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『Danger』3


「時間がかかるから一度帰っていい。午後を過ぎても戻らなければ迎えをよこしてくれ」

「はい」


 御者に淡々と伝えると、豪奢な馬車はさっさと屋敷に帰っていった。もっと地味なものがあれば目立たなくて済むのに。


「ようこそ、ウィルス・ディアモンド様。お待ちしておりました」


神官が一人出てきて頭を下げてくる。大神殿は予約が必須なので、俺が図書館を利用するためにここに来たことも割れているのだ。


「よければ朝の礼拝にもぜひご参加ください」

「あ、悪いが少し急いでいて。調べものが早く終われば参加したいけれど」

「そうですか、それは残念です。ではこちらに」


堅苦しい礼拝は好きではない。まあ、ほとんどの貴族は面倒くさがって参加しないから怪しまれなんかはしないんだろうけど。


「代わりと言ってはなんだが、献金と果物を」

「!ありがとうございます」


 少し驚いた様子で神官が受け取る。「では早速今日の礼拝で捧げさせて頂きますね」、なんて言うので苦笑いした。本音は『Danger』判定が出たから神頼みも兼ねている、なんて全く罰当たりなことなんだけどな。




「では、ごゆっくり。ご用が済んでも声をかけなくても構いませんので」

「わかった。ありがとう」


 図書館に着き、神官と別れる。

いや……広いな。歴史書の棚を探すのにも一苦労だ。

館内図を頼りに階段を登り、やたらめったら分厚い本ばかりの所へきた。


「お、重…………」


兄弟と違って鍛えていない俺の腕には重量オーバーだ。え、にしても重たすぎる。こんなに重いと神官でも持てないぞ。


「ああ、魔法を使うのが当たり前という感じか……」


近い机に辿り着いてから気づいてため息をつく。

 魔法は使えないこともない……が、魔法師の家系でない俺は魔力量が少なめだ。


「【浮け】」


とはいえ、魔力切れより腕の筋肉痛のほうがキツい。安定感は足りないが使うしかない。

あんなに重かった本を2、3冊まとめて机に移動させることが出来た。楽だな。

 父親は『魔法師なんて汚らわしい!それに自分でやった方が話が早い』とか言うタイプだったが。ルーカスに魔法師の才能も見え始めた途端に手のひらを返したんだっけ。


「さて……」




*数時間後



「……………………はぁ。」


いい加減、目が疲れた。

 『Bad』から起死回生した偉人の資料は、家の書庫より格段に多く手に入ったが


「やっぱり『Danger』は無し、か」


念の為、悪人の欄も見てみたが『Danger』の人物は大概処刑されていたり、国外追放を受けている。

さすがに外国の歴史書まで調べる余裕はない。一応最高基準の教養を受けてはいるものの、外国語は読めないし……。

 ルーカスならもしかすれば読める言語もあるかもしれないが、頼るとか有り得ない。


一人でどうしたものかと頭を抱えていると



「すまない!横にちょっと置くぞ」

「え?」


 突然、眼前を埋め尽くすほどの山積みの本が出現した。


「わっ」


驚いて思わず仰け反ってしまう。本の山の向こうにいるらしい人物は、すまん!と元気よく謝った。


「あまりにも重かったものだから!怪我などはないかい!」

「いや、大丈夫だけど……それより」



声デカいな。

 一応図書館なので、軽くしーっと囁く。


「は!!!……すまない」


少し小声でもう一度謝り直して、本の向こうの主は着席したようだ。


「君は同年代のように見えた。いくつだい?」

「14だけど……」

「なんと!同い年だ!仲良くしよう!」


顔が見えないから仲良くするもない気がする。


「流石に今すぐにはこの本達は退かせないね……顔が見えないのが残念だ。だからこそ名乗う! 僕はヒロだ!」


その言い方に少し眉をひそめた。苗字を言わないということは平民なのか?


「良ければ君の名前も教えて欲しい!」


まあ、名乗られたら返すしかない。


「……ウィルス」

「ウィルスか!良い名だ!僕のことは良ければヒーローと呼んで欲しい!」

「はあ……」


段々また声がデカくなってるぞ。


「そうだ、君も来年から学校生活だろう?どこの魔法学園に行くか決めたかい?」

「え?」


魔法学園。

貴族や魔法師の子供達が通う五年制の学校だ。魔法が使えるなら商人や平民も通えるとは聞くが。


「僕はBNAに通おうと思うんだ!全寮制の学園にどうしても行きたくて!」

「全寮制……」


俺も、このままいけば来年には魔法学園に入学することになる。しかし位の高い家ほど暗殺などの危険も高まるため、寮なんていうものは存在せず馬車通学。ルーカスも自宅通学制の学園の生徒で、今年で第3学年だ。


その瞬間、天啓が降ってきた気がした。


「……いいかも」


全寮制なら、兄弟に会わなくて済む。

親にも会わなくて済む。

使用人からの陰口を見て見ぬふりせずに済む!


「?何か言ったかい?」

「いや、なにも」



少し興奮して、声が震えたが相手は気づかなかったらしい。


「じゃ、じゃあ、俺はもう帰るから。また会えるといいね」

「うむ!気をつけて!また会う日を楽しみにしている!」



走り気味に廊下を抜け、出口へと向かう。

全寮制、全寮制……


 こんな簡単なことに、なんで気づかなかったんだろう。

心臓がうるさく脈打つのを感じ、改めて自分が高揚しているのに気づいた。

今ならタップダンスだって出来そうだ。


しかし、



「ウィル!」



そんな気分は、階段下から聞こえた声に木っ端微塵に砕け散った。

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