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『Danger』2


 この国では20歳が成人年齢で、例外はあるがこの歳までに社交界デビューするのが常識となる。

14歳の『測定』で『Bad』以下の結果だった者は、約6年間社会的な落ち目を拭う猶予を与えられ、成人になる誕生日に2回目が行われると聞く。


「これに賭けるしかない」


ぎゅ、と拳を握りしめた俺は、早速この国の歴史で『Danger』から『Normal』以上に返り咲いた人物は居ないかどうか調べることにした。




自室のドアを丁寧に閉め、無駄に広い廊下を進んでいく。目指すは書庫だ。

王宮図書館ほどではないが、ディアモンド家にも沢山の書物がある。まずはそこから調べて、無かったら神殿の図書館にでも行くとしよう。



「あ、危険人物予備軍のウィルスじゃん」



 突然、正面から堂々と悪口を言われて足を止めた。


「……カイル」

「兄上に庇って貰ったんだってな。全く、父上達はもう見限ってんのによ。お人好しだよなあ兄上は」


 ニヤニヤ馬鹿にするでもなく、真顔で本心から呆れたようにそう話すそいつ。ディアモンド家三男・カイル、俺の弟だ。


 武勇に長けており、次期騎士団長候補と騒がれている。勉強はからきしのようだがルーカスと同じく両親にはいたく可愛がられているし、現騎士団長からもお墨付きを頂いていたり、凄い奴なのには変わりない。

 ルーカスが俺を庇う理由がわからないのは、俺にとってのこいつの存在もあるのだ。末っ子ならば「兄らしく弟達を守りたいのかな」ぐらいの認識で済んだのだが……。

 正直に言って、俺がカイルに全く可愛さを感じないのに、もっと可愛げのない俺に構ってくるのかが分からないのだ。懐疑心突き詰めると、バカにされているのかと感じもする。


「……もしかして傷ついたか?悪い悪い、『兄様』。」



 いやホントに可愛くない……。相手によらず人をおちょくるのが好きなカイルだが、俺に対しては特に厳しい気がする。


「チッ……無視かよ。面白くねえ奴。で、ここ通るんだろ?どうぞ」

「……どうも」


 わざとらしく道を譲られ、悪態をつきたい気持ちを抑えてお礼だけ述べた。……それがまた相手の機嫌を損なったのか、ジロっと睨まれたのはまた別の話だ。






「ここら辺かな」


 10冊ほど取り出した本達を前に腕を組む。『測定』の魔法についての本とか、近代歴史系の本とか。『測定』自体は最近の制度だから、あまり遡りすぎるのは骨折り損だろう。

 手頃な椅子に座って手早くページを捲っていく。まずは魔法本だ。


「……ん」


 精度などのページに着いた。『測定』回数を重ねるごとに結果は絶対的なものになる……。


「術士自身の『測定』魔法も回数を重ねるごとに精度が上がる、か」


俺の『測定』を担当したあの女測定士は、父親曰く王族の『測定』をしたこともあるほどの実力があるらしい。かなりの回数も重ねているはず……


「そういや、天使と契約してるとか言ってたな」



 天の御使い、神の(しもべ)

存在自体は確認されているものの、神殿に仕える神官ですら滅多にお目にかかれない『ヤバい』存在だ。


 この国では天使は基本人間が嫌いだといわれており、子供達が夢見る愛のキューピッド的なイメージの天使とはかけ離れている。神話では天罰と言い訳しながら大飢饉をもたらしたり、人間に嫌がらせしたり、ねじ曲がった天使は恋する2人を引き離したりもする。

やり過ぎて『信仰度が下がった』と神の怒りを買って地底に落とされる、という反面教師エピソードも豊富だ。

 しかし神の使いであることには変わりないし、何だかんだいって有益であることから神殿では祀り上げていたりもする。


そんな天使と『契約』して力を得ることは相当な実力者でないと不可能だ。あの測定士の口ぶりからするとあの水晶玉で確実な『測定』結果をもたらすことが契約によって約束されていると見える。



「次。」


測定士の腕を疑ってる暇があるなら、早く前例を見つけないと。


 今度は歴史本を漁っていく。ディアモンド系譜の人物ならなおさら良いのだが、なかなか見つからない。


「『測定』結果『Bad』って人はいるのに……」



『測定』で『Bad』判定を食らい、悲惨な環境でもめげずに挑んだ結果、成人の日の『測定』を『Normal』でクリアし国益をもたらした人物は複数人居るようだが、


「『Danger』は無し、か……」



『Bad』の人達ですらかなりマイナーな、学者が自分でまとめたような文献にしか載っていない。

 歴史の積み重ねによって『測定』が盲目的に信用されるために、貴族向けの歴史書に載っていないだけなのかも。


「神殿に行かないと分からないな」


神殿は真実しか許されない場所。

 歴史書もそれは例外でないから、良いように編集される前の原本が残っているかもしれない。


我ながら嫌味な考えだが、自分がゆっくり慎ましく生活するためには致し方ない。



明日一番で馬車を神殿に走らせるしかなさそうだ。


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