ。……兄上と知り合いなのか?」

「まあ、少し」


王太子はレーオンハルト殿下がBNAに行っているのは知っているだろうと、苦笑いで濁す。ルーカスははてなマークを浮かべているが無視して、俺はバルコニーに行ってみることにした。


「ダンスが始まっちゃうから、早く戻ってきなよ」


俺が場馴れしていないのが心配なのか、そうルーカスは声をかけてきたが適当に返事をしてその場を離れる。

 バルコニー……バルコニー、人目がつかないとなれば。あそこか?



「飲み物は如何ですか」

「あ、貰おうかな」


途中で炭酸水を受け取ったりしながら人混みから外れていけば、バルコニーのカーテンの向こうに蒼色の髪を見つけた。

 なに一人で黄昏てるんだこいつ。


「何してるんですか」


人目がないことを良いことに、あくまで先輩と後輩の立ち位置で声をかける。

 レーオンハルト殿下は一瞬驚いたようだったが、すぐにニヤッとして手招きしてきた。


「よォウィルくん! 社交界デビューおめでとさん」

「……どうも」

「おうおう、元気ねェな」


成人済の彼はワインを手にしており、それをぐいっとあおってから夜空を見上げていた。


「そうでもないですよ。『空昇る獅子の御方、王太子兄殿下。ご機嫌よう』」

「んだよ、絶好調ならそう言えよ」


自分でもびっくりするくらいに渾身の挨拶をお見舞いすれば、殿下は面白そうに笑っていた。

 


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