少女? の計画
入学式も中盤に差し掛かった頃、私は新入生代表の挨拶を言い終わり、列に戻った。
なんでも二条宮恵理は学年でトップの成績をとって入学したらしい。
列に戻り、またたく間に私の思考は『僕』をどのように守るかという議題に移る。
まず金銭的な問題。
こちらはほぼ問題ないと言ってもいいだろう。なにせ、すでに私の総資産はサラリーマンの生涯賃金に迫りつつあるのだ。家柄一つとっても人を一人養う程度造作もない。
そして大事な関係性。
これが一番難しい。今の私と『僕』ではそもそも第三者から見た接点が皆無に等しいのだ。『僕』を守るという目的のためにもできる限り近くにいるのが望ましい。もちろん今の『僕』からみても私が接近してくる事自体が不自然。下手に接近すれば今後関係を持つのも警戒されて難しい可能性が高い。
そばにいてもおかしくない他人との関係性は
だいたい、友人、恋人、なにか同じグループの中で行動している者、
の三種類に分けられる。
友人は難しいだろう。性別の差がまずあるし、『僕』が思春期真っ盛りの現状で異性を意識しないわけがない。ましてや幼馴染ですらないのだから不可能だろう。
恋人は......出会いさえうまくやれば関係は継続できる。私が今の『僕』であった者である以上そのぼろぼろな心につけ込むことは容易く、うまく行けば向こうから依存してくるかもしれない。それは私にとってとても好都合だ。第三者から見ても珍しい組み合わせだということ以外は特に変ではないだろう。
唯一の問題は元男である『私』自身が男と付き合うということへの精神的嫌悪だが、今の所『僕』と付き合うことには問題はないようだ。
まあ相手は元自分なのだ。その身体的特徴はすべて把握している。髪質や肌の荒れ具合、口臭や汗臭さ、果てには陰部の形状まで鮮明に覚えている。おまけにそれは私のものでもあった。嫌悪する理由が思いつかない。
大体の方針は決まった。
あとはどう堕とすかだ。
我ながらどこまでも自信が欠如した人間だ。深いところまで追求すると嫌われてしまう。
こういうタイプは自分の考えていることを口に出さない。その分こちらがそれを察して接すると心地いいと感じ、依存する。
また肯定されることに何よりも喜びを覚える。
こうしてみると潜在的なメンヘラだな......
とりあえずいじめられ始めた頃を見計らって声を掛けよう。そして全てを肯定する。
そして私の作り上げる箱庭の中でゆっくりその傷を癒してあげよう。
そう、私は誓ったのだ。
次は自分だけを愛し、慈しむと。
そう思った瞬間、『私』の中には強い感情が芽生えた。
その感情はーー
ーー愛情と言う。