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六十三話 見てはいけないものを、見たくないものを

「次はどれにしましょうか」


 ひとつ目のアトラクションを終えた私たちは、出口付近のベンチに座ってマップを開いています。


「白撫さんはどれがいい?俺はそれに合わせるよ」


 と、言われても先ほど合わせてもらったのでここでまた私が主張するのもおかしいと思います。


「いえ、次は春原君の行きたいところにいきましょう」

「わかった。なら、ジェットコースターに乗ろう」


 そう春原君が言ったことで、私たちはジェットコースターのアトラクション『cyclone jet』へ向かうことにしました。


「これですか……」

「そ、そうみたいだ…………」


 声を震わせながら言った春原君の方を見ると、彼は若干頬を引きつらせていました。

 春原君の視線の先にあるのは、大きな円。それも三連続で、車両があそこを走れるのかが不思議になるレベルの壮大さです。なんだかワクワクしてきますね!


「では、行きましょう!」

「え…………わ、わかった」


 とはいえ人気のジェットコースター。待ち時間は二時間もあります。いえ、これでも短い方なのではないでしょうか。わくわく…………


「そ、そうだ白撫さん。これが終わったらちょうどいい時間になりそうだし、お昼にしよう」

「いいですね。でも、大勢の人が同時に押し寄せるのでは?」

「と、みんな思って時間をずらすから逆に空いてると思うんだけど」


 まあ、こういうところの食事処ではいつの時間帯でも混んでいそうなのでいつでも同じような気はしますが。わくわく!


「では、そうしましょうか」

「あ、あぁ」


 そう話をしながら待ち時間を潰していると、ふと春原君がとあることを私に聞いてきました。


「白撫さん」

「はい?」

「…………白撫さんとあいつ……一ノ瀬 良夜(いちのせ りょうや)とはどんな関係なんだ?」

「関係……」


 そう言われれば、どんな関係なのでしょう?教師と生徒のような?それともお隣さん?はたまたクラスメイト?どれをとってもなんだか違う気がしてなりません。


「よくわからないです」

「よく、わからない……?」

「はい。他のクラスメイトと比べれば大分親しい方だとは思うのですが……いつも会うのは勉強を教えるからですし、別にお付き合いをしているわけでもなければ、同じ趣味があるわけでもないんです。なので、どんなと言われてもハッキリこれだとは言えないです」


 そして最後に、まあ別にどんな関係でなくても一緒にいられるのではあれば気にはしませんが、と付け足しておきました。


「…………そうか」

「はい」


 それから、少しの間の沈黙。そして、春原君がまた口を開きます。


「もし」


 その顔には、少し歪みが見られるような気がしました。


「一ノ瀬が誰かと付き合ってたらさ」


 直後、彼は信じられないほどの笑顔で。


「––––––––どう、思う?」


 それを聞いた瞬間、胸に形容し難い衝撃が走りました。


「…………どう、とは?」

「数日間学校で見てて思ったんだけどさ、白撫さんって一ノ瀬のことが好きだと思うんだ。自覚してないだろうけど」

「へあっ!?なっな、何を言ってるんですか春原君は!」


 好き……好き?私が?一ノ瀬君を?………………はっ!


「…………そうかもしれないですね。というか、間違いないです……」

「…………み、認めるのか」

「? だって、否定する意味もないじゃないですか」


 私の言葉に、春原君はまあいいか、そう言って俯きます。


「…………その気持ちを自覚したのなら」


 今度は、私の方を向いて。


「辛くなったら、話聞くから」


 そう、言いました。


「は、はい…………わかりました」


 …………正直、内心全くわかりませんでした。が、相談に乗ってくれるということなのでしょう。でも、何かあれば未亜に真っ先に言うと思うので、なんともいえませんね。


 それでこの話題は終わり、暇になると思われたまだまだあった待ち時間の最中、春原君はなかなかに聞き上手で話し上手のようで、全く退屈せずにお話できて楽しむことができました。いきなり告白してくる変な人だと思っていましたが、案外いい人なのかもしれません。


「あ、もう次で乗れそうですね」


 見ていたところ一回で八人が乗れる仕様になっていたので、列の先頭から九番目(二列で並んでいて、十九人目)の私たちは次の回の先頭になるでしょう。

 そして、程なくして次の車両がやってきました。


「では、おすわりになられましたら安全装置を最後にカチッというまで下げていただいて……はーいオッケーです、では、行ってらっしゃーい!」


 左隣で小刻みに震えている春原君をチラ見していると、だんだんと視界が開け、車両が昇っていっているのがわかりました。


「う、うう…………」


 春原君は目を瞑り、小さく呻き声を上げています。なんだか面白いですね。


「……苦手ですか?」

「…………いや、別に」

「なら、良かったです」


 そこまで喋ると、ジェットコースターは止まり……やがて、急に速度を増して下っていきました。


「うわぁぁぁぁぁぁああああ!」

「ふふふふふ!」


 初めてジェットコースターというものに乗っていますが!とても気持ちいいですね!

 ですがそれはすぐに止み、再び上昇。どうやら、ついにあの三回転がやってくるようです。


「わくわくしますね!」

「は、ははは……」


 春原君……顔の色素が薄くなってきている気が……?

 しかし声をかける暇も無く、車両は急降下をはじめて……


「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 春原君の叫びが、青空に響きました。それも、四回ほど。

 その四回が終わり、ジェットコースターから降りると、彼は邪魔にならないところで蹲りました。ずいぶん長いアトラクションでしたし、気分が悪くなっているのでしょう。


「あの、大丈夫ですか……?」

「…………大丈夫だ」

「遠いとは思いますが、ここを行ったところにトイレとベンチが揃っているところがあるのでそこで休みましょう?」


 私は春原君に合わせつつ、そこへ向かうと、そこには………………


「……………………ぁ」

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