第七話 補習前
LSTが終わった……それはつまり、今までになかった補習の時間が始まる!ん?昨日は例外。だって、夜だもん……あ、そういえば。
「しらな……やめとこ」
白撫さんと話そうとしたが、女子の塊の中にいるとわかり、やめておいた。あの中に入る勇気なんて持ち合わせていないからね。
何時から補習を始めるのか聞こうと思ったけど、まあいいかな。用事があるわけじゃないし。
「おーい翔太、かえろー」
「すまーん、今日から部活あんだよ」
そうだった。テストが終わったから、部活が再び始まるんだった。
「お前も補習終わらせて来月からは来いよー」
「あー……あぁ、考えとく」
お前も、というのも、僕と翔太は同じ部活ーーサッカー部に所属している。でも、僕は入学してからずっと成績が悪いままなので、まだ一度も部活には行けていない。っていうか、部活に行かなくていいから勉強しないってのもある。
「じゃ……帰るか」
僕は運動場で準備している生徒たちを眺めながら、寮に帰った。途中で間違えてマンションに帰りそうになったのは秘密。
「ただいまー……」
やっぱり、誰もいないのは寂しいな。
そんなことを考えながら、僕は机のとなりにカバンを置き、制服を着替える。すぐに着替えとかないと、シワになっちゃうからね。ズボンも例外じゃない。
ゆるっとしたジーパンもどきを履き、少し大きな生地の薄いシャツを着る。僕はおしゃれに疎いので、こういうものの名前がわかんないんだよな。別に、知りたいとは思わないけど。
制服のシャツを洗濯カゴにぶち込み、お茶をコップに注ぐ。
「あ、そうだ」
わざわざ教えにきてくれるんだから、お菓子の一つでも出せるようにしとくべきかな?前回は急だったから出せなかったけど。
「なんかあったかな……」
棚を開く。が、何も入っていなかった。んー、どうしよう……今から買いに行ってくるかな。
何がいいだろうか。女の子だし、甘いものがいいのかな?となると、ケーキかチョコか……チョコケーキだな!いやでも、嫌い説否めない……まあ、ケーキを何種類か買っていって、食べきれなければ自分で処理してもいいし、欲しそうならあげればいいか。
「……よし、行くか」
ということで、やってきたのは寮から八分ほどの、以前僕がマンションに住んでいたときの通学路にあるケーキ屋さん。店舗名は、『Le sucre Bijou』。たしか、フランス語で……砂糖、宝石?だった気がする。
「いらっしゃいませ」
女性の店員さんが、綺麗なお辞儀で出迎えてくれた。
ショーケースを見ると、ショートケーキやらチーズケーキやらモンブランなど、何種類ものケーキが並んでいる。
どれがいいんだろうな……店員さんに聞いた方が早いか。
「すみません、一緒に食べる人がどんなのが好みかわかんない時って、どれ買ったらいいんですかね?」
「そうですね……それでしたら、まずオーソドックスな苺ショート、あとはチーズケーキとフルーツタルトですね。この三つを買っておけば、甘いものと酸っぱいものが両方食べれないという方でない限り、食べることは出来ますので。後、モンブランでしたら和風なので先に言ったものが食べれなくても、食べれると思います」
なるほど……なら、全部買っていけばいいか。
「じゃあ、今の四種類を一つずつと、チョコケーキをお願いします」
「かしこまりました」
五つだから、二千円くらいか。
その後は、コンビニでジュースを買って帰った。
寮に着き、自分の部屋に入る。ちゃんと手洗いうがいをして、ケーキとジュースを冷蔵庫にしまった。
「さて、と……」
先に教材を出しておこうと思ったが、今日はなんの教科をやるのか分からないので今は何も出さないでおいた。
「どうするかな……」
やりたいことはいっぱいあるけど、後に予定があると、時間があってもなんだかやりたいことをやらない時ってあるよね。今、そんな感じ。
「うーん……」
なんとなくゴロゴロしながらスマホを触る。
「……お、ナインきてる」
送り主は、白撫さんだった……あれ?いつ交換したんだろう。ま、いいや。僕が覚えてないだけだろう。
「えーっと、なになに?」
『吾野 翔太君に、一ノ瀬君の連絡先を教えていただき、追加させていただきました』
あぁ、翔太からか。納得。
『補習なのですが、毎日午後五時半から始めようと思います。今日はこの時間に伺いますので、何か不都合がありましたらその時に』
五時半か。翔太が言ってたのよりも、余裕あるじゃん。少しぐらいならゲームできそうだな。
って、五時半まであと二分くらいしかない!まあ、することないんだけどさ。勉強はしたくないよ。
そんなことを考えていてもいなくても、時間の進みは変わらないもので、少し経つとドアフォンが鳴る音が聞こえた。
「はーい」
誰が来たかを確認する。映っていたのは、案の定白撫さんだった。着替えるつもりはなかったのか、制服を着ている。
僕は玄関まで小走りで行き、鍵を開け、ドアを開ける。
「どうぞー」
「お邪魔します」
白撫さんがペコリとお辞儀をし、中に入ってきた。ちゃんと、靴も揃えている。
「あ、昨日とおんなじところに座ってね」
「はい、失礼します」
やはり、綺麗な所作で座る白撫さん。それに続いて、僕も座る。
「では、始めましょうか」
第二回(本来なら第一回のはずなんだけど……)の補習が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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