第八話 第一回補習ー前編
「はい、よろしくお願いします」
「今日は午後九時半まで、休憩として八時ごろに夜ご飯を挟んでもらいますので、あしからず」
そんな時間までやるのか。
「まあ、途中でトイレに行くくらいなら禁止しませんので」
よし、今から九時半までトイレに籠るか。
「…………始めますよ」
白撫さんは僕をジッと見てから、そう言った。え、なんで?もしかして気づかれたの?どうやって気づいたの?
と、どうしたところで分からないことを考えながら、「なんの教科やるの?」と聞く。
「そうですね、眠くなる前に暗記教科をやってしまいたいところなので……日本史でもやりましょう」
で、でたっ!僕の嫌いな教科ランキング第一位!漢字ばっかりでクソほどやる気が出ない教科だ!
「では、教科書とノートの準備を」
「……ノート?」
予定外で想定外。買ってなかったわ。
「はい。どうせ、買っていないのでしょうけど」
う……
「まあ、大丈夫ですよ。授業ノートくらいはありますよね?それを使いましょう。真っ白でしょうし」
「な、なにおう!少しぐらいなら!す、すこ、少し……」
あ、あれ?何か書いた記憶が無いぞ?いや、そもそもシャーペンを持った記憶が……
「……真っ白ですね」
本棚から日本史のノートを引っ張り出して開くも、なにも書いた痕跡は見られなかった。
「でしょうね。では、教科書も出してください」
白撫さんに促されて、本棚から日本史の教科書を出す。
「どこまで覚えていますか?」
そう聞かれ、どこだったか……と考えるも、なにを覚えているかすら覚えていないのでなにも答えられなかった。
「えーっと……」
「はぁ……それすらも覚えていないなんて、あなたは学校へ何をしに来ているのですか?では、五十五ページは?」
そう言われて教科書五十五ページを開くが、全くといっていいほど見覚えがない。
「うーんと……覚えてない」
「……三十八ページは?」
ページをめくる。さ、三十八ページ……なんだこれ。
「……覚えてません」
僕がそう答えると、白撫さんはパン!と手を鳴らした。
「わかりました、最初から覚えましょう!もちろん」
彼女は、柔らかく微笑んだ。
ま、まさか……
「暇な時間なんて、ないですからね?」
あふん。
「では、覚え方について説明します。とりあえず、朝起きたら復習として、前日に学んだところに該当する教科書の部分を三回、声に出しながら読んでください。で、学校に着いたら私でも吾野君でもいいので、教科書の中から問題を出してもらってください」
うわ、朝起きた時からなんてハードすぎないか!?
「帰ったら、さっき言ったように五時半から補習を始めましょう」
やっぱり、翔太の言った通りゲームも何も出来なさそうだ!
「さて、説明はこのくらいにして、早速頭に入れていきましょうか」
開始から約三十分。
「ぐ、ぐぐぐ……」
今は読んでは書いて、読んでは書いてを繰り返している。白撫さんの経験上、これが覚えやすいらしい。そして、その白撫さんは。
「…………」
黙って単語帳をめくっていた。
すると、僕の視線に気づいたのか、顔を上げて僕の方を見た。
「……なにか?」
「いや、別に」
そう告げると、
「そうですか、なら勉強に戻ってください。時間がもったいないです」
と、冷たい返答が帰ってきた。うう、ひどいなぁ。
開始から一時間半。
「…………」
…………っと、いかんいかん。寝てしまうところだった。
「…………」
…………はっ!ダメだダメだ!
「ごめん、ちょっとトイレ」
「はい、どうぞ」
一旦休憩を挟んで眠気を飛ばそう。
「……わっとと」
フラッとして、足がもつれてしまった。
「痛っ」
「? 大丈夫ですか?」
壁に頭をコツン、とぶつけて、痛くもないのに痛いと言ってしまった。
「ああ、大丈夫」
さて、トイレトイレ。
用を済ませ、手を洗ってリビングに戻る。すると、
「少し早いですが、休憩にしましょう」
と言ってくれた。
「分かった、ありがとう」
そういえば、白撫さんは夕飯はどうするのだろう、と思ったが、その疑問はすぐに解消された。
「一度戻るのも面倒ですので、晩御飯をここで食べさせていただいてもいいですか?」
もちろん断る理由もないから、「ああ、大丈夫だよ」と答える。すると、白撫さんは「ありがとうございます」と言って、弁当箱をカバンから取り出した。
「あ、そうだ。さっきケーキを買ってきたから、ご飯の後で食べない?」
「あら、ありがとうございます。一ノ瀬君は、気がきく方なんですね」
反応を見るに、ケーキが嫌いというわけではなさそうだ。よかったよかった。
ゴトウのご飯をレンジで温め、最近のお気に入りである梅しそこんぶのふりかけをかけて食べる。
「…………それだけしか食べないんですか?」
白撫さんは、心配そうにジッと見つめてきた。ご飯を。僕ではない。
「ああ、今日は忘れてただけ。いつもは、もう少し多いよ」
「そうですか」
僕の答えを聞いて、彼女は再び自分の弁当箱に視線を落として、食事に戻った。
僕も白撫さんにつられて、彼女の弁当箱を見る。内容は、白米にサラダ、あとは少しのお肉。生姜焼きだろうか。
「そう言う白撫さんは、それで足りるの?」
弁当箱のサイズは、ティッシュ箱の半分くらいだろうか。
「はい。腹八分目といったところでしょうか。ちょうどいいです」
「あ、じゃあ、ケーキって無かった方が良かった感じ……?」
「女の子をナメないでください。スイーツは別腹です」
真顔だが、何故だか『キリッ』というような効果音をつけても違和感がなさそうだ。
と、そんなことを考えながら、ご飯を食べたのだった。
気づいたらブクマが2件に増えてました。ありがたや。
ということで、補習第2回(ちゃんとしたのは第一回)です。後半は、少しラブコメ味があるかもしれやせん。
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