二十四話 白撫さんとお出かけー⑤
「ぁ…………」
その笑顔をみて、僕は固まった。あんなことがあって人というものを少し避けているのに、引き込まれてしまった。惹かれてしまった。
「? どうしました?」
白撫さんにそう声をかけられ、意識を取り戻す。
「あ、あぁ。ごめん、なんでもないよ」
「そうですか。じゃあ、ご飯買いに行きましょう?」
「うん、そうだね」
とりあえず、机の上に買った教材を置いて、席をキープしておく。
「よーし、何食べようかな……」
「「ごちそうさまでした」」
僕らは箸を置き、手を合わせてそう言った。
ちなみに僕はうどん、白撫さんはきしめんを食べた。
「じゃ、片付けて帰ろうか」
「ですね」
トレーを返してフードコートを出る。出た時に、ふと思ってしまった。あ……ゲーセン行きたいな、と。思いついたら即実行!
「し、白撫さん。ゲームセンター寄りたいなー、なんて思ったんだけど……いいかな?」
その提案を聞いた白撫さんは、はぁ……と小さくため息を吐いた。
「しょうがないですね、少しだけですよ」
なんだか、白撫さんが少しソワソワしてる気がするけど……気のせいかな。
「よーし、いこう!」
ちなみに、ゲームセンターはフードコートとの間に二つ店舗を挟む。同じ階にあるので移動も楽だ。
「さ、あ、て!何取ろうかなー!」
取る。そう、クレーンゲームだ。ゲーセンに来てやることといえば、これ一択。いや、一択ではないけど、僕が一番好きで、一番自信があるのがこれだ。
「っっっ!」
と、隣にいた白撫さんがしゅたたっ、と左前方のクレーンゲームへと走っていった。ど、どうしたんだろう?
「どうしたの、白撫さん?」
僕もそっちへ言って声をかけると、白撫さんはずいっと僕の方へ寄ってきた。
「み、みてください!凄く可愛くないですか!?それに、こんなに触り心地がいいんですよ!取るしかないですね!わたし、本気でいきますね!」
「う、うん、そうだね……」
白撫さんがサンプルを手でもにゅもにゅしながらもう片方の手で指をさしたのは、丸い球体型のクジラのぬいぐるみだった。
……白撫さん、クジラが好きなんだろうか。それとも、ぬいぐるみが好きなんだろうか……いや、動物が好きなのかもしれないな。
と、白撫さんがプレイするのを見ながら考えていた。
考えていたんだけど。
「ねえ、白撫さん?一向に取れそうにないね」
「い、いえ、そんなことはありません……この一回で……あぁっ!?」
真上からクジラを掴んで、持ち上げる……そして、落とした。そのクジラは、落下口とは真逆の方へ転がった。
「う、うぅ〜……も、もう一回……」
この勢いだと散財しかねないな。
「白撫さん、貸してみて」
「はい?」
僕は初期位置に戻してもらった後、自分の財布から二百円取り出して、入れる。
まず、落下口がある左に寄せるために一回操作する。
ちなみにこのクレーンにはツメが三本あって、時計でいうと十二時(奥)八時(左)四時(右)の方だ。
一回目に、右の一つだけクジラに当てて左に転がしてやった。ただ、当てるのは奥の方。このクジラには後ろに手がついてるから、そいつに引っ掛けてやると、回転して左側にタグが来る。タグっていうのは、よく服とかについてる画用紙のことだ。値札とかね。
この台は落下口に壁があるから、ただ左に転がすだけじゃ落ちない。そこで、タグにツメを通して、持ち上げてやる。すると、持ち上がるよね。
上まで持ち上がると落ちる。これはさっき白撫さんがやってるところを見て知った。
そして、この位置だと落ちる時に落下口の壁に当たるんだ。となると、後は運かな。右にバウンドするか、左にバウンドするか。そして、その方向は……
『おめでとーございまーす!』
景品が落ちた時にクレーンゲームから発せられる女の子の声が聞こえた。つまり、左に落ちた。
「はい、どうぞ」
僕はクジラを取って白撫さんに渡す。
「へ?い、いいんですか?」
白撫さんはきょとんとしている。
「うん。プレゼントだよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って僕からクジラを受け取り、抱きしめる彼女はやっぱり可愛かった。
これは余談なんだけど、僕のプレイを見た白撫さんが「あれとあれも取ってください」と言って僕を使役していた。どうやら、白撫さんが好きなのは可愛いぬいぐるみのようだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
クレーンゲーム……この通りに操作して、本当にそうなるとは保証も保障もできません。ご了承ください。
そんなことより、彼女にぬいぐるみを取ってあげられる男になりたいですね。