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最終話 凪颯にて

1943年4月30日 イギリス ロンドン

「やっと終わったな」

イギリス首相ウィンストン-チャーチルは誰もいない部屋で1人マティーニを飲んでいた。

「ドイツ人が予想外に不甲斐なかったのは誤算だったが日本人が予想以上に役に立ったな。…あのヤマトがロイヤルネイヴィーにいればよかったのだが、まああんな兵器もじきに要らなくなる。」

チャーチルがグラスを置いたテーブルにはオーストラリア出身のマーク-オリファントやドイツから脱出したヴェルナー-ハイゼンベルクを動員した核分裂兵器の製造計画、チューブ-アロイズの報告書が置かれていた。

既にフランスではポーランド出身のスタスニワフ-ウラム、あのキュリー夫妻の娘婿フレデリック-ジョリオ=キュリーなどが次なる戦争に備えて同様の研究に当たっているという。恐らく次の戦争が起きた時には人類の何もかも吹き飛ばされてしまうに違いない。英雄たちの輝きも何もなく、ただのボタン一つで。

「まったく、嫌な時代になったものだ。」

チャーチルはグラスにもう1杯を注ぐと、一気に飲み干した。


1943年5月9日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C

「大統領、この僕に話とはいったい何ですか?」

合衆国を治める大統領に対して不遜すぎる態度で科学者は言った。

「単刀直入に言う。君の言う『大威力な爆弾』はいつになったら出来上がるのかね?」

「フェルミ博士とオッペンハイマー博士が協力を渋っています。ああそれから追加の予算と科学者も…」

「いい加減にしないか。一体、これまでにいくら費やしたと思ってる。グローヴス准将、君の責任でもあるのだぞ。」

「は、はい大統領閣下」

2人の会話を聞いていた軍人が直立不動になって答えた。

「…とにかく、急ぎ給え。イギリスやフランスもすでに研究に着手しているという。わが合衆国が遅れを取る事は許されない。わかったな、テラー博士、グローヴス准将」

エドワード-テラー博士は不満を隠さずに、レズリー-グローブス准将は緊張しながら退出した。

マンハッタン計画、それが現在ルーズベルトが二人に進めさせていた計画だった。

単に新型爆弾の可能性を探る計画だったこの計画が『水素爆弾』の製造計画に代わったのは1年前のフランスによるイギリス本土上陸作戦の失敗が原因だった。

最悪の事態として枢軸国の解体とそこからのアメリカの孤立化までを考えたルーズベルトによってテラー博士により強硬に主張されてはいたが、その実現性を疑問視されていた水素爆弾の製造計画へと切り替わっていた。

アメリカを守るためには従来の戦艦や爆撃機ではない。さらなる強力な兵器が必要だ。ルーズベルトはそう考えていた。

すでに中間選挙の敗北によって自分の政権は命脈がつきかけている。願わくば次の大統領がアメリカを守ろうとするこの試みに理解のある人物である事を、そしてアメリカに神のご加護があらんことを、ルーズベルトはそう願ってやまなかった。


1943年7月1日 ソヴィエト社会主義共和国連邦 モスクワ

「…というのが我々の入手した今までの情報です。同志書記長」

ラヴレンチ-ベリアNKVD長官がスターリンに対して恭しく報告をした。それを受けたスターリンは座っていた二人の科学者に問うた。

「うむ、良くわかったベリア君。さて、フリョロフ君、クルチャトフ君、わがソヴィエトにもこれらのような爆弾を製造する事は可能かね?」

「…イギリスやフランスのような核分裂型爆弾ならば可能かと思われますが、アメリカのような水素爆弾となりますと…」

フリョロフ博士が恐る恐る答える。

スターリンの目がとたんに険しくなった。スターリンは殊の外アメリカを強く意識していた。

スターリンの逆鱗に触れたと思った二人の科学者は縮み上がったが返された言葉はシベリア送りではなかった。

「なるほど、では3年以内に核分裂兵器を、5年以内に水素爆弾の実現を目指すのだ。」

失敗すればどうなるか、ゲオルギー-フロリョフ博士とイーゴリ-クルチャトフ博士は内心、頭を抱えながら退出した。

「ところで、ベリア君、マハーバードから何か知らせがあったとか」

「はい、同志トハチェフスキーが現地でテロに合い死亡したそうです。自白によれば犯人はイランのスパイであったとか」

「そうか、元帥が死んだか…我が国としては元帥の死も、友邦であるクルディスタン共和国でのテロ行為も見逃せんな」

「はい、同志書記長」

3日後、ソヴィエト連邦がイラン北西部の占領後に建国したクルディスタン共和国と武力衝突を起こしていたイランへと侵攻。かつてフィンランド相手に手古摺ったことから甘く見られていた赤軍の実力を見せつけたのだった。


1943年8月15日 大日本帝国 東京

カ号観測機などで知られる萱場製作所の社長、萱場資郎は指定された料亭凪颯(なぎさ)へと急いでいた。

「それにしてもなぎとはやてで、なぎさ、と読ませるとは…」

萱場社長は中々ない読みにそんなことを考えていると奥座敷へと案内された。

奥座敷にいた面々は萱場社長にとって想像もしていなかった面々だった。

陸軍航空本部長安田武雄と海軍航空本部長塚原二四三をはじめとした陸海軍の航空部門の面々や戦時における物資動員を担当する企画院の幹部、川西や中島そして自分のような航空機開発に携わる人間たち、中でも異彩を放っていたのが理化学研究所の仁科博士、京都帝国大学の荒勝博士だった。航空とは無縁のはずの2人が一体なぜ…

「萱場さん」

隣に座っていた中島社長の言葉に自分が話しかけられたのだと気づき慌てて姿勢を正した。咳ばらいをしてから安田航空本部長が言った。

「絶対的な兵器をつくり抑止力とする、それが持論だったな」

「はい」

「君の提案していた、あの無尾翼機だが、あれを仮に爆撃機とした場合モスクワ、あるいはワシントンを爆撃できるかね?」

「おそらくは出来ます。しかしながら仮に飛ばす事ができたとしてもその効果は限られたものにしかならないでしょう。心理的には多少の効果を見込めますが…」

戦略的には効果が無い、そう言おうとしたところで何かがおかしいと感じた。先ほどの仁科博士と荒勝博士の存在だった。

「…ウラニウム爆弾ですか」

安田航空本部長は何も言わなかったが、それが逆に答えを示しているようなものだった。


萱場は真夏にも関わらず今までに感じた事の無い寒気を感じた。





感想をくれた方、評価をしてくれた方、ブックマークをしてくれた方、本当にありがとうございました。

フランス対ドイツと言いながらもフランスもドイツも空気だったなあ、と思い反省してます。

期待されていた方には本当に申し訳ありませんでした。すべて筆者の未熟のせいです。

一応二度目の架空戦記創作大会参加作かつ初めての連載として頑張ってやってみましたが、まだまだ自分の未熟さを思い知りました。

また次の作品でお会いしたいと思います。


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