六十二話 shooting ghost
「お二人で?」
「はい」
「かしこまりましたこちらへどうぞー!」
キャストさんに促され、僕らはトロッコに乗り込む。一応トロッコは二人が二列で四人がけだけど、僕と小鳥遊さんが前の列に二人で座ったのみ。まあ、そりゃそうか。
「では、説明を始めさせていただきます。ゴーストバスターのお二人は街の人からの依頼で洞窟に蔓延るこわ〜いゴーストを退治することになりました!そのピストルで、たくさんたくさんゴーストを打ち抜いてくださいね!でも、注意が必要です。洞窟内は整備されていないので急降下したりガタガタと揺れたり!ゴーストたちも攻撃してくるので、くれぐれもトロッコから落ちないように、しっかりとその安全装置をつけて外さないようにしてくださいね!」
キャストさんがそこまでいうと、トロッコはゆっくりと進み始めた。
「では、行ってらっしゃーい!」
その声と同時に、トロッコは加速を始めた。
「わくわくするね!」
小鳥遊さんはピストルを持ち、少し格好つけながら「全部撃ち抜いちゃうぜ!」とテンションを上げていた。
『…………果敢な勇者よ……』
「ひっ!」
突然聞こえてきたおどろおどろしい声に、小鳥遊さんは小さく悲鳴を上げた。
『ゴーストを討ち…………我に力を示せ…………そうすれば………………褒美を授けよう……』
「! ご褒美だってりょーくん!頑張ろうね!」
「うん、そうだね」
そこまで言葉を交わすと、あちこちから冷たい風が吹いてきた。
「ひうんっ!」
「だ、大丈夫?」
「う、うん」
若干暗いながらも小鳥遊さんの表情はしっかりと見て取れた。どうやら、こういう感じのは苦手らしい。
ゴゴゴゴゴ…………
トロッコが軽い傾斜に差し掛かると、地面が揺れるような音が響いた。
ふと、正面になにかを捉える。
「小鳥遊さん、あれ」
「…………うてえいっ!うってうってうちまくれ!」
それは、ゴーストだった。白いモヤのようなものが左右に動いている。しかし、それには赤い円が付いており、明らかに狙えという雰囲気を醸し出している。
「うん!」
僕と小鳥遊さんは二人でピストルを構え、トリガーを何度も引く。どうやらリロードは不要なようで、どれだけトリガーを引いても弾が切れたような感触は無い。
「おっ」
傾斜によりだんだんと加速してきたところで、赤い円は消えた。なんとか倒せたみたいだ。
「! りょーくん右っ!」
その声に、僕は弾かれたように右に銃口を向ける。
パンパンパンッ!
トリガーを引くと軽快な音と共に、ゴーストは呻き声を上げて倒れた。
トロッコはカーブに差し掛かり、減速しつつもその進行を止めることはない。
「お、めっちゃいる」
カーブの内側には数体のゴーストがひしめき、激しく主張している。
「りょーくん!」
「おっけ」
僕は安全装置が許す範囲で体を傾け、二人で沢山のゴーストを討伐していく。
「あれ?あいつあたんないね」
小鳥遊さんが不思議だという風に首を傾げた。あいつ、というのは一番奥にいるゴーストのことだろう。なぜだろうと考えているうちにトロッコは進み、そのゴーストを倒すことは叶わなかった。
「一体倒せなかったね」
「仕方ない仕方ない」
そう言っていると、なにやらトロッコを併走する物が。
「あっ!こいつさっきのゴーストだよ!」
「撃ってみる?」
小鳥遊さんはピストルを構えたが、それと同時にトロッコはジェットコースターの様に急降下を始めた。
「うえぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎」
「きゃぁぁぁぁぁぁ‼︎」
僕らはシンクロしたみたいに悲鳴……いや、小鳥遊さんは若干楽しそうにしながら声を上げた。
プシューッ‼︎
左右から白煙が上がり、トロッコは徐々に勢いを失っていき、僕がいつのまにか瞑っていた目を開けたときには止まっていた。
そして、僕らの目の前には。
「でっか…………」
立体の、高さ6〜8メートルくらいのゴーストが佇んでいた。
「うてうてー!」
驚く僕とは違って小鳥遊さんは大きさをこれっぽっちも意に介さず銃口を赤い円に向けていた。僕もそれに倣ってピストルを向ける。
パンパン、と弾を撃っていると輝いていたゴーストは光を失い、やがて沈黙した。
「いえーい!」
僕と小鳥遊さんがハイタッチを交わすと、トロッコは再び進み始める。それからは軽いジェットコースターの要素くらいでアトラクションは終了した。
「ふー‥…楽しかったね!」
まだ覚束ない足を地につけながら、小鳥遊さんはにこりと笑う。
「あんなに激しいとは思わなかったけどね……」
余裕そうな彼女とは違い、僕は満身創痍といった感じだ。だってそうでしょ、いきなりガッタンゴットン揺れるんだよ?誰だってそうなるはずだ……目の前になってない人がいるけどさ。
「おかえりなさーい!では、こちらへどうぞー!」
トロッコを降りた先にいたキャストさんが、僕らを何処かへ促す。連れて行かれたのは、壁が窪んだ場所。そこには、縦長の画面があった。
「なんだろうね」
二人で画面をまじまじと見つめながら待っていると、暗かった画面がだんだんと明るくなってきた。
『よく無事に帰ってきた。そして、沢山のゴーストを討ち倒したその力を称え、ここに褒美を』
現れた骸骨はそう言うと再び消え、今度は下から文字が上がってきた。
『おめでとう!』
急に女性の声が聞こえ、また画面が切り替わる。
『したからチケットを取ってね!』
そう言われて下を見ると、右側から紙が出てきているのが見て取れた。
「なんのチケットだろ」
そう言いながらチケットを取り、脇に逸れて二人で見てみる。そこには地図があり『ここで景品と交換してね』と書かれていた。
「行ってみよ!」
小鳥遊さんが歩き出したので、僕もそれについていく。
「ここか」
そこは飲食店で、ウエスタンを醸し出すエクステリアとなっていた。
「いらっしゃい」
店内は多くの人で賑わっており、カウンターの中には髭をはやしテンガロンハットをかぶったおじちゃんが立っていた。
「えっと、このチケットって」
「あぁ、それなら向こうだぜボーイ」
「あ、ありがとうございます」
なんというか芝居じみた接客にちゃんとしているなぁと感じつつ、僕らは教えてもらった方へ向かう。
「いらっしゃいませ」
こちらには女性がおり、周りに溶け込んだ服装だ。
「チケットをお持ちでしたらこちらの景品と交換することができますよ」
「だって」
それを聞いた小鳥遊さんは、ショーケースの中をじーっと見つめている。
「どれにする?」
「へ?あ、私は別に誰でもいいよ?」
遠慮する様に言った小鳥遊さんは、それでもショーケースの中をチラッチラッと見ている。
「いいよ、小鳥遊さん選んで」
「ほんと?じゃあ……これがいいな」
小鳥遊さんが選んだのはシルバーのペアリングだった。シンプルなデザインで、特になにが付いているわけでもない。
「これでいいの?ネックレスとかあるけど」
「でも、それはひとつだもん。私、りょーくんとペアルックがいいな……」
「そ、そっか」
そのやりとりを聞いていたからか、キャストさんはこっちを見ながらニマニマしている。
「じゃ、じゃあそれで」
「はーい」
僕はチケットを渡して指輪を二つ受け取り、片方を小鳥遊さんに渡した。が、彼女はそれを受け取ろうとはせず、こちらに両手を出した。恐らく、付けろということなのだろう。なぜだかキャストさんの圧力も感じるし、ここは従っとこう。
とはいっても、どこに指輪をはめるとどんな意味があるのかとかわかんないし……結婚するとき左手薬指にはめるのは知ってるけど。
「どの指にはめてくれるの?」
なんだか面白がりながらこっちを見つめてくる小鳥遊さん。またいじられているんだろうか。でも、ここで反撃だといって左手薬指にはめるのは流石に違う気がする……どこにしよう?
僕は直感で右手の薬指にはめた。
「!……えへへ、りょーくんったら」
「え?」
「素晴らしいです」
なぜかキャストさんは拍手し始め、小鳥遊さんは顔を赤くしている。なんだ?なにがあった?
「じゃあ、私もつけてあげるね……」
そう言った小鳥遊さんは僕から指輪を奪い、僕の右手の薬指にはめた。
「あ、ありがとう……?」
その意味を終始理解できず、僕らはお店を出た。本当になんだったんだ……




