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七十一話 お化け屋敷③

 なんという事でしょう。私は今、これまでにないほど一ノ瀬君に密着しています。胸のあたりから太ももあたりまでぴったりと彼の腕にくっついています。なんというか……カップルがお化け屋敷に入る理由がわかる気がしま


「ぐおおおおおおお」

「いやぁぁぁぁぁ!」


 なななんなんななんなんですか!?いきなり出てこないでくださいこの腐ったじゃがいも!……はっ、心の中とはいえ口が悪くなってしまいました。


「だ、大丈夫?」

「は、はい……」


 嘘です。実を言えば今の一撃で瀕死です。満身創痍です。それを伝えれば一ノ瀬君はすぐにここを出ようと言ってくれるのでしょうが……それでは、彼にくっつく名目が無くなってしまいます。

 そこまで考えて、私ははっとしました。

 私にくっつかれていて、一ノ瀬君は嫌な気持ちにならないのでしょうか。もしかすると、本当は私なんて嫌いだけど気を遣ってこうしてくれているのでは……もしかするのかもしれません。


「あの」

「な、なに?」

「一ノ瀬君は、私にくっつかれていて、嫌ではないですか?」


 ふと、立ち止まってそんなことを聞いていました。


「い、いや、それは、なんというか」


 …………やっぱり、嫌そうですね……


「…………正直に言うと、男として役得と言いますか……こう、罪悪感もあるけど……嬉しい」

「ほ、ほんとですか?」

「うん……」


 嫌ではないどころか嬉しいだなんて……

 すると、一ノ瀬君は今度は思い出したように口を開きました。


「あ、男としてって言うのは忘れて欲しいかなそれと意識は腕に集中してるけど特に他意はないから別に気にしないであとここを出ても通報しないでくれると助かるっていうのとあと」

「ふふっ」

「な、なんで笑うの……」

「なんだか、おかしくって……」


 それに、男としてってことは、私を女の子として見てくれているということ……あと、腕に集中しているというのは、アトラクションよりも私に集中してくれてるってことで……

 なんだか、とても嬉しい…………

 ただ、そんなことを面と向かって言うのも、どこか恥ずかしいです。


「別に、通報なんてしませんよ?」

「うんそれはありがたいんだけど他二つも承諾して欲しいかなぁ!」

「それは……どうでしょう?」


 小鳥遊さんとくっついているところを見て、私よりも彼女の方がいいんじゃないかと思っていましたが、なんだかさっきよりも自分に自信が持てた気がします!


「では、進みましょう!」

「そ、そうだね、いこ」

「キキキキキキキキキキ‼︎」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 …………やっぱり、さっさとここを出ましょう!


「……大丈夫?」

「…………大丈夫、です」


 外に出たら二人っきりで無くなってしまう……そう思い、やっぱり進むことに。

 そこからは数分に一回私のさけびごえが響き、なんとか出口と思われるドアが見えるところまでまでやってきました。迷路ということでしたが、どうやらこれまでの分かれ道で間違って通ったルートは無さそうです。


「はあ、はあ……」

「ほんとにキツそうだね」

「い、いえ……大丈夫……」


 そこで、私はぴこーんと思いつきました。最初に小鳥遊さんがやっていたことを!なんでしたっけ、確か『いやーんこわーい』……?やってみましょうか……


「…………い、いやーん、こ、こわーい……です」

「うん本気でやばそうだねすぐに出ようか!」


 なにやら慌て始めた一ノ瀬君は私の手を強く握り、ドアまで早歩きで向かいました。なんでしょう、幸福感が溢れ出しそうなのに、どこか納得いきません……


「あ、開いた」


 一ノ瀬君がガチャリとドアを開けると、その先はまだ薄暗くもお化け屋敷っぽくはなくどこか安心感がありました。


「ふう……」


 進んでいくにつれだんだんと明るくなっていて、最後、外に出るドアを開けたときには明るさに目が慣れていました。


「疲れたね……」

「は、はい……ちょっと、そこで休みましょう……」


 二人で手を繋いだままよろよろとベンチに座ります。


「あー……」

「ふぅ…………」


 手を繋いだままであることに気づいていなさそうな一ノ瀬君の肩に肩をくっつけ、少し強く手を握ります。


「し、白撫さん?」

「どうしました?」

「い、いや、その……」


 彼は顔を赤くしながら頬をぽりぽりとかいています。


「……あ、なにか飲み物買ってくるよ!白撫さんはなにがいいかな!」

「え、じゃあ私もついていきますね」

「えっ」

「ダメですか?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

「なら、大丈夫ですね!」


 手を繋いだまま、私たちは自販機でジュースを買い、再びベンチへ。座って少し経つと、未亜と小鳥遊さんが私たちと同じくよろよろと歩いてくるのが見えました。


「お、お疲れ様……」


 げっそりとした表情で、未亜は私たちの方を向き––––


「ふーん?」


 と、意味ありげににやつきました。


「な、なんですか」

「いや別にー?」


 そうやってやりとりしていると、なにやら一ノ瀬君から体重をかけられました。


「い、一ノ瀬く……むぅ」

「りょ、りょーくん……疲れたよ……頭撫でてー?」

「お、お疲れ様……」


 原因は、反対側で小鳥遊さんが一ノ瀬君に抱きつい

たから。彼は小鳥遊さんに言われるがまま、頭をぽんぽんしています。許せません!


「あ、あの!」

「し、白撫さん?」

「その……私も、疲れてるんですよ!」


 許せないので、同じ事をしてもらいましょう!

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