九十五話 ラジオ④
激しい攻防を繰り広げていると、ふと一つのコメントが目に入った。
『なーちゃん、いつもより元気いいね。りょーやさんがいるからかな?すごい楽しそう』
…………そうなんだ。少しはなにか返せてるかな?
「? どうしたのりょーくん」
「いや、なんでもないよ」
「そっか!」
にぱっと笑う小鳥遊さんを見ながら、このコーナーは大丈夫かなんて考える。まあ、小鳥遊さんが楽しいならいいのかもしれない。
「じゃ明日実際にやってみようね!」
「いややらないよ!?」
何言ってんだこいつ!
「ぶー、けちー!」
「ぶーじゃありません!リスナーも、『イケイケ!』じゃないよ!」
「みんな!りょーくんにもっと言ってあげて!」
「やめろ!10万人を味方につけるな!」
あーほらほらみんな調子乗っちゃってるよ……短時間でここまで順応できてる僕も僕だけどさ。
「じゃあさ、逆にりょーくんはどんなふうにデートしたい?」
ここでデートしないという考えが出てこなかった僕は、普通に答えた。
「んー、ずっと家でだらだらしてたいかな。外に出るより一緒にまったりしてられそうだし」
というか、実際そっちのがいい。この前小鳥遊さんの目が覚めるまでだらだらアイス食べてたの、結構心地良かったんだよね。
「で、夜はそのまま?」
「帰らせます」
「いけずー!」
ぶーふー言いながら、小鳥遊さんは僕の手をいじり始める。ちょっと痛いの。
「あ、『二人で一緒にバイトするならどこがいいですか』だって」
「バイト自体難しそうだけどね」
「コンビニとかは簡単そうに思えるよ?」
「いや、数時間立ちっぱなしは足が死ぬ」
「案外いけると思うよ?」
「そう?」
ふと、小鳥遊さんがぱん、と手を叩いた。
「そうだ、実際にやってみよ!」
何言ってんだこの小娘。
本当に何を思ったのか、小鳥遊さんは再び僕の正面に移動する。
「じゃ、私店員さん、りょーくんお客さんね!」
なるほど、机をカウンターに見立ててるのね。
「らっしゃーせー!」
「居酒屋じゃないんだよねここ」
「ご注文をどうぞー!」
「コンビニでは注文取らないよね…………弁当ひとつください」
まあ、無難だろう。
「私たちの愛であっためますので、休憩室へどうぞー!」
「普通にレンジでお願いできますか?」
「無理です!」
「クソみたいなコンビニですね!電子レンジくらい置いとけよ!」
「箸は私が食べさせてあげるのでいらないですねー!」
「いりますね!自分で食べるので!」
「ぶー!」
冗談だと思えないレベルで色々言われるから本気だと錯覚しちゃうんだけど……あれ待って、「いつから冗談だと錯覚していた?」なんて言わないよね?
「そんなに言うからりょーくんが店員さんやってみてよー!」
言わなかった。
「まあ、いいけど」
「ういーん」
「いらっしゃいませ」
「ハイオク満タンで」
「ここはガソリンスタンドじゃないんですよね」
「えー?じゃあ大将、大トロ」
「寿司屋でもないし多分それは回らない方の寿司屋だね」
「アウターはどこですか?」
「どこにもありませんが?」
「じゃあ何を買えっていうの!?」
「普通に商品を買えよ!」
「あっ」
「『あっ』じゃないよ?」
「え、えと……」
「ごめん何を恥ずかしがってるのかわかんないけど先に言っとくと止まって?」
「ご、ゴムとりょーくんをひとつずつ……きゃ」
「確かにコンビニでゴムは買えるかもしれないけど僕は買えないし『きゃ』てなによ『きゃ』て」
「ぶー!りょーくんのばかー!りょーくんの一人や二人くらいいいじゃん!」
「ええ……逆ギレ……?」
「んもうっ!」
小鳥遊さんは立ち上がり、座っている僕の太ももの上に乗ってマイクに背を向ける形で僕に抱きついてきた。
「あの小鳥遊さん、それマイクに声入りにくいかと」
「あ、ほんとだ」
『おい今どんな体位だ』
『俺らのことは気にするないけいけ』
『ぶちかませ』『やっちまえ』
「え?リスナーさんやっぱりおかしいよね?」
「ううん、そんなことないよ?あ、もう時間だから最後のコーナーにいくね!」
え、もうそんな時間か。常に突っ込んでたけど、楽しかったな。
「『しつもんふりーとーく!』」
「結局フリートークじゃねえか」
「気にしない気にしない!」
いやでもこれさっきと変わんないよね?
「コメントから質問を拾っていくよ!」
「うんさっきと同じだね」
「あ、これ!『キスしてください』だって!」
「それは質問じゃないよ?」
「いいじゃん!」
ぐーっと、顔を近づけられる。は?ほんとに言ってるの?
「逃げないでよー!」
「全力で逃げるよ?」
「もう……『どこまでいきましたか?』うーん……それ、とても言えるモノじゃ……」
「うん友達交えて遊びに行ったね!」
「でも、そのあと二人で」
「なにもしてないね!」
「すきありっ!」
え?
僕は筋力を総動員し(別にしてない)、顔の位置をずらす。その結果、唇は首に触れた。
「……そ、そんなに逃げなくてもいいじゃん。ほっぺくらい」
「あ……ごめん」
なんだか、微妙な空気になってしまった。
「と、というわけで!今回はこの辺でお別れの時間となりました!」
「そっ、そっすね!」
「お相手は小鳥遊奈夢と!」
「りょーやでした!」
「ばいばい!」
こうして、最後は忙しなく終わった。




