飛べない小鳥
「あなたが決めて。お母さんはそれでいいわ。」
ある日の晩、母さんにそう言われて渡された養子縁組届をベッドに腰掛けながら眺める僕。
二条宮家の養子になり、二条宮恵理の許嫁となることを条件に、遠藤家の借金を肩代わりする。
これはそう言う契約書だ。
これにサインするかは僕の意思で決まる。
何回も思うんだけど何だか金で僕の売買をされている気分で正直微妙だ。
多分了承するのが一番良い道なんだろうなあってことはわかる。
苦しむことにプラスの結果が伴わなければ苦しむ意味はないし、何も得られないってことも知っている。
そのくらいは今までの人生で嫌と言うほど思い知った。
じゃあ考える余地はない。サインすれば良いだろって話なんだけどね。
でもこの書類はまだ未完成だ。
何故なんだろう。
僕にもわからない。
僕が何を恐れて、何を不安に思っているのか。
たった四文字。
それだけで僕の人生はたぶん、好転する。
僕はこんな人生のせいか、他人が怖い。
そう、他人が僕の心に踏み込んでくるのが怖い。
だから僕の心は鈍感になることで殻を作り、恐怖を遠ざけようとしていた。
はずなんだけど、
その殻を破ることなく溶け込むように入ってこれた人がいた。
言うまでもなく二条宮さんだ。
二条宮さんはなぜか僕に対して好意的で、入学してしばらくした頃に突然現れた。
二条宮さんは僕のプライベートに平然と入ってきた。
普通侵入者は撃退しようとするのが生き物だ。
もちろん僕も心の隅で二条宮さんへの警戒度をMAXにした。
だけど、
二条宮さんは消えなかった。
どんなときも僕をプラスの気分にさせ、溶け込むように居続けた。
まるで僕の一部のように。
二条宮さんはなぜか僕の嗜好を完全に把握し、一切不快なことをしてこなかった。
僕の話に、人生に、深い理解をくれた。
無力に足掻く僕に余裕と、生きる楽しみをくれた。
ああ、
そうか。
僕は、
養子になることが怖かったんじゃない。
捨てられることが怖かったんだ。
漸く出会った止まり木が、
消えてしまうことを恐れていたんだ。
この書類を埋めることで、夢が覚めてしまうことを恐れていたんだ。
二条宮さんは思ったよりも僕の精神的な支えとなってくれていたみたいだ。
その存在は失うのは......余りにも大きすぎる。
だから、
「もしもし?」
僕は二条宮さんに電話を掛けた。
「これは......遠藤くん? どうしたの?」
「......二条宮さんに聞きたいことがあって。」
「なに?」
「......僕を手放す可能性はある?」
何を聞いているんだろう。
そう思いながらも、僕はそう聞いた。
すると、二条宮さんはクスリと笑いながら、
「いいえ。手放されたら貴方はすぐに壊れてしまう。貴方はそれほど不安定。」
「だから私は貴方を全力で守り、癒すの。」
ああ、この人は......本気だ。
「わかった......こんな夜遅くに、ありがとう。」
「あ、そうそう。一つだけ言っておくね。」
......ん?
―――私は貴方のことが好きよ。―――
突然の告白に僕の頭は真っ白になった。
「え......あ......えと......。」
「あ、返事はまだいいよ。それじゃ、おやすみなさい。」
『ツーツー』
パニクっている間に電話を切られてしまった。
―――私は貴方のことが好きよ―――
二条宮さんの言葉が脳内で再生される。
「っ......!!??」
一気に顔面から汗が吹き出し、心臓が音を立て始める。
顔が真っ赤になっている自分を自覚する。
だけど、これではっきりした。
自分の気持ちが。
僕は書類を机に広げ、ボールペンで丁寧に欄を埋めた。
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