五十八話 襲撃②
時は少し遡って、一ノ瀬君と小鳥遊さんが一番に走って行った時。
「白撫さん、俺たちも行こう」
「は、はい」
私としては一ノ瀬君と行きたかったのですが……
そう思いながら私が歩いて行こうとすると、春原君はおもむろに手を差し出しました。
「?」
「俺がエスコートするよ」
「いえ、大丈夫です」
というか、男性とは不用意に手を繋ぎたくないものです。
「そ、そうか」
「ええ」
春原君は少ししゅんとしながら「行こう」と言って歩き出しました。私はそれについていきます。
「まず、どうしたい?」
どうしたいと言われても……
「では、全部片っ端から乗りましょう」
「わかった」
まだ出会って一週間の人とは何をどうしても楽しみきれるとは思わないので、アトラクションを楽しむのが無難でしょう。
「まずはアレか」
そう言った春原君は『night of horror』と血塗れの文字で大きく書かれたアトラクションを指差しました。
…………まずいですね。あれは恐らくお化け屋敷。あり得ません。べ、別に怖いのが苦手とかそういうんじゃないんです。違うんですけど、その、やっぱり、ああいうのは中盤で行くべきだと思うんですよ。というか、暗がりで年頃の男女が二人っきりとかダメでしょう?となると、アレはありえませんね、ええ。
「いえ、あっちからいきましょう」
私が指さしたのは『river adventure』という名前のアトラクション。名前的に、川を探検するんでしょうか。
「わかった、いこう」
「…………あの」
ここで私は少し気になっていたことを聞くことにしました。
「なんだか、視線が集まっている気がするのですが」
普段外に出る時よりも多くの視線がこっちに向けられている気がしてなりません。
「…………俺、変装完璧だよな」
「一応」
「白撫さんが目立つからとかじゃ」
「いえ、いつもよりも視線が多いんです」
「まあ、気にしても仕方ないよ」
私たちは視線を無視してアトラクションへ。春原君がファストパスというものを取ってきてくれたおかげで十数分待っただけで乗ることができました。
「お二人ですかー?」
「はい」
キャストの方が人数を確認し、ボートを象った乗り物へ乗るように促します。
私たちはボートに乗り込み、シートベルトを着用しました。
「では、行ってらっしゃーい!」
洞窟から発進したボートは、ゆらゆらと揺れながら進んでいきます。
時々冷たい風が吹き、ぴちんと水が滴る音が聞こえてきます。
これは…………ちょっと、怖いですね……
「白撫さん大丈夫?」
「……ええ、心配ありません」
私は強がって嘘をつきました。
しばらく揺られていると外に出て、視界が一気に開きました。そこは木々が鬱蒼としげるジャングルで、あちこちに猿や鳥がこちらをじっと見つめています。
「おお…………」
「すごい再現度ですね……」
最後は川から魚が跳ね、水の中を除けば魚がボートに沿って泳いでいるのがわかりました。恐らく模型なのでしょうが、どういう原理なんでしょう。
「ふぅ……」
「なんだか、ワクワクしますね」
未だ足元が揺れている感覚にとらわれながら、私たちは建物を出ます。すると、何やらたくさんの機材を持った集団が私たちの方へ勢いよく近づいてきました。マスコミの方でしょうか。
「あの!」
「は、はい」
「春原さんですよね!」
なぜバレたのでしょう。帽子を深くまでかぶり、マスクをして顔を隠していたのに…………あぁ、かなり顔を隠しているから逆に気づかれたんですね。
「違います」
春原君はキッパリと否定しました。
「そ、そうですか、失礼しました」
マスコミの方々は若干渋い表情をしながら「あっち!」「むこう!」と、各方面に指示を出して探し始めました。そこまでして見つけたいものなのでしょうか。というか、なぜ春原君がここにいるという確信があるのでしょう?
「俺とあいつ、セットで見られてるんだよ」
「なるほど」
少しだけお話しして、他のアトラクションへ向かおうとしたところで、再びインタビュアーさんに声をかけられました。今度は、私に。
「あの!」
「な、なんでしょう」
「モデルさんですか!」
「ち、違いますが」
「では、今後どこかの事務所に所属される予定は?」
「い、いえ、全く」
「それほどの美貌でありながらなぜ!」
「え、ええと」
「あと、肩あきのトップスにほんの少し短めのプリーツスカートという可愛らしいコーディネートをされていますが、デートですか?」
「あの……」
私が返答に困っていると、春原君が手を引いてくれました。
「すいません、もういくんで」
「へ?あ、あの、もう少し話を!」
「行こう」
「は、はい」
インタビュアーさんから遠ざかっていくのを感じながら、頑張った『可愛らしいコーディネート』は一ノ瀬君が見ても可愛らしいのかということが頭の中で渦巻いていました。
「…………いいと思う」
「へ?」
「服、可愛いと思う」
「…………ありがとうございます」
露出度的にとても頑張ったので、後で一ノ瀬君に見てもらいたいです。いえ、春原君が嫌なのではなく、一ノ瀬君がいいのです。
そう考えながら、次のアトラクションへ向かいました。




