第四話 第一回補習と学校にて。
10/10 白撫さんのセリフを一部改稿しました。
「では、始めましょう。教材を出してください」
あー、勉強かー……いやだないやだなやりたくないなぁ……
「早くしてください」
「はいはい」
僕は嫌々本棚から数学を取り出した。
「では、始めましょう」
よし、勉強を少しでも先延ばしにするんだ!
「はい先生」
俺は左手をあげ、質問の態勢に入る。
「どうぞ」
白撫さんは右手をスッと差し出し、僕を当ててくれた。
「教師っていったら、あかぶちメガネにタイトスカートじゃないですか〜?」
「ふざけてるんですか?」
「すみません始めてください」
「はぁ……真面目にお願いしますよ」
「……で、ここでYにαを……って、聞いてますか、一ノ瀬君?」
…………
「いーちーのーせーくーーん?」
「ぬはっ!」
だめだ。僕の意識は……
「起きなさいっ!」
「おはようございますっ!」
おっと、危ない危ない。寝てしまうところだったよ。
「あなた、やる気はあるんですか?」
そう言いながら、白撫さんはジト目で僕の方を見つめてきた。
「い、いやー……そのですね、普段ならこの時間にはもう既に寝ているんですよ」
現在時計の針が示すのは、大体でいうと十時十五分。
実を言えば、僕は本当にこの時間に寝ている。
「そうでしたか……では、続きは明日やりましょう」
よかった。どうにか勉強せずに済みそうだ。
「まあ、ご褒美は無しですが」
「ま、まあ、寝ちゃったからね」
特にいらないご褒美を貰ったって……ねぇ?
「では、私はこれで。おやすみなさい」
「あ、うん。おやすみ」
白撫さんが出て行ったのを見て、僕はベッドに飛び込んだ。
「あー……」
なんかちょっとおかしいなと思い、一旦冷静になって考える。
「はっ!」
そうだ!わかったぞ、違和感の正体がっ!そう、それは……
「僕の部屋に、女子!?」
これは、進歩である。男としての!例えるなら、ナカリピテクスからホモ・サピエンスになったようなものだ。
「す、すごいぞ、僕っ……!」
というか、夜に男の部屋に入るとか、警戒心なさすぎじゃないか?いや、僕が男らしくない?それとも懐にスタンガンか何か……あ、教務係だから、責務を果たすために……みたいな感じか……制服着てたし、警戒心はガッチガチ?……
と、そんなことを考えながら、僕は意識を手放していった。
◆
「はぁ〜〜……」
自室で、お気に入りのみゅうたんを抱きながらこてん、と寝転がる。みゅうたんというのは、この亀さんのぬいぐるみの名前である。
「まったく、一ノ瀬くんは何故あそこまで勉強することを嫌がるのでしょうか……」
そうぼやきながら、もう一匹、ひゃーくんに手を伸ばして引き寄せ、二匹一緒にぎゅっ、と抱きしめた。ひゃーくんとは、クマさんのぬいぐるみで、こちらも同じく私のお気に入りさんだ。
「ふぁ〜……ふわふわ」
おそらく、今の私は緩みきっている。初めての仕事を終えたからだろう。
「ねえ、どうしたら一ノ瀬くんが眠くならないように教えられるのでしょうか。みんな、教えてくれませんか?」
みんなとは、棚や枕の横、壁や小さなソファの上に座っている、私のお友達のぬいぐるみたちである。
「……なーんて、ぬいぐるみに話しかけても、答えが返ってくるなんてことあるわけないですよね」
二匹を抱きしめながら時計を見ると、時刻は十時四十分を迎えようとしているところだった。
「……さて、そろそろ寝ようかな……」
二匹を元の位置に戻し、抱き枕サイズのしゅーさんーーこっちはヘビさんのぬいぐるみーーを抱きしめ、目を瞑る。
「おやすみ、みんな」
◆
「で、昨日はなんの話があったんだ?」
教室に入り、席に着くと翔太がそう聞いてきた。
言ってしまっていいのだろうか。一応、裏委員会なんだよな。ま、いいや!
「えっと、言うなとは言われてないけど、一応言わないでくれよ」
「ああ、わかった」
了承も得られたし。
「えーっと、僕に教務係がついた」
「……ドンマイ」
えっ、教務係ってドンマイなのか。
「な、なんでドンマイ?」
「いや、だってお前、家でも勉強させられるんだぞ?お前からしたら地獄だろ」
……確かに!気づかなかった!でもさ。
「ずっとやるわけじゃないだろ?」
「何言ってんだ。教務係ついたってことは、お前今寮にいるわけだから、学校から一分半くらいだろ?で、そっからずっと勉強だ。ゲームとか一切できんぞ」
は?なにそれ聞いてない!
「え、どうしたらその地獄から抜け出せるんだ!?」
「いや、知らん。まあ成績が良くなればそのうち抜け出せるんじゃないか?確信はないけどな」
「な、なるほど、その手があったか……」
この方法を聞いて、僕は決心した。
「僕、勉強ガチでやるわ」
「そうか、頑張れよ。わかんないところあったらいつでも聞いてくれ」
こ、これは……かなり心強いぞ!なんたって、翔太は学年七位で、白撫さんは一位だ!楽勝楽勝!
「そ、その、楽しそうなところに水を差すようで悪いんだが……」
「ん?なに?」
「や、その……次のテストは来月だってこと、忘れるなよ?」
「…………あっ」
なんてことだ!僕のゲームが!アニメが!読書が!……まて!
「なあ、ラノベだけは読めたりしないかな?国語の勉強ってことで」
「……お前、天才かよっ!」
「だろ!?これ絶対いけるって!いやっほう!」
と、僕たちが盛り上がっていると、右から凛とした声がかけられた。
「そうですね、いけましたね。私が聞いてさえいなければ」
「…………oh」
こうして、僕の『補習中、国語の勉強としてラノベ読んじゃおう大作戦』はわずか一分も経たずに崩れていったのだった。
「放課後は、みっちりやりましょうね」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日は、気分であと一本投稿するかもです。
よろしくお願いします。