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第二話 プロローグ②

「ただいまー……まあ、誰もいないんだけどな」


 僕の家は、学校から歩いて十分ほどのところにある、マンションだ。高校に通うにあたり、僕は一人暮らしをすることになった。

 ウチは共働きで、二人とも倹約家なので貯金の残高がすさまじいことになっており、経済的に余裕はあるので、毎月十五万ほどの仕送りを貰っている。ちなみに、光熱費、家賃はべつで、だ。まあ小遣いは貰えないので、節約して買いたいものをたくさん買っている。


「もうこんな時間か」


 時計を見ると、四時半だった。

 僕は鞄を机の上に置き、干してあった洗濯物を取り込んで畳み、引き出しに仕舞う。

 次に、軽く掃除機をかけ、明日用の制服にアイロンをかけた。


「さて……この時間だと、そろそろ安くなってるかな」


 一通り家事を終えて時計を見てみると、時刻は六時過ぎだった。ここからスーパーまでは徒歩で十五分なので、向こうに着く頃には割引のシールがちょうど貼られていることだろう。


「よし、行くか」


 エコバッグをポケットに入れ、財布を持って制服を着替え、スーパーへ向かった。




「いらっしゃいませー」


 スーパーに入ると、特有の……なんだろう、りんごの匂いっていうか、青果の匂い?がふんわりと漂ってくる。その匂いにつられて自然と果物コーナーに向いてしまいそうなる足を、意識してお惣菜コーナーへと動かす。


「あらいらっしゃい」

「こんばんは」


 今カウンターの向こうから話しかけてきたのは、お惣菜コーナーのおばちゃん。毎日この時間に買いに来ているので、顔を覚えてもらえたみたいだ。


「毎日大変だねぇ……あ、今日安いのはあれだね、焼きそばだ」


 大変だ、そう言ったのは、おばちゃんが僕が一人暮らししているのを知っているから。この前少し話した時にその話題になり、そこから仲良くなった。


「ありがとうございます。じゃあ、今日は焼きそばにします」


 僕は手に持っている緑色のカゴに三割引のシールが貼られた焼きそばのパックを一つ入れた。


「んー……あとは……」


 サラダを買わないと。後、明日の弁当の食材もだな。

 僕はお惣菜コーナーを見渡し、ポテトサラダと野菜スティックをカゴに入れた。


「今日は鶏むねが安いみたいだよ、残ってるかわかんないけど」

「ほんとですか、ありがとうございます」


 一通りカゴに食品を入れた僕を見て教えてくれたおばちゃんにお礼を言ってから、僕は一目散に精肉コーナーへ向かった。


「あった」


 見ると、大きな文字で「広告の品!鶏胸肉百グラム三十五円!」と書いてある。これは買うしか無いッ!

 そう思い、無意識に小走りで棚まで向かったが……


「くっ……やっぱり、この時間だと広告の品はもう無い、か……」


 僕は諦めて冷凍食品コーナーで唐揚げをカゴに入れた。


「……うおっ!これは!」


 何気なく通ったふりかけコーナーで、とあるものが目に付いた。それは……


「梅しそこんぶ!やったぜ!前から食べたいと思ってたんだよね!」


 そう呟きながら、晴れた気分でカゴに二袋放り込み、レジへ向かった。




「いっただっきまーす!」


 家に着いた僕は、手洗いうがいの後、直ぐにゴトウのご飯をレンジでチンし、焼きそばとポテトサラダ、野菜スティックを机に並べた。


 まずは、野菜スティックから食べる。先に野菜から食べると太らないらしいよ。


「んま」


 キュウリが美味しい。付属のドレッシングによく合う。

 次はポテトサラダ。柔らかいポテトのなかに玉ねぎが入ってるけど、ツンと来ることなく、食感が楽しめる。そこへ、マヨネーズ独特の酸味。

 次に、焼きそば。これは、安定して美味しいだろう。なんせ、おばちゃんが作ってるから。

 僅か1分半くらいで、ポテトサラダに野菜スティック、そして焼きそばの四分の一ほどを食べ終える。すると、レンジの電子音が聞こえてきた。


「おっし!」


 僕はすぐさまレンジへと向かい、中のご飯を取り出した。


「あつつつ……」


 火傷するといけないので、急いで机の上に置く。そして、冷めないうちに。


「てれてれってれー!う め し そ こ ん ぶ〜!!」


 某青狸のように、ふりかけを高らかに上げる。


「投入っ!」


 僕はふりかけをたくさんかけ、一度上から袋をかけた。これは、ふりかけのジョリジョリ感を無くすためだ。僕はあれがどうも好きになれず、頭をフル回転させてどうにかしようと考えた。その結果が、これだ。ご飯の蒸気を閉じ込めて、乾燥しているふりかけを湿らせる。そうすることにより、唯一の欠点であるジョリジョリ感が無くなるのだ。まあ、科学的根拠も何もないから、これが理由だっていう保証はしないけど。

 少しの間待ち、経験則から割り出した適切なタイミングで袋を取る。正直これだけは全国一位取れると思う。ふりかけごはんミシュランみたいなね。


「いただきます!」


 まずは一口、口に放り込む。


「……うま、これ、めっちゃうま」


 梅の少し硬い食感に加えて昆布の風味、そしてしその味がいい。誰だよこれ作ったやつ。やるやん。

 そこから箸は止まることを知らず、勢いのままにたいらげる。そして、残った焼きそばも食べ終わった。


「ふー……美味しかった」


 さて、と寝転ぼうとしたところで、僕は立ち上がった。以前、このまま寝てしまったことがあったからだ。


「まずは、歯を磨くか」


 ちなみに、洗い物はいっさいない。箸は割り箸を使ったし、その他はパックだ。

 歯を磨き終わり、お風呂に入る。まだ五月なので、シャーだけだと少し寒いので、お湯を張る。

 お湯が溜まるまで特にすることも無いので、スマホをいじいじする。……おっ、翔太から連絡来てるじゃん。

 僕は、チャットアプリ『NINE』(ナイン)を開く。

 翔太とのチャットには、こう書かれていた。


『ちゃんと勉強しろよー』


 なんだこいつ!


 僕は自慢のフリックで『うるさいわい!』と送っておいた。まったく、誰が勉強なんてするか!

 それからテレビの録画一覧をみて、溜まっているアニメの消化順を決めたところでお湯が溜まった。


「おっし、はいるか」


 すぽぽーんになり、シャワーで頭を洗い、体を流してからお湯に浸かる。


「ふぃ〜……」


 目をつむって力を抜く。

 ……勉強、ねぇ……するわけない。しない理由があるわけじゃない……わけでもないし。

 それっきり考えるのをやめてひとしきり温まった。パジャマに着替えた頃にはすっかり眠くなっていたので、明日の準備だけして、眠りについた。




「よし、行くか」


 もーにんぐるーてぃーん(?)とかいうのを終えた僕は、靴を履き、持ち物を確認していざ学校へ向かう。


「テスト……返ってくんじゃん……やだなぁ……」


 思ったことを素直に口に出した僕は、重い足取りで学校へ向かう。

 少し歩くと、後ろから翔太のものと思われる足音が聞こえてきた。


「おーっすおはよー!」


「はよ」


「おっ、どうしたどうした!昨日よりテンション低いじゃねえか?」


「そりゃそうでしょ。テスト返ってくるんだぞ?」


 翔太は、あーと頭の後ろで手を組んで、


「まあ、昨日『勉強しろよー』って送ったけど『うるさいわい!』って送ってきたもんなぁ。悪いが俺にはどうにもできねえなあ……」

「ぐぬぬ……」


 こ、こいつ、突かれると痛いところばかり突いてきやがる!


「べ、別に成績なんて気にしないし!」


 そう言って、僕は学校へと走っていった。




「うぁ〜……」

「おーうお疲れー」

「うん……」


 なんとか、地獄を乗り切った。つまり、今日は残りがテスト返却のみ!


「ほら、飯食うぞ」

「そうだね」


 ロッカーからカバンごと席に持ってきて、弁当を取り出す。もうテストは無いし、カバンはこのまま机の横にかけておいても問題ないだろう。


「「いただきます」」


 あー、やっと終わった……あ、今日の帰りに提出の課題、まだ一つ写してない!


「い、急いで食べるぞ、翔太!僕まだ課題写し終わってない!」


 僕がそういうと、翔太は怯えたように、僕を見ながら言った。


「お、おい……良夜……う、後ろ見てみろよ……」


 言われた通りに後ろを見てみると、そこには鬼が立っていた。


「し、白撫さん……」

「こんにちは、一ノ瀬君。どうぞ、話を続けて?」

「……だって、でさ、課題────」

「いやバカだろお前!」


 な、なんでそんなこと言うんだ?今、続けてって言ったろうに。


「いきなりなんだよそんな大きな声出して」

「お前がなんだよ!?」

「僕は人間だよ?」

「……すまん、もういい」

「え、どういう……」


 そこまで言って、僕は理解した。後ろのハンターの狙いを。


「あ、あのー……白撫さん?」

「ふふっ」


 あ、笑った、なーんだ、大丈夫大丈夫……じゃない!目が笑ってない!やばいよ怖いよ!


「すみません」

「本当にわかってるんでしょうか。まあいいですけど……そういえば帰りに職員室に寄ってくれ、と日向先生がおっしゃっていましたよ。後、課題はやらなくてもいいそうです」

「はいはい、わかりま……まじで?」

「ええ、マジです。では、私はこれで」


 白撫さんは、教室を出ていった。


「お、おい、聞いたか翔太……ついに!僕の思いが先生に伝わったぞ!」


 所詮は人間!僕に勝てることはないんだな!はっはっはー!


「いや、課題やるより酷いことが待ってると考えたほうがいいと思うぞ」

「え?なんで?」

「赤点なんじゃないか?」

「わーお」




「一ノ瀬くーん」

「はーい」


 うおっ、点数悪っ。

 今は、六時間目の終わり。テスト結果、十教科合計三百ニ点。一教科あたり三十点ほどだ。


「あ、これも持っていってくださいねー」


 そう言われて渡されたのは、帯状の紙。そこには、各教科の点数、平均点、偏差値と順位が書かれている。


「うわぁ……」


 僕自身、順位欄を見てちょっと引いた。まあ、見るのは二回目なんだけどね。


 二百四十人中、二百四十位。


「おおう……」


 僕は特にがっかりするんでもなく席に戻り、正面に座る翔太の紙を見る。


「は?七位?こわ」


 やっぱりというかなんというか、予想通りトップテンに入っていた。


「いや、あれには敵わんて」


 そう言う翔太の視線の先には、テスト結果を受け取ろうとする白撫さんがいた。


「きゃーすごーい!白撫さん、また満点なのねー!」

「ありがとうございます」


 満点というのはおそらく十教科合計で言うところのものであり、また、というのは彼女が前回のテストで満点だったことを表している。


「そりゃ、そうだな」


 僕たち二人は、同時に窓の外を眺めた。




 コンコン、と職員室のドアをノックする。


「失礼します」


 中に入り、ひなちゃんせんせーを探す。

 ……お、いたいた。


「来ましたよ、ひなちゃ……日向先生」


 教員が多いのでなんとなくちゃんと名前呼ぶ。


「はーい、そしたら行きましょーか」


 どこへ行くのか聞く前にひなちゃんせんせーは歩き始めた。


「えーっと……ここですね」


 向かったのは、職員室の奥にある校長室だった。


「え、な、なんで……」

「ま、いいので入っちゃってください」


 ひなちゃんせんせーがドアを開け、渋る僕を校長室に押し込む。


「うわわ……し、失礼します」


 中には、立派なヒゲを口周りに生やす、校長先生が居た。


「ああ、そこに座ってくれ」

「し、失礼します」


 外見が『ザ・えらい男性』ってかんじだなぁ。


「うむ。ああ、そんなに緊張しなくてもいい。いや、緊張すべきなのかもしれんな」


 そう言われ、余計に緊張する僕。


「今日呼んだのは、君の補習の話だ」


 あー、翔太の言う通りだったな。


「はい」

「君は、九教科で赤点を取っているな」


 そう、九教科である。数学だけはギリギリセーフだったのだ。三十八点だった。それでも相当悪いけどね。気にしたら負けである。


「は、はい」

「そして、我が校では、赤点をとった者には補習を受けてもらっている」


 あー……つまり、補習するから土日に学校に来いってことね。


「ただな、九教科というのは、いささか多すぎる」


 おっとお? 流れ変わってきたぞ? なんかヤな予感するなあこれ。


「そこで、教務委員の彼女に君の勉強を見てもらおうという話になったのだ」


 きょ、教務委員? うちの学校にそんなのあったっけ……?


「入ってくれたまえ」


 そう校長先生が言うと、僕が入ってきた方とは別の扉から、凛とした声が聞こえてきた。


「失礼します」


 そこに居たのは────


「同じクラスだから知り合いだと思うが、一応自己紹介を頼むよ」

「はい。さっきぶりですね、一ノ瀬君。私は白撫しらなで まどか、あなたの教務係です。以後、よろしくお願いしますね」


 うそん。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

今日は、後二本か三本投稿する予定ですので、よろしくお願いします!

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