以心伝心?
--あなたは昨日渡した書類を読んで、どう思った?ーー
その言葉で僕の頭は真っ白になった。
昨日渡した書類、それはあの養子縁組届のことだろう。僕を取り込むメリットなんてないだろうし正直言ってちょっと疑わしく思っている。
昨日読んだけど、訳わからなかったから放置していたので何も考えていない。というかそれ自体を忘れていた。
「何も考えていなかったんでしょ?」
何でわかったの!?
僕の顔を見ながら悪戯っぽい笑顔でそう言って来る二条宮さんにおののきながらも、
「あ......うん。」
「それも少し疑っているでしょ?」
「あ......」
「あ、別に答えは求めていないから。そうね......じゃあ、あなたは私の家の養子になるという状況を好ましく思う? それとも......いや?」
なぜか若干上目遣いで聞いてきた。
クラス一の美少女が上目遣いで聞いてくるというこのシチュエーションにダメージを受けつつも、蓮司は必死にあまりよろしいとは言えない頭を回転させる。
養子になれば家の借金は無くなる。つまり母さんはそこまで無理する必要がなくなる。
そして義理とは言え横に座っている美少女の兄弟となり、将来はこの子と結婚することになる。最近は二条宮さんが妨害してくれている僕へのいじめ自体は無くなるかもしれない。
つまり物理的、社会的なメリットとしてはこれ以上ない程良いものだ。
あとは僕の気持ちだけど......
そこまで考えて、ふと横にいる女の子に目をやる。
「ん? どうしたの?」というような表情でこっちをのぞき込んでくる顔を見て蓮司は考える。
外見は言うまでもなく申し分ない。
性格も僕と気さくに話している時点で悪意はなさそうだし、好ましいものだ。
この子と結婚出来たら幸せなんだろうな、とは思う。
だから僕の心が拒む理由はない。
ーーだけど不自然すぎる。
僕の頭が悪いせいなのかもしれないけれど二条宮さん側のメリットは皆無に見える。
僕の家は名家でもなければ金持ちでもない。母さんはしがない事務員だ。
「ーーあ、わかった。」
考え込んでいる僕に、二条宮さんが割り込んでくる。
「私の方に何のメリットもないから怪しんでいるんでしょ?」
二条宮さんはエスパーなのかもしれない。